第四十九話 エイナとデンガランと、情報交換と。
「で、話したい事って何かしら」
エイナは、お茶を飲みながら言った。
その姿は、昼下がりに紅茶を飲んでいる母さんにそっくりだ。
こっち側は、俺とキセキ。
相手側は、エイナとデンガラン。
メイは外してもらったほうがいいと判断した。
血の気が多い幼なじみは、ラウルに対応してもらっている。
今頃、市庁舎でゆっくりしているだろう。
「……まず、十八将についてかな」
俺は、言った。
「それで言うと、私の方が先に聞きたいわ。
あなたたちはどこから来たんですか。
このドラールの式術者で、十八将を知らない人はいません。
子どもでも知っています」
「……それは、後で話す。約束する。まずは色々と情報を知りたいんだ」
俺が言うと、エイナはふうっ、と息を吐いた。
「事情があるようね。分かりました。教えてあげます」
エイナは、喫茶店の横に置いてある紙を取り出し、ペンで書き始めた。
「まず、アーカーシャの中枢、六帝。各色の頂点です。
さっき名前の出た──サーラ様は黄帝です」
黄の式の頂点。
すべてを消し去る雷。
──俺たちの敵は、想像以上に強大だった。
「次に、その六帝の候補として育てられているのが──各色三人。
それが十八将。
私は緑、デンガランは茶の十八将です」
いわば、エリート。
いずれ頂点を約束された式者ということだろう。
「そんなに小さいのに、すごいね」
キセキの発言に、エイナは少しむっとしたようだ。
「失礼ですね。──私は恐らくあなたたちより年上ですよ」
「え?」
俺は思わず聞き返す。
「私は十八歳です。あなた方は——短命種でしょう?」
じゅうはっさい……?
メイよりも……年上?
俺はその事実を飲み込めずに、言葉を失った。
「短命種も知らないとは……どこの世界の住人なの、あなたたちは。
次はあなたたちが教える番よ」
呆然としている間に、ボールが渡された。
確かに──約束してしまった。
しかし、ありのまま話してもいいのだろうか。
俺は考える。
これまでのやりとりで、俺の式の正体は認識されていない。
攻撃ができると思っていたくらいだ。
つまり──この二人は、橙の式を知らない。
未知の式術があるとすれば、未知の文明から来たのを想像するはずだ。
つまり、別の大陸──ロッド。
それが想像できないということはつまり。
この二人は、ロッド大陸の存在を知らない可能性が高い。
なんなら──デュランたちでさえ怪しい。
もし知っていれば、俺たちの存在をあんなに軽々しく扱わないはずだ。
だが、その情報がどっちに転ぶか分からない。
賭けてみるしかないか──。
「僕たちは、ロッドっていう別の大陸から来たんだよ」
キセキがストローでオレンジジュースを飲みながら言った。
──おい。
俺の思考時間を返せ。
俺は人選ミスを実感した。
ラウルに来てもらえばよかった……。
しかし時すでに遅し。キセキの言葉は彼らに届いている。
「別の……大陸?」
エイナは指を顎に当てた。
……知らない様子だ。
「ユグラシア以外の大陸は、文明が滅んでいるはずだ」
デンガランが言った。
──アーカーシャ側の認識もそうなのか。
双方に、文明が滅んでいると認識している。
そんなこと、あるのだろうか。
「俺たちも、そう聞いていました。ロッド大陸以外の文明は──はるか昔に滅んでいると」
俺は言った。
「あなたたちの話が本当であれば──帝国の教えに嘘があるということですね」
エイナが言った。
「その大陸の文明レベルは、どの程度ですか」
「……少なくとも、このエデナのほうが発展している。
ブルドア国の──ガリアと同程度だと思う」
俺は答えた。
「そうですか。であれば、帝国の危惧にはなりえないですね。
式術は?」
エイナが立て続けに聞いてくる。
「ちょっと待ってくれ。こっちの質問の番だ。
その──短命種ってのはなんだ?」
「遺伝子のアップデートがされていない種族のことです。
平均寿命は八十歳前後。現生人類と比較し、短命な種です。
──あなたたちのように」
エイナは答えた。
「現世人類……?このユグラシアでは、みんな寿命が長いってこと?」
キセキが聞いた。
「私たちの平均寿命は二百歳前後。バイオテクノロジーの産物です」
……何を言っているのかよく分からない。
ただ、俺たちとエイナは〝種〟が違うってことなんだろう。
「今度はこちらの質問に答えてください」
「ああ……ロッド大陸は、式術はこちらほど発展していないとは思う。
少なくとも、あのサーラっていう女より強い雷は見たことがない」
俺が答えると、エイナは頷いた。
「そちらの危惧もなさそうですね。気になる点があるとすれば──」
エイナは俺とキセキを交互に見た。
「あなたたちの式術です」
「……俺たち?」
「少なくとも、橙、赤紫。そんな色の式術者は、ユグラシアでは見たことがありません」
──ということは。
俺もキセキも全世界的に希少ということか。
「デンガラン。私は、この者たちに同行します。あなたは引き続き開発を続けてください」
エイナはそう言った。
ん?今──なんて?
「ちょ、ちょっと待って。同行って……どういうこと?」
「そのままの意味です。あなたたちの旅についていきます」
エイナは、それが決定事項のように言い放った。
「いやいやいや。それはこっちの都合もあるわけで……っていうかなんで?」
俺は慌てて言った。
「他の大陸にも、あなたたちにも興味があります。というか、知らないことがあるのが許せません」
エイナが言うと、デンガランが笑った。
「無理だよ。——アラタと言ったな。エイナの知的探求心は異常だ。こうなったら止められん」
「とはいえみんなの意見も聞かないと……」
「アーカーシャ十八将の私が同行することに、異論が?
見たところ、ヒーラーもいないパーティのようなので利害は一致すると思いますが」
「まあ、確かにそれは……」
エルデネがいない今、俺たちは怪我ができない。
ヒーラーがいれば助かることは間違いないのだが……。
「いいんじゃない。一緒に行けば。
アーカーシャに詳しい人がいたら助かるし」
キセキはのんきに言っている。
まあ、それはそうなんだが……。
母さんと同じ顔の女がパーティにいるなんて、嫌に決まっているだろう。
しかし、明確な断る理由が見つからないまま……
エイナが俺たちのパーティに加わった。




