第五十一話 ドラールでドライブ。
「科学ってすげえな」
後部座席から、ラウルの呟きが聞こえる。
同じことを、俺も思っていた。
助手席の窓の外の景色が、信じられない速度で流れていく。
エイナの運転する車は、舗装された道をどんどん進んでいた。
一体どれくらいの速さなんだろう。
少なくとも、馬車の何倍以上も早い。
蒸気機関車と同じか──それ以上に感じる。
後ろを向くと、メイとキセキがいびきをかいて寝ていた。
その気持ちも分かる。
エアコンという技術のおかげで、車内は快適な温度が保たれている。
油断したら、俺も眠ってしまいそうだ。
「コラルまでは、飛ばしても丸一日はかかります。道中どこかで泊まりましょう」
エイナが言った。
「俺たちはコラルに入れるのか?」
「あなたたちが別の大陸から来たのなら、マイクロチップは入っていませんよね。であれば、認証にひっかかることはないと思います。私の従者ということにしましょう」
「そのチップっていうのは、エイナも入っているのか?」
「生まれた時に全員入れられます。出入国管理は徹底されていますから。
私は十八将になった時から、首都アーカーシャ以外の五か国はすべて入れるようになりました」
六帝、もしくは六賢になればすべての国に入れると言っていた。
全部で十二人。
じゃあ──そこに住んでいるのは、誰なんだろう。
「コラルってのはどんな国なんだ」
ラウルが後ろから会話に入ってくる。
エイナがハンドルを握ったまま答える。
「一言でいえば、極寒の国です。冬場は氷点下を下回ります」
「うげ。寒いところ嫌いなんだよなあ」
ラウルが顔をしかませた。
極寒の国と言えば──ユグラシアに来る前に立ち寄った、カムイを思い出す。
アルカディアやテオロッドではめったに雪は降らないが──コラルもそういう国なんだろう。
「今は夏なので、良かったですね。冬場はずっと雪が降っていますから。
とてもこの服装では無理です」
「コラルの都市ランクは、どれくらいなんだ?」
俺は聞いた。
ユグラシアに来てから、アーカーシャによる都市ランクが当たり前になってしまった。無意識のうちに気にするようになっている。
「現在のランクはB。科学水準はドラールと同程度か少し下。式術水準は、ドラールより上ですね」
「式術国家、ウィザルが近いからか?」
「それもありますが……現在の国王の方針の影響が大きいでしょう」
「国王?」
俺が聞くと、エイナは少し顔をしかめた。
「ガゼリア=ラグルール。──六帝の一人。赤帝です」
「……なんか、嫌そうな顔をしてない?」
「はい。私は苦手です」
エイナははっきりと言った。
「そもそも、六帝で国王をやっているのはガゼリアだけです。
他の六帝は、アーカーシャ帝国全体最適の特務についています。
黄帝のサーラは査定官。緑帝のザラミは自然開発。
青帝のプルークは海洋管理。──帝国全体を発展させるのが六帝の使命にも関わらず、彼は出身国の国王に収まっています」
「……その辺の人事って誰が決めるんだ?」
素朴な疑問。
アルカディアでは、自分でやりたい仕事を選んでいる。
果たして父さんが好き好んであの役割をやっているのかは分からないが、
少なくともタツオ叔父さんは楽しそうだ。
「職業選択は自由ですが──アーカーシャから適性を踏まえて提案されます」
「提案?」
「私は自然保護区域の管理を提案されましたが──守るより作る方が好きなので国土開発を選びました。国土開発は基本茶の式者が多いですね」
デンガランの式術を思い出す。
あれだけ自在に土を動かせるなら──開発も楽だろう。
「そのガゼリアってやつも自分で選んだんだろ?問題ないじゃん」
ラウルが言った。
「はい。それはまあそうなんですが……私が苦手なのはもっと別のところです」
なにやら含みを持たせる。
「いずれにしても──コラルに着いたら、ガゼリアに会わざるを得ません。
会えば多分、分かります」
エイナは心底嫌そうに言った。
……一体何がそんなに嫌なんだろうか。
俺たちの疑問をよそに、車はどんどん進んでいく。
気が付けば外は少し薄暗くなってきた。
車から、自動的に光が発される。
これが──電気。
見えづらくなった視界が、一気に見えやすくなる。
アルカディア──父さんやタツオ叔父さんが目指していた世界を、
俺たちは一足早く体験しているのかもしれない。
あるいは──数十年先の未来を。




