第五十三話 コラル王ガゼリアと、エイナの無茶振りと。
「着きました。ここがコラルです」
ドラール国ベンドから、更に車を走らせること半日。
国境の壁を超えると、そこは田園風景の広がる街だった。
国境壁で入国チェックがあったが、エイナが身分を名乗ると、そのまま入国できた。
少し検査が緩いような気がしたが、問題ないのだろう。
ブルドアとドラールでの国境で憲兵が言っていた。
不法入国の場合はチップ情報で身元を特定するらしい。
俺たちはチップそのものが存在しない。だからエイナの従者として処理されれば問題ないのだろう。
──エイナが言っていたように、街の科学水準はドラールより下に感じる。
道路は舗装されているが、建物はまばらで、その合間には田園が広がっている
農業大国なのだろうか。
「で、どこに向かうんだ?」
俺は運転席のエイナに聞いた。
俺たちの当面の目的地は式術国家ウィザル。
そのままここを突っ切るわけにはいかないのだろうか。
「……伝えていませんでしたっけ。ガゼリアに会いに行きます」
エイナは深くため息をついた。
「エイナが苦手な六帝だよな。わざわざ会う必要あるのか?」
「式術国家ウィザルは、別途入国許可証が必要なんです。
その許可証を出しているのが……六帝であり、隣国国王であるガゼリアなんです」
なるほど。
つまり、ガゼリアのお墨付きを得られないと、ウィザルは足を踏み入れることさえできないというわけだ。
会わざるを得ない、と言っていたのはそういうことか。
「どうしますか?今日はどこかで休みますか?それとも、このまま王宮に向かいますか」
「──できれば早くデュランのところへたどり着きたい。このままいこう」
俺がそういうと、再びエイナはため息をついた。
「……最初だけは話しますが、そのあとはアラタが相手してくださいね」
そんなに嫌がるって……
一体、どんなやつなんだよ。
車は石造りの王宮に着いた。
どことなく雰囲気がテオロッドに似ている。
未来的な建物ばかりのこの国で、明らかに浮いているが……ガゼリアの趣味なんだろうか。
門番に挨拶すると、すんなり王宮の中に入れた。
さすが十八将。
顔が知られているのだろう。
応接間に行くと、そこには真っ赤な髪のツンツン頭、
見た目は二十代くらいの、背の高い男がいた。
まさか。
「エイナじゃねえか!久しぶりだな!どうした!
やっと俺と戦ってくれるのか!?」
声が大きい。うるさい。
この男が……ガゼリアか。
「戦いません。この方たちとウィザルに向かうので、許可証を出してください」
エイナは距離をとって言った。
しかし、ガゼリアはじりじりとエイナに近づいてくる。
「つれないなぁ。アーカーシャの至宝と呼ばれるお前と戦ってみたいんだよ!なぁ、全式術を駆使してくれよ!」
……暑苦しい。
なるほど、エイナが嫌がったのはこの距離感か。
「私は戦いません。代わりにこの方たちなら」
エイナはそう言って俺とキセキの背中を押した。
「え?いや、俺たち?無理だって。
この人、六帝なんだろ」
俺は突然の無茶振りに変な声を出した。
「ガゼリア。二人一組でもいいですか」
エイナが提案する。
「おお!全く問題ないぞ!なんだこいつらは?
新しい十八将か?」
ガゼリアは目を輝かせている。
こいつも戦闘狂か……。
「そうではないですが、それくらいの力はあるかもしれません。それを確かめにウィザルに行くのです」
エイナはそう言った。
「ほう。それは興味深いな。よし!早速準備しよう!」
ガゼリアは肩を回している。
いや——嫌なんだけど。
この人、火力で国を滅ぼせる人でしょ?
エルデネより更に上だとしたら——もう神話の世界だ。
一発で消炭じゃねえかよ。
こんな所で死ぬわけにはいかない。
「おい、エイナ。俺たちがそんなレベルなわけないだろ」
俺はエイナに言った。
武器を自在に出せるキセキはまだしも、俺は護ることと応援しかできない。
「要は、戦い方次第です。私が策を考えます。
致命傷を受けなければ、私のヒーリングがあるので平気です。……多分」
……〝多分〟が嫌すぎる。
「大丈夫だ!人を殺さないように手加減はできる!俺を信じろ!」
ガゼリアはやる気満々だ。
そして、全く信用できない。
こうして——コラルに到着早々、俺たちは王様と戦うことになった。




