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ユグラシア冒険記 —幼なじみに連れられて、未知の大陸を冒険することになった件—  作者: ヨダカカツキ
第五章 ドラール国エデナ市

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第四十八話 役人デンガランと、唐突な既視感と。

「なんで、こんなところを守りたいんだろうな」

ラウルは、目の前にある広場を見ながら呟いた。


アトル市長に指示されてやってきた場所は──

何の変哲もない、ただの公園だった。


それなりの広さではあるが、特別美しいわけでもない。

ロッド大陸でもよく見たような公園だ。


「後で、アトル市長に聞いてみるか。それより──役人はどこにいるんだろうな」

俺は言った。


アトルによれば、役人はこの区域を開発中らしく、

もうすぐこの公園も破壊されてしまうだろうとのことだった。


それを止めるのが、俺たちの仕事だ。


「確か──茶の式術者と緑の式術者って言ってたよね」

キセキが言った。


そう。役人の名前は、デンガラン。

三十代の屈強な男で、茶の式術──土の式術を使うらしい。


土と言えば、ハルカゼさんを思い出す。

たまにアルカディアに遊びに来ると、酔っ払っては土手を成型しなおしたりする式術を見せてくれた。


ハルカゼさんは、相当な高位式者と聞いたことがある。


デンガランという役人も、帝国からの派遣ということなら相当の式術者なんだろうか。


俺は警戒を強める。


なにしろ──今の俺たちには、エルデネという最強の〝矛〟がいない。

あるのはメイとラウルの〝剣〟と、まだ使い方の定まらない俺とキセキの式術。

──回復役さえいない。


できれば話し合いで解決することが望ましいが……

果たして話の通じる相手なのだろうか。


「ねえ。向こうから大きい音が聞こえるわよ」

メイが指をさした方向から、地鳴りのような音が聞こえる。


聞き覚えがある。


──土地の成型だ。


俺たちは音のなる方に向かっていった。


するとそこに──日に焼けた大男と、不釣り合いな緑の髪をした女性がいた。

男は式術で地面を大きく成型している。

女は、横に立ってその様子を見守ってくる。

俺たちの気配に気が付いた女が、こちらを振り向く。


その瞬間。


女の容姿に──俺は既視感を覚えた。


「……ねえ、アラタ」

キセキは俺の袖を引っ張った。


「ああ」

俺は答える。


「イエナ叔母さんに……そっくりじゃない?」

メイが言った。


そう。緑の髪をした女の式者は──母さんにそっくりだった。

違うのは、髪型と──年齢くらいか。

母さんに言ったら怒られそうだが。


姉妹と言われても納得してしまうレベルだ。


ほんの少し動揺するが、じっとしていても進まない。


俺は、式術を使って地面を成型するデンガランに近づいた。


「すいません、デンガランさんですよね」

できるだけ、気さくに俺は話しかける。

横の女が気になって仕方ないが、そちらを見ないように続ける。


「……そうだが、なんだ」

男は手を止めてこちらを見る。


「ちょっとお願いしたいことがあって」


「今仕事中だ。終わってからにしろ」

デンガランは言った。


……それを待っていたら、公園がつぶされてしまう。


「いえ、そうはいかなくて。あの、隣の公園は、そのままにできませんかね?」

帝国の目的は分からないが、一つの場所を開発から外すことくらい──何とかならないものか。


「理由もなく開発を止めるわけにはいかん。俺の仕事は国土発展だ」


……融通のきかなそうな男だ。

これは骨が折れそうだ。


「そこを何とか、なりませんかね」

俺は食らいつく。

特に交渉材料を持っていないのが辛い。


──もう少し、アトル市長に情報をもらっておけば良かった。



「……エイナ。相手をしておいてくれ」

役人──デンガランは、横にいる緑の式者に言った。


……エイナ?


名前まで、そっくりじゃないか。


「あなたたち、作業の邪魔になるので帰ってください。迷惑です」

エイナと呼ばれた女は、真っすぐ俺を見ながら言った。


うう。

まるで母さんに怒られているような気持ちになる。


「なによ、その言い方。ちょっとくらいお願い聞いてくれてもいいじゃない」

メイが登場する。

いつもはじゃじゃ馬に困るが、今は非常にありがたい。


完全に交渉できる精神状態じゃない。


「私たちは仕事をしているだけです。文句があるなら、帝国に言ってください」

エイナと呼ばれた女は言った。


改めて見ると──若い。というか、幼い。

下手したら──キセキより年下じゃないか?


「へえ、街をぶっ壊すのがあんたたちの仕事なの?」

メイは、エイナを見下ろして言った。

慎重さが、二十センチ以上ある。


しかし、エイナはひるむことはなかった。


「これ以上邪魔するなら、排除します」

そういうと、エイナは式術を発動させた。


──髪が、少し青みがかる。


青の──式術。


エイナの手から、水の塊が発射され、メイの身体に直撃する。

両手を交差させガードするが──メイは大きく後ろに飛ばされる。


メイはすぐに起き上がり、剣を抜く。

「この──いきなりなにすんのよ!」


いや、いきなり剣を抜くお前も相当だぞ。


俺は、間に入る。


「メイ、待て!えーと、エイナさん。俺たちは戦闘はあまりしたくないんです。話し合いをしませんか?」

俺は母さんと同じ顔をした女──女の子に話した。


「無駄です。私たちは今日中にあの公園まで更地にしないといけないんです。明日から基礎工事が始まるので」


……とりつくしまもない。

そして、彼女の言っていることは、間違っていない。


ただ、仕事をしているだけだ。

それも、真摯に。


そうこうしている内に、デンガランが戻ってくる。


「エイナ。終わったぞ。次に行くぞ」

低い声で言った。

「お前ら、まだいたのか。早く消えろ。仕事の邪魔だ」


俺たちを一瞥すると、次の仕事──公園に向かっていく。


まずい。

全然止められる気がしない。


俺はラウルを見るが、腕を組んだままだ。


──同様に、策が思いついていないようだ。


そりゃそうだ。

現状、正当性しかない。


打つ手なしだ。


しかし、何とかして彼らを止めないと──アトル市長からの信頼を得られない。


悩んでいると、キセキが前に出て叫んだ。


「ねえねえ、これ見てよ!」


両手から、紫の炎で練り上げられたハンマーを出している。


──紫炎・ハンマー。

一体、何をするつもりだよ。


「……なんだその式術は。それで、止めようということか?」

デンガランの顔つきが変わった。

「邪魔をするなら、排除する」

こちらに引き返してくる。


「え?いや、違くって、これは……」

キセキが何かを伝えようとするが──デンガランは右手から地面に式術を放った。


地面が盛り上がり、土石流のようになってキセキに襲い掛かる。


まずい!


俺は、とっさにキセキに向かって走り出した。


頼む──出てくれ。


「ガーディアン!!」


俺が叫ぶと、透明な壁が俺とキセキを包み、土石流をはじいた。


──良かった。出てくれた。


しかし。


「お前も式術者か。一体、誰の差し金だ」

デンガランは完全に戦闘モードだ。


式術を防がれたと感じたのか──デンガランは腰に差していた短剣を抜いた。


まさか──剣技もできるのか?

アトル市長がメイを頼ったのは──そういうことか。


「消えろ。職務妨害だ。これ以上邪魔をするなら斬る。

——できれば無益な殺生はしたくない」


ちゃんと告知をしてくれている。まともな人っぽいが──

うちのじゃじゃ馬が黙っていなかった。


信じられない速度で走ってくると、俺に背中を向けた。

──もう、やるしかないか。


俺はため息をつきながら、ブースターをかける。

「怪我するなよ」

俺が言うと、メイは返事もないままデンガランに駆け出した。


剣と剣がぶつかり合う音。


それが真剣であることを表す、高い金属音。

油断すれば、両方とも命が危ない。


「ラウル!手助け無用よ!」

メイは剣を繰り出しながら叫んだ。


──剣士の矜持なのか?


すると、もう一人。

ため息をつきながら、青の式術を練り上げているエイナが見えた。


「効率の悪い仕事はしたくないんですが」


俺たちに向かって先ほどのような水の塊を放つ。


「ガーディアン!」


俺は再び叫んだ。


なんとか、透明の壁が水を防いだ。


こうして。


望まない戦いが始まってしまった。


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