第五十五話 エイナの本心と、俺たちの式術と。
「エイナは、エルデネがウィザルに向かったって知ってたのか?」
ガゼリアが許可証を手配しているのを待つ間、俺はエイナに聞いた。
「可能性は高いと思っていました。壁を破壊し、コラルまでたどり着いた式術者がいれば、向かう先はウィザルになるでしょう。ガゼリアに会っているのは意外でしたが」
確かに。そのまま壁をぶち抜いてウィザルに行ってしまいそうだ。
「ウィザルの壁は、強固な式術で護られているはずです。もしかしたら——やってみたものの、壊せなかったのかもしれないですね」
それなら、ありえそうだ。
困ったエルデネは国王に直談判に行き、そこで戦闘を求められる。
六帝対、赤の零式。
両大陸の赤の最強の激突……。
まるで本にでもなりそうな戦いだな……。
一体どんな戦いだったのか、少し興味がある。
「なぁ、俺たちはウィザルに行っても仕方なくないか?」
ラウルがおもむろに言い出した。
「あっちは、式術帝国なんだろ?無式者の俺たちにはあまり意味がない気がするんだが」
「そうね。剣術の師範でもいるなら別だけど」
メイが続けた。
「どうせ、修行終わったら戻ってくるんでしょ?」
エイナは少し悩んだが、小声で言った。
「いえ——ウィザルを抜けて、シードラへ向かう予定です。アーカーシャへ急ぐのでしょう?」
え。
この人怖い。
ガゼリアとの約束を——反故にする気だ。
「そりゃまずいんじゃないか?六帝との約束を破るのは……」
俺は言った。
「私は、修行が終わった後、と言っただけです。
いつとは言っていません。
アラタとキセキの修行を終え、デュランからアイネさんを取り戻してからでも問題ないはずです」
——うん、確かに。
嘘はついていない。
なんだか、大人の世界って感じだな。
しかし……ガゼリアが不憫ではある。
「ちなみに、ユグラシアで最強と言われている剣士——剣王もウィザルに住んでいますよ。科学に傾倒しないウィザルが気に入っているようです」
エイナが言うと、メイが目を輝かせた。
「ってことは、世界最強剣士ってこと?それは気になるわね」
ロッド大陸一の剣士は、刀ならカイ叔父さん、剣ならテリーズ叔母さんだと俺は認識している。
最強の両親から生まれたメイもまた、その響きには心躍るのだろう。
「じゃあ、みんなで行くか。俺たちも強くならないといけないしな」
ラウルが言った。
最初は船長としてついてきただけのラウルが、すっかりパーティの一員として考えてくれている。
嬉しい反面、焦る気持ちもある。
「エイナ、あのブースターは成功したのかな」
俺は聞いた。
「紫炎・大玉だね」
キセキが続ける。
「……お前、それは名前変えようぜ」
俺が言うと、キセキはむっとする。
「いいじゃん。僕の技なんだから。文句あるなら代案出してよ」
うっ、そう言われると困る。
「ソラリス、とかはどうでしょう。古い言葉で、〝太陽〟と言う意味です」
エイナが呟いた。
「キセキの紫炎にアラタのブースターがかかり、まるで太陽のようなエネルギーを放ちました。そこから取ったんですが……格好つけすぎですかね?」
エイナは遠慮がちに言ったが、キセキはエイナの両手を握って言った。
「すごい!いいねそれ!ソラリスにしよう!
ね、アラタもいいでしょ?」
うん。俺はいいんだが……。
キセキに手を握られて、エイナが少し顔を赤らめているのが気になった。
「コホン……では、それで。アラタ。仮説からの実験的な試みでしたが……式術にブースターがかかったことは、革命です」
エイナはキセキの手を離すと、咳払いをして言った。
なんか、少し恥ずかしそうだぞ。
「革命?」
「はい。式術は自然の力を借りて行うもの。つまり、それを増幅できることは、本来ありません。
アラタのその力は——式術の理から外れています」
……なんかサイレス叔父さんからも同じようなことを言われた気がするな。
とにかく、俺の式術が普通じゃないことはよく分かった。
「その辺を、ウィザルで調べるってことだな。
キセキの分離もうまくいったけど……あれも予想通りか?」
「キセキの方が、冒険でした。制御が苦手と聞いていましたので。ただ、本来キセキは赤と紫両方の高位者のはずです。なぜかそれが混ざり合ってしまっていますが、むしろそちらの方が難しいと思います」
エイナの話の通りなら、キセキは元々両親の特性を両方受け継いだハイブリッドということだ。
なぜかそれがうまく別れず、紫炎という形で発動している状態、ということだ。
「じゃあ、修行したら両方できるようになるの?」
キセキがエイナに聞いた。
「……恐らく。ただ、ウィザルの修行はかなり厳しいですよ。覚悟してくださいね」
嫌なことを言う。
「ってことは、エイナもウィザルで修行したことがあるのか?」
俺は文脈判断で聞いた。
「十歳から、十五歳まで五年間。
私は緑のランクCから、ランクAまで引き上がりました。
十八将になれたのは——あの国で生まれたおかげです」
俺たちが向かうのは——エイナの出身国だったのか。
母さんの故郷、テオロッドも式術国家だった。
……ただの偶然、なんだろうか。
とにかく……ガゼリアには申し訳ないが、俺たちの進路は決まったようだ。




