第五十九話 剣王と、その息子と。
「ねえ、本当にこの道で合ってるの?」
メイが呟く。
「あのレイサスっていう王様の言ってる通りに来てるぜ。
俺は方角は間違えねえよ。船乗りなめるなよ」
ラウルが答える。
まぁ、それはそうなのだろう。
メイもそこは疑っていない。
しかし、それにしても遠い。
かれこれ一時間は歩いている。
最近、車で移動してばかりで体が鈍っているのか、メイは少しだけ呼吸が荒くなる。
対して、ラウルは息一つ切らしていない。
——なんなのよ、こいつ。
メイは、呼吸を少しずつ整え、ラウルに悟られないようにした。
最近、ラウルの剣技は恐ろしいほどに上達している。
つい最近まで素人だったとは思えないほどだ。
いくら天才剣士の私が毎日のように相手しているからとは言え——こうも成長が早いと焦る。
ラウルは、この度で数々の活躍を見せている。
船にはじまり、鍵開け、交渉、馬車の操舵。
どれも私にはできないことばかりだ。
アラタやキセキも、すっかり懐いているように見える。
——せめて、剣だけは負けたくない。
このパーティの最年長は——エイナに奪われたんだった。
でも、見た目的には私の方が上だし。
何より——あの子たちのお姉ちゃんは、私なんだから。
メイはそんなことを考えていた。
「おっ。見えたぞ。あれじゃないか?」
ラウルが指をさす。
その先には、木でできた古い家と、井戸が見えた。
周りには、菜園が広がっている。
ちょうど、家から男が出てくるのが見えた。
ラウルが近づいて声をかける。
男が顔を上げた時。
メイはその顔に見覚えがあった。
「……グライス騎兵団長?」
そう。
アルカディアで騎兵団長を務める——グライスと同じ顔をしていた。
しかし、年齢は若い。
私たちより少し上くらいだろうか。
この男が——オラディグ?
「レイサス王からの紹介で来たんだけど、ここはオラディグさんの家で合ってるか?」
ラウルが気さくに話しかける。
この辺りの会話も、私にはできない。
頼りになる反面——羨ましくもある。
男は、井戸の水を汲みながら答えた。
「はい。オラディグは父です。
父に何かご用ですか?」
男は答える。
「あれ?話聞いてない?剣術の修行に来たんだけど」
ラウルが言うと、男は顔を少ししかめた。
「なるほど……父に聞いてみますが、難しいかもしれませんよ」
「え?なんで?凄腕の剣士なんだろ?」
「……父は剣を置きました。今は自給自足の生活を送っています。あなたたちと違って、僕たちは寿命が短いので」
「私たちも、短命種よ」
メイが会話に入る。
知らない人と話すのは得意じゃないけど。
——ラウルに任せてばっかりいられない。
その言葉を聞くと、男は目を輝かせた。
「え?本当ですか?この国ではじめて短命種の人に会ったかもしれない。だとすれば——僕と同世代くらいかな?」
嬉しそうに二人の方に向き直る。
これが——イグラスとの出会いだった。




