第五十二話 端末にハマる幼なじみと、全てお見通しな幼なじみと。
コラル到着前の宿は、ドラール国、エデナ市の反対側。
ベンドと言う街だった。
ずっと車の運転をし続けて、エイナは疲れているようだった。
「さすがに疲れました。デンガランがいれば交代できるんですが……」
「ねえ、これって僕たちは運転できないの?」
キセキが車を降りながら言った。
「まあ、半自動なので別に大丈夫ですが……交通ルールとかを覚えないといけませんね」
「そっか……やってみたかったんだけど」
キセキは残念そうに言った。
すると、エイナはバッグから何かを取り出した。
小さい、箱のようなもの。
なんだろう。鏡だろうか。
光っている。
「この端末で勉強してみてはどうでしょう」
……端末?
なんじゃそりゃ。
渡されたものを、キセキは目を輝かせながら触っている。
「え!?……本?」
「……あなたたちの科学ではまだでしたか。それは、指を動かせば切り替わります」
言われたとおりにキセキが指を動かすと
──画面が動いた。
図や文字が画面に映っている。
これは──本だ。
「基本的に、それ一台で大体のことはできます。
記録用の端末なので、お貸しします。宿で勉強してみてください。
軽く夕食をとったら、私は部屋で休みますんで」
キセキは楽しそうに端末をいじっている。
これは──こいつ、寝ないな。
昔からキセキは新しいおもちゃを手に入れると飽きるまでずっと遊ぶやつだった。
こんな未来科学の機械なんて持たせたら、ずっといじっているに違いない。
俺たちは夕食のあと、それぞれの部屋に戻った。
──ブルドア、ドラールとアーカーシャ帝国のうち二つの国を経験したが。
食事はいまいちだ。
アルカディアは、米を中心に、調味料も豊富だ。
母さんがよく話していた。
昔のテオロッドは、パンばかりで食事はおいしくなかったらしい。
それを父さんが変えたんだと。
旅の最初の熊肉パーティに比べれば遥かにマシだが、
それでもいかにアルカディアの食事レベルが高かったかを実感する。
どうせ部屋に戻っても寝るだけだし、キセキは端末をいじっているだろう。
俺は一人で外に散歩でも行こうとすると、メイと出くわした。
「あら、どこへ行くのアラタ」
なぜか、剣を持っている。
「俺は暇つぶしの散歩だよ。メイこそどこ行くんだよ。剣なんか持って」
「ラウルの修行よ。──ライバルをあまり強くしたくないけど、これからどんな戦いかあるかわからないでしょ」
「へえ。仲が良いこった」
俺は、あえて揶揄するように言った。
メイは、小さくため息をついた。
「早くアイネを助けなきゃね。可愛い弟がいつまでも辛そうなのは見ていられないわ」
「……なんのことだよ」
俺が聞き返すと、メイは俺に向き直って言った。
「あんた、アイネのこと好きでしょ」
メイの発言に、俺は凍り付く。
「なっ……いや、俺は仲間として……!」
「バレバレよ。キセキは気づいてないかもしれないけど。
なんだか寂しいわねえ」
メイはそういうと、頬に手を当てながら歩いて行った。
くそっ……これが幼なじみの恐ろしさか。
すべてお見通しというわけか。
俺がその場に立ち尽くしていると、ラウルが出てきた。
「あれ?アラタ。メイ見なかったか?」
「……先に行ったぞ。修行、頑張れ」
俺はそういうと、ラウルの背中にブースターをかけた。
「おっ、なんだ。なんでここでブースター?」
「分からない。ただ、今日はメイをやっつけてほしい気がしただけだ」
「……よくわからねえけど、頑張るわ」
ラウルは少し不思議そうな顔をして、メイの元へ向かった。
今なら、多少怪我してもヒーラーのエイナがいる。
ラウル、頑張れ。
翌日。
起きて早々ラウルにブースターをかけた疑惑を問い詰められたが、適当にあしらった。
ところどころアザがあるのを見ると、ラウルにやられたに違いない。ざまあみろ。
朝食の時間になっても、キセキは降りてこなかった。
仕方ないので俺とエイナで部屋に行くと、
ベッドに寝そべったまま端末をいじっているキセキがいた。
「あ、エイナ。おかしいよこれ。動かなくなっちゃった」
そう言って端末を渡す。
「……ただの充電切れですね。この端末、三日は充電持つはずなんですが、どれだけ酷使したんですか」
エイナは呆れた顔をする。
「すごいねこれ!周りの景色を映せる〝カメラ〟って機能が特にすごいよ」
「……なるほど、他の機能もいじりましたね。まあ、仕事のデータは保護してあるからいいんですが」
「あ、ちなみに交通ルールは全部覚えたよ。もう運転もばっちりだよ」
キセキは充血した目で言った。
「キセキ、大事なことを伝え忘れていました。
──睡眠不足で運転は禁止です」
結局、その日もエイナが運転することになった。
今日は、いよいよコラルに到着する。
極寒の国、そして六帝が国王の国。
エイナが苦手というガゼリアはどんな人なんだろうか。




