第六十二話 イグラスの決断と、剣王の答えと。
「父さん。もう一度──剣を振りませんか」
イグラスは帰ってきたオラディグに言った。
「……一体何を吹き込まれたんだ。
剣の時代は終わったんだ。仕事はなくなり──お前の母親も愛想をつかした。
何もいいことはなかっただろう」
……そうだったのか。
母親の姿が見えなかったが、そういう事情だったのか。
「僕が父さんと生きることに決めたのは、剣があったからです。
父さんと共にいろんな国で剣を振るった経験は──僕の人生そのものです」
「……だからどうだというんだ」
「僕は──剣技をもっと世界に広めたいと思った。
メイさんに、それを気づかせてもらった」
「絵空事だな。今更剣技など、誰も興味ないだろう」
「──そうですかね?あれを、見てください」
そういうと、イグラスは家の外の庭を指した。
メイとラウルが、模擬刀で戦っている。
それを囲むのは──
近所の子どもたちだ。
数は四、五人だが、みんな目を輝かせてみている。
オラディグは、それを見て目を見開いた。
──まるで初めて剣を持った時のイグラスがだぶって見えた。
「この田舎で、これだけ集まるんです。ウィザル中心部なら──どれだけ集まるんでしょうね」
イグラスは、その光景を、目を細めながら見つめていた。
「……まだ剣の生きる道もあるのだな」
オラディグは、小さくそう言った。
イグラスは、それを聞き逃さなかった。
「場所の手配や、レイサス王との交渉は、ラウルさんがやってくれるそうです」
──抜け目ないな。
昨日イグラスに負けて諦めたと思ったが……
「見返りに──剣を教えろと言うことか」
オラディグがそう言うと、イグラスは笑って頷いた。
「そういうことです。久しぶりに、剣を振りましょう」
まるで、子どもの頃のような目でオラディグを見てくる。
オラディグはため息をつきながらも──久しぶりに少し笑った。
「まだお前に負ける気はしないがな」
父もまた──心のどこかで剣を振る日を待ち望んでいたのかもしれない。
メイとラウルが戦いを終えると、子どもたちが二人のもとに駆け寄ってくる。
「お兄ちゃんたち、すごい!」
「ねえ、どっちが強いの!?」
──何かを斬るための剣がなくなったとしても。
剣を通じて得られるものは──なくならない。
当たり前のことに、気づかせてもらった。
イグラスはそう思いながら、模擬刀を持ってメイとラウルに駆け寄った。
その姿を見つめるオラディグの目は、人知れず潤んでいた。




