第六十八話 ウィザルからシードラへ
「あれが、大陸を分断している山脈ってやつか」
車の外には、雄大な山脈の景色が流れている。
運転は、すっかり慣れたキセキだ。
助手席はラウル。
俺、メイ、エイナは後部座席にいた。
しかし、山脈の存在感が凄い。
俺が見たことある、霊峰ライゼルとは——桁が違う。
雲の上まで伸びる山頂。
到底、人が登れる高さではないことが分かる。
まるで——世界を隔てるためにそびえ立っているようだった。
「霊峰ベレスタを筆頭に、五千メートル越えの山が並んでいます。熱心な山岳家は登る人もいますが……毎年かなりの数の人が命を落とします」
エイナが言った。
「超えたとしても壁があるので、アーカーシャにはいけないんですけどね」
俺たちは、大きく迂回をする形でアーカーシャを目指している。
海洋国家シードラ。
ランクは——B。
かなり発展しているということだろう。
「シードラに帰るのは、久しぶりですね」
エイナが呟いた。
「帰る?エイナはウィザル出身じゃないのか?」
俺は聞いた。
「出身はそうですが、今住んでいるのはシードラです。仕事柄、留守がちなので数ヶ月ぶりですが。
——この車もシードラ製ですよ」
エイナが答えた。
そう言えばそんなことを言っていた気がする。
「目的地は、シードラの首都、マルティアなのか?」
「いえ。まずは——ヴァレンティアに行きましょう。
シードラ海を渡る前に青帝、プルークに会っておいた方がいいと思います」
青帝。
六帝の一人が、シードラにいるのか。
「知り合いなのか?」
「はい。私が十八将になれたのは、彼のおかげとも言えます。世間知らずの私に、世界のことを教えてくれました」
——エイナの師匠みたいなものか。
どんな人なんだろう。
景色から、少しずつ都市の気配がする。
シードラ国ヴァレンティアに到着したのは、その日の夜だった。
「……まるで真昼間だな」
ラウルが呟く。
「明るすぎて、星も見えねえな」
ドラールのエデナでも十分驚いたが。
この街は——更に都会だった。
天まで届くかというような高い建築物。
張り巡らされた電気照明、そして人々の喧騒。
街を歩く人々は、みんなエイナが持っていた〝端末〟を手に歩いている。
「なんでみんなあの〝端末〟を見てるんだ?」
人々は、前ではなく端末を見ながら歩いている。
よくぶつからないな、と不思議に思う。
「端末は、電話であり、地図であり、カメラであり、辞書でもあります。——この小さな箱に、便利な機能がたくさん詰まっています。私も、シードラに来た時は驚きました」
異様な光景だ。
いくらそれが便利なものだとしても——こうも揃って端末に夢中になるなんて。
「ねえ、あれは?カジノ?」
メイが、派手な照明の店を指差した。
「あれは、ブティック——ただの服屋です。
カジノはもっと派手ですよ」
——街の明るさと色の多さに、めまいがしそうだ。
車は信じられないほど多く走り、まるで生き物の群れのようだ。
「早く青帝のところへ行こうぜ。ここにいると疲れる」
ラウルがげんなりした顔で言った。
同感である。
目を輝かせているのは——キセキくらいだ。
運転しながらも、辺りをキョロキョロ見回している。
「分かりました。このまま車で向かいましょう。
キセキ、車を止めてください。運転代わります」
間違いなく、このユグラシアはアルカディアよりはるか先の技術を持っている。
同時に、科学の最先端に近づくにつれ、思う。
文明が進むと、人は幸せになるのだろうか。
俺には分からない。
俺がこの旅で一番忘れられない景色は——
アイネと見た、夜光虫でいっぱいの湖だ。




