第五十六話 コラルでドライブ。
「全員分用意したぞ!エイナ!約束は覚えてるな!」
ガゼリアが応接間に戻ってくる。
許可証は紙に、ガゼリアの印が押されているものだった。
科学が発展しても、この辺は変わらないんだな。
あるいは──ウィザルが科学と一定の距離をとっているからかもしれないが。
「はい。──強くなった二人をお連れしますよ。やるべきことが終わったら」
エイナは答えた。
「よし!じゃあさっさと強くなってこい!俺も修行をして待っているぞ!」
エイナが言った〝やるべきことが終わったら〟の意図に気づかないまま、ガゼリアは俺とキセキの肩に手を回した。
──やはり、少し気の毒だ。
エイナの考える進路をたどれば、少なくともアイネを取り返すまでガゼリアと会うことはない。
正直、六帝のイメージとは全然違ったが、悪い人ではない。
俺は後ろめたい気持ちを飲み込んで、ガゼリアに笑顔を返した。
「車の燃料補給が終わったら、出発します。ウィザルでは補給できないですからね。キセキ、運転しますか?」
「いいの!?」
エイナの言葉に、キセキは飛び跳ねた。
「ここからウィザルへは一本道ですし、田舎道ですから。練習してみましょう」
キセキは喜んでいるものの、少し不安だ。
俺はラウルの方を見る。
「ん?なんだ?」
ラウルが不思議そうな顔で言った。
「いや……こういうの、大体ラウルの役目だったからさ。キセキでいいのかなって」
「お前、ここまで旅してきて俺のことをまだ分かってないのか」
「え?」
「俺は機械は苦手なんだよ。得意だったら、蒸気船でも乗ってるさ」
──確かに。
ラウルが操縦していたのは──フォーリナー号。
昔ながらの帆船だ。
アルカディアの技術で、蒸気船が普及しているというのに。
そう言う理由があったのか。
……まあ、ラウルにも苦手なことが見つかって良かった。
勝手になんでもできると思い込んでいたが。
完璧な人間なんて、いないもんな。
「確かに、どんどん田舎になっていくわね」
メイは、ポニーテールの髪を風になびかせながら言った。
キセキが、車の屋根をしまったからだ。
オープンカー、というらしい。
「おい、キセキ、寒いんだけど」
俺は震えながら言った。
体感気温、10℃を切っている。
いくら夏とは言え……ここは極寒の国、コラルだ。
「え?いーじゃん。せっかくなんだから楽しもうよー」
キセキはコラルで買ったサングラスを着けながら、上機嫌で運転している。
……一体、いつの間にこんな機能を覚えたんだよ。
交通ルールだけでなく、車の構造や仕組みも、エイナから借りた端末で勉強したんだろうか。
昔から一度熱中すると徹底的に調べきる性格だったが……さすがといえばさすがである。
心配していた運転も、何の問題もなさそうだ。
一応、助手席にエイナが座っているが、大したアドバイスはしていなそうだ。
「ウィザルは、エイナの出身地なんだよな。いつぶりなんだ?」
俺は後部座席からエイナに聞いた。
風の音で声が散ってしまうので、少し大きめに話した。
「十五歳で十八将になってからは、世界各国を開発していたので……三年ぶりですね」
「三年!?随分久しぶりだな」
「あなたたちからしたら、その感覚でしょうね。私たちの感覚だと、そこまで久しぶりとは思いませんが」
そうだった。エイナは、俺たちより寿命が長いんだった。
感覚的には……一年ちょっとくらいなんだろうか。
あまり分からないが。
「修行ってどれくらいかかるんだろう。そんなに長居している場合じゃないんだけど……」
エイナは三年やったと言っていた。
デュランがアイネを候補者として育てる間は安全だと見込んでも──
一刻も早く見つけ出したい。
「私の時は、ランクCからAまで上げましたから。
──あなたたちは、すでに基礎ランクは高いと思います。
なのでプランBの磨き直しが中心でしょう。
そうですね……一週間で出来る範囲をやりましょう」
一週間。それでも長く感じるが——今の俺たちではデュランに勝ち目がないのも事実だ。
せめて、そのきっかけだけでも掴みたい。
そして──やっとつかめた、エルデネの足跡。
会ったら、エルデネは怒るだろうか。
俺たちを眠らせてまで、一人で敵を追っていった。
確かに。年は随分離れている。
それでも──仲間だと思っていた。
エルデネは、そうは思っていなかったのだろうか。
守ることが、大人の責任。
おとなしく帰ることが、子どもの責任。
エルデネはそんなことを言っていた。
でも──大事な仲間も守れない子どもが、ろくな大人になれるわけない、と思う。
俺は、一緒に残ってくれた仲間を頼もしく思いながら、
冷たいコラルの風を感じていた。




