第五十七話 式術国家ウィザル、その既視感。
「……マジかよ」
ウィザルに入った瞬間。
今までにない既視感に包まれた。
コラルから続く道を抜けると、待っていたのは石造りの門。
そう、それはまるで──。
テオロッドだ。
式術国家、と聞いた辺りから、なんとなく予感はしていた。
が、ここまで似ているとは。
メイとキセキも、同じように感じたようだ。
「なんだか……帰ってきたみたいね」
「旅が終わったような感じがするね」
二人でそんな話をしている。
だが──ここはユグラシアの式術国家、ウィザルだ。
「ここは、国家としては最も領土が小さい国です。式術のみで国家として認定されています。まずは──王の所に行きましょう」
王?
いくら出身国とはいえ──そんな簡単に会えるもんなのか?
それも、十八将の特権なんだろうか。
だが──テオロッド王宮にそっくりな王宮に到着し、国王と会った時。
その予想は大きく外れていたことを知る。
「ご無沙汰しております」
エイナは、国王の前に出ると頭を軽く下げた。
俺たちは、少し緊張しながら顔を上げ、王の顔を見る。
すると、そこにいたのは──
「サイレス叔父さん!?」
俺は思わず声を上げた。
母さんの叔父さん。俺からすると大叔父にあたる、サイレス叔父さん。
テオロッドの式術研究所所長、サイレス=テオロッド。
そこにいたのは、そっくり同じ顔をした中年だった。
年代も──同じくらいだろう。
「──私は、レイサスだ。エイナが世話になっているようだな」
眼鏡を指で持ち上げる。
その仕草も──サイレス叔父さんそっくりだ。
エイナはその様子を見て不思議そうな顔をしている。
「サイレス?誰ですか」
「いや……まさか、エイナ、このレイサス王の姪、とかじゃないよな……?」
俺が言うと、エイナは驚いた顔をする。
「そうですけど……なんで分かったんですか。あまり似ていないと思うんですが」
──そのまさかかよ。
驚くことばかりだ。
ここまで似ているなんてこと──あるのか?
「ちょっと、な……ちなみに、レイサス王に、お兄さんがいたり、妹がエイナのお母さんだったり……しないよな?」
俺は恐る恐る聞いた。
「アラタはそんな能力もあるんですか?レイサス王の兄、スレオニは先代の王。妹のアセレフィは私の母です。──二人とも故人ですが」
──名前まで、ほとんど同じ。
まるでここは──鏡の中の国だ。
年齢とか、少しずれている気もするけど……。
もしかすると──俺たちもいるんじゃないか?
いや、となると俺は──エイナの子ども?
頭がおかしくなってきた。
だが、今はそんな場合じゃない。
「連絡してきたのは、その子たちのことか」
レイサスが口を開いた。
ん?事前に連携できていたのか。どうやって?
「はい。アラタとキセキ。六原色ではない、希少な事例です。
本人たち曰く──別の大陸から来たとのことですが」
エイナが答える。
「確かに、橙に、赤紫か。このウィザルでも──事例はなさそうだな。
少し調べてみたが」
「やはり、そうですか。──私なりに仮説があるので、検証しながら修行を進めたいのですが、よろしいですか」
「ふむ。私としても興味があるな。参加させてくれ」
レイサスが答えた。
「では、この二人の件は後ほど。それと、後ろの二人なんですが──」
エイナはメイとラウルを見た。
「剣士です。かなりの腕の。できれば──あの親子のもとに預けたいんですが」
「──オラディグと、イグラスか。もう人里離れて久しいと思うが──」
「承知です。もう、剣を置いたとも聞いています。ですが、かつて帝国一と言われたあの親子なら──きっと二人を強くしてくれるはずです」
剣士の親子。
これまた、俺たちの知っている顔なんだろうか。
俺はまだ頭の混乱が落ち着かずにいた。
「分かった。手配をしておこう。──あの二人の剣技は、相当だぞ。
君たち、大丈夫か?」
念を押すように、レイサスは眼鏡を指で持ち上げた。
「もちろん。どんとこいよ」
メイは胸を叩いた。
さすが、ロッド一の剣士たちの娘。
自信と、向上心に満ち溢れている。
怯えは一切ない。
ラウルは、それに合わせるように小さく頷いた。
つい最近まで剣の素人だったはずだが──。
毎日のようにメイと修行していれば、相当腕も上がっているのだろう。
この後の段取りは決まったが——俺は気になっていることを聞いた。
「あの、サイレス……じゃなかった、レイサスさん。
ここに、エルデネという赤の式術者が来ませんでしたか?」
レイサスはそれに反応する。
「まさか——知り合いか?あのカラミティアルの」
「来たんですか?」
「……つい数日前、ここを発った。
目的地は言わなかったが……あれは、六帝クラスだぞ。
なぜ今までアーカーシャに見つからなかったか分からない」
くそ。入れ違いか……。
ここで合流できると思っていたのに。
「エルデネも、修行をしたんですか?」
「あぁ。とは言っても、黒の石で式力を抑え、ひたすら高負荷の中で式術を発動していただけだ。
——恐らく、今までまともに修行をしてこなかったんだろう。ここを発つ頃には——セレスティアルクラスになっていた」
「その、カラミティアルとかセレスティアルってなに?」
キセキが聞いた。
レイサスに代わって、エイナが答える。
「ランクAの中でも、国家を滅ぼせるほどの力を持つものが災害級——カラミティアルと呼ばれています。
更にその上、世界を滅ぼせるほどの力を持つものは、神話級——セレスティアルと呼ばれます。
六帝は、皆セレスティアルです」
ロッドで言うと、零式の更に上、みたいなものか。
もはやよく分からない。
ひとつだけ言えるのは——ただでさえ化け物みたいな火力だったエルデネが、更に強くなっているということだ。
心強くもあり——少しだけ恐ろしい。
なんだか、俺たちの知っているよく寝てよく食べるあのエルデネが遠くなってしまったようで、不安になる。
「エイナ。俺たちも——早く修行をしよう」
俺はその不安を振り払うように言った。
こうして俺たちは、二手に分かれて修行をすることになった。
昔、父さんたちがテオロッドの式術学校で修行したと言っていた。
その時も──こんな気持ちだったのだろうか。
自分の可能性への期待と、不安と。
やれることを、やるしかない。
俺は、ポケットに入っていたアイネの腕輪を取り出し、握りしめた。




