第六十四話 六賢と、十八帝の来訪。
「ふむ……これは確かに凄まじいな」
俺の目の前には──レイサスが作りだした火球が浮かんでいた。
その火球そのものに、ブースターを込める。
直接は触れないので〝イメージ〟を送った。
瞬間、火球は倍以上に膨れ上がった。
あの時──ガゼリアと戦った時と同じだ。
「……式力の根源は人間由来だが……その供給源は自然。
だとすると……自然との繋がりを一時的に増幅する?
いや、しかしそれでは……」
レイサスは、顎に手を当てたままぶつぶつと独り言を言っている。
──研究者というのは、どこの世界でも同じだな。
「あの、レイサスさん」
「すまん。考え事をしていた。どうした」
俺が声をかけると、レイサスはこっちを向いた。
火球を訓練施設の地面に着弾させる。
「──俺の力、分かりましたかね?」
どこへ行ってもさっぱり正体の掴めない俺の式術。
糸口くらいは掴めたのだろうか。
「いや、さっぱりだ。アラタ、君はブースターをかける時どんなイメージをしている?」
「え。普通に、力を送っているだけですけど」
「ふむ。ちょっと試してみたいことがあるんだが──」
なんか、修行と言うより──レイサスの実験に付き合っているみたいだ。
キセキはキセキでエイナが付きっきりでスパルタ修行を行っている。
俺は、吐きそうな顔をしているキセキの顔を思い出す。
大丈夫かな、あいつ。
まあ、人の心配をしている場合ではない。
さっさと強くなってアイネを助けに行かないと。
──ウィザルに異変が訪れたのは、それから数日後だった。
「ほぼ確実にガーディアンは出せるようになったな」
レイサスが攻撃の手を止める。
──なんとなく、コツが掴めてきた。
まず、俺の意識の中で〝生命の危機〟を認識すること。
これに気づくのが、大変だった。
レイサスが緑の式を使えるからこそできる、ギリギリな挑戦の連続。
致命傷にならなそうな青から始め、黄、赤。
攻撃系式術は、全てガーディアンが発動した。
……毎度のこと、眼前に迫る式術に死を感じたが。
そりゃあ、アイネの投げる石程度じゃ発動しないわけだ。
アイネは——無事だろうか。
元気にやっているだろうか。
不安で一杯になる。
テムルさんたちにも——報告ができていない。
早く助け出し、ユルガンへ連れて帰らなくちゃ。
そんなことを考えながら、俺はレイサスとガーディアンの発現率を高める訓練をしていた。
訓練場に客が訪れたのは、その時だった。
「よう、久しぶりだな。レイサス」
金髪の男と、紫の髪の男。
その色が、二人を式術者だと表している。
歳は——レイサスと同じくらいだろうか。
「バクスター……それにギラン。
何しに来た。ウィザルはお前らの管轄外だろう」
レイサスは、冷たく言い放った。
──どうやら、望まざる客らしい。
雰囲気で、察する。
「随分冷たいじゃないか。従兄弟同士なのに。
昔は良く一緒に遊んだじゃないか、レイサス兄ちゃん」
バクスターと呼ばれた金髪が言った。
「……その呼び方はやめろ。お前はウィザロッド家と縁を切ったはずだ」
「切ったんじゃなくて、切られたんだよ。
——見る目のないウィザロッドの王族どもにな」
「……なんの用だ。お前は十八将になったばかりだろう。仕事があるはずだ」
「へえ。耳が早い。そう。その仕事なんだけど──ウィザルの国王をやれってさ」
その話を聞いて、レイサスは目を見開いた。
「なんだと……?それは──アーカーシャの〝意志〟か?」
レイサスの問いに答えたのは──ギランと呼ばれた男だった。
「そうです。レイサス、あなたは用済みです。
──どうやらアーカーシャはウィザルの科学を推進したいようですね。
国王にバクスター、科学推進大臣に私を指名してきました」
「ギラン……!貴様、暗躍したのか」
「さてねえ。ただ、自国に引きこもってばかりのあなたより、アーカーシャに頻繁に出入りをする私の方が、アーカーシャの〝意志〟は理解していると思いますがねえ」
ギランは含ませる言い方をした。
「そういうこと。というわけで、さっさと国から出てってくれよ。
早速科学国家づくりを始めなきゃいけないからさ」
バクスターが言った。
「バクスター……お前は自分が何をしたか忘れたのか?」
レイサスの問いに、バクスターは首を傾げる。
「何のことだよ。……ああ、厄介な盗賊たちのアジトを雷の式術で破壊したことか?
あれは気持ちよかったなあ。全員黒焦げだったしなあ」
「お前のようなやつを国王にするわけにはいかない」
「はあ?もしあれがダメなら……とっくに俺はアーカーシャの意志で犯罪者扱いをされているはずだろ?だが、おとがめなし。
つまり、アーカーシャは問題ないと判定しているわけだ。
それともレイサス。この帝国に生まれて──アーカーシャの意志に逆らうのか?」
「……そうは言っていない。ただ、確認をさせろ。
お前らの言っていることだけでは信用できない」
レイサスの言っていることももっともだ。
すべて──こいつらの嘘と言う可能性もある。
だが、バクスターは笑っている。
「レイサス。往生際が悪いぞ。
もしお前が素直に応じなかったら──殺しても構わないと指示が来ている。王位を追われ屈辱にまみれて生きるより——死んだ方がいいんじゃないか?」
「……そんな……バカな。アーカーシャがそんな判断をするわけが……」
「というわけで——死んでくれ」
バクスターは両手を挙げた。
ものすごい速度で上空に雲が集まっていく。
この光景に──既視感がある。
黄帝、サーラ。
ロイスを一瞬で影にした、あの式術。
「バクスター!!それは……!」
レイサスの顔に緊張が走る。
「フルグル」
バクスターが呟く瞬間、俺はレイサスに飛びつく。
怖い。
ロイスのあの姿が、脳裏に蘇る。
だが──俺なら、守れるはずだ。
凄まじい閃光が走る。
遅れて鳴り響く轟音。
周囲は雷が走った形跡が残る。
湧き上がる煙の中──俺たちは無傷だった。
ガーディアン──透明な壁が、俺とレイサスを囲っている。
「……なに?なんだそれは」
バクスターは、怪訝な表情を浮かべる。
訓練場の中に、エイナとキセキが入ってくる。
「一体、何の音ですか!
……バクスター。何しに来たんです」
エイナも顔見知りか。
バクスターとギランは、俺たちとエイナたちに挟まれた形になる。
「……エイナか。厄介だな。まとめてやっちまうか。
ギラン。手伝え」
「……仕方ないですね。レイサスの相手は私がします。
あなたと戦うのは——学生時代以来ですね」
「さっきのフルグル——雷の式で分かった。本気で殺しに来ているんだな。
ならば──こちらも相応の対応をせねばなるまい」
四対二。
数だけならこちらが勝っている。
だが——相手は十八将と六賢。
それも、ガゼリアとは違い──殺しに来ている。
アーカーシャの意志と言う大義名分を掲げて。
一筋縄ではいかないだろう。
俺は——覚悟を決めた。
レイサスは白衣を脱ぎ捨て、乱れた髪をかき上げた。
「アラタ。——これは修行じゃない。命のやり取りになる。危なくなったら——逃げろ」
……ふざけんな。
どいつもこいつも大人ぶりやがって。
人の覚悟をなんだと思ってるんだ。
俺だって——戦える。
怖くないと言えば嘘になる。
だけど。
こんなところで逃げたら——かっこ悪すぎる。




