第六十七話 戦いの後、旅路の行方。
「派手にやりましたね……」
バクスターの惨状を見て、エイナは言った。
「治せるか?」
俺は、ブースターを送りながら聞いた。
「私、人殺しにならなくて済むかな」
メイがエイナに聞いている。
「……まぁ、やってみましょう。命は助けられると思います。アラタ、ブースターを、私の式にかけてください」
エイナは、緑の式力でバクスターの体を繋げ始めた。
俺はブースターでそれを増強する。
その間、ラウルとレイサスはギランを縛り上げている。
キセキは王宮に応援を呼びに行った。
唐突な敵襲だったが——なんとか乗り切ることができた。
しかし。
アーカーシャが、レイサスをクビに——なんなら殺しても構わないとまで言ったのは本当なのだろうか。
この二人に——確かめなくてはなるまい。
「バクスターにギラン、お前らは投獄することになるが——その前に。アーカーシャは本当にそう指示を出したのか?ウィザルを科学国家にする、と」
レイサスが、低い声で言った。
バクスターが答える。
——まだ、上半身だけの状態だ。
「……事実と解釈は違うかもしれないけどな。
詳しくはギランに聞け。俺は眠りたい」
それだけ言うと、バクスターは気を失った。
——血を流しすぎたのだろう。
これまで意識を保っていたのが不思議なくらいだ。
「——ギラン、事実を話せ。お前らの解釈はいらん」
レイサスは言った。
「私は……負けていない。あんな反則、認めてなるものか」
地面を見ながら、ぶつぶつ言っている。
——反則?
一体エイナとラウルはどうやってギランを倒したんだ。
ラウルが剣を握る。
「おい。話せよ。こっちも命をかけたんだ。
負けたやつにも、負けたなりの責任があるだろう」
ギランはその剣に怯えたように、身をすくめる。
「わ、分かりました。
アーカーシャは……私の提案を許可しました」
「提案?」
レイサスが聞き返す。
「ウィザルだけが科学が遅れている。進歩させないと、帝国のお荷物になる。私にやらせて欲しいと」
「……アーカーシャはなんと答えたんだ」
「科学を遅らせているのは、こちらの指示です。
ですが、もしあなたがレイサスを倒せるのなら、それもまた一つの流れ。もしそれがかなうなら、許可します。
ただし、国王は血族から選んでください、と」
科学を遅らせているのが——アーカーシャの指示?
初耳だ。
俺はレイサスを見る。
「……やはり、そんなところか。
全く意味が変わってくるな。
アーカーシャが、自らの方針を勝手に変えるとは思えない」
レイサスや過去の国王は——アーカーシャの意志に従って科学と距離をとっていたのか。
「いずれにしても、アーカーシャに行かなければならないな。ウィザルの方針について確認せねば。
しかし……この状況で国を放り出すわけにも……」
レイサスは呟く。
「叔父様。私が行きます。そして、確認してきます。
ウィザルの未来は——私の未来でもあります」
エイナが言った。
「しかし、お前はアーカーシャの中に入れないではないか」
レイサスが答える。
「六帝、もしくは六賢になるしかない」
「——大丈夫です。六帝は——元々、私の目標です。
六帝になるくらいじゃないと——どうせアーカーシャにたどり着けない」
エイナは語尾を強く言った。
たどり着く?
まるでそれが難しいかのような言い方だ。
この先——まだ困難があるって言うのか?
「叔父様、後で六帝や六賢になる条件を確認させてください。過去の事例で構いません」
エイナの決意を感じる。
レイサスは頷いた。
「……分かった。エイナに……いや、君たちに任せよう。私はこの国を守っておく。何か、予想もしない事態が動いているかもしれん」
——どうせ、俺たちの旅の目的地は同じだ。
アーカーシャ帝国で何が起きているのかは分からないが——国を蔑ろにされて、エイナは怒っているようだった。
俺たちは、その日はウィザルで泊まり、翌日に出発することになった。
その夜は、レイサスの計らいで王宮で宴が催された。
——こういう扱いを受けるのは、久しぶりだ。
初めて出会った人々——ユルガン族以来だ。
テムルは、そしてアイネの兄弟たちは、元気だろうか。
未知の大陸から来た俺たちを、温かくもてなしてくれた。
俺たちは、互いの修行の成果について話し合った。
「というわけで、オラディグとイグラスには相当世話になったわ。近々、道場について相談に来ると思うから、よろしくね」
メイは、レイサスに言った。
「あの二人が再び剣を握る時が来るとはな。
——私としても嬉しい限りだ。
それにしても、〝式術斬り〟は相当習得難易度が難しいと聞いているが……二人とも、よく一週間で身につけたな」
レイサスが答えると、ラウルは顔をしかませた。
「……あいつら、いいやつらなんだけど、修行は地獄だったぜ。二度とごめんだ。まぁ、そのおかげでギランを倒せたから良かったけどな」
ラウルが弱音を吐くなんて——相当厳しかったんだろうと想像がつく。
「お前らは?俺は全然見てねえけど——強くなったのか?」
ラウルは俺とキセキに言った。
「僕は、紫炎だけじゃなく、紫、赤も使えるようになったよ。アラタも、新技使ってたよね」
キセキは俺の方を見る。
「まあ、な。ブースターと、逆ブースターのディミニッシュ。あとは、ガーディアンの発動条件が分かったくらいだけど」
……地味なんだよなぁ、なんか。
メイやラウルの必殺技とか、キセキの多様性とか、そういうのが俺にはない。
毎度のことだが、なんだか少し焦る。
「……この先、もしかすると戦いが続くかもしれません。少なくとも、六賢と十八将を倒したことは、アーカーシャを通じて広まるでしょう。
——アーカーシャの真意が計りかねますが、万が一ウィザルを反逆国家とみなしたら——他の六帝や六賢が私たちを狙う可能性はあります」
エイナが言った。
「この先って、次はどこに向かうんだ?」
俺は聞いた。
「海洋国家シードラ。この大陸は山脈で分断されていて、そこを通らないとアーカーシャにはたどり着けません」
「海洋国家?船があるのか?」
ラウルが目を輝かせる。
「シードラは、内海の名前でもあります。
その海の中心にある島が首都マルティア。
——アーカーシャ最大の、娯楽都市でもあります」
娯楽都市、と聞いて、マルカドールを思い出す。
闘技場、カジノ。
いずれにしても、まだまだアーカーシャは遠そうだ。
「……コラルに戻らなくていいのか?」
俺は、ガゼリアの暑苦しい顔を思い出す。
「ガゼリアの相手している暇がありますか?」
俺は、首を振った。
ごめん、ガゼリア。
アイネを助けたら——約束を守りに戻るからな。




