第四十三話 路銀問題と、剣術大会と。
「ダメみたいだ。ダゴスからもらった通貨は使えなそうだ」
ラウルが帰ってくる。
この未知の国でも、すぐに動いて情報を取ってくる。
頼りになる男だ。
「じゃあ、何とかして路銀を稼がなきゃいけないってことか」
俺は、少しため息をついた。
せっかくもらった金も、壁を越えれば価値がないものになる。
アーカーシャ帝国内で統一通貨があればいいと思っていたが、そうもいかないようだ。
その点、ロッド大陸はすべてソルで統一されている。
誰がそれを成立させたかは分からないけど、実はものすごいことだったのではと思った。
「ちなみに、この街の名前は、エデナっていうらしい。ドラールの首都はヴァドって街らしいから、そこを目指すか?」
ラウルが言った。
「手がかりがない以上、とにかく中心部を目指すしかないな。しかし、どうやって金を稼ぐか……」
俺は考える。
「ギルドとかないのかな」
キセキが呟いた。
「魔獣被害でも出てればギルドもあるんだろうけどな。どう見ても平和そうなこの街じゃあ、必要ないだろうな」
ラウルが答える。
「しかし、夜でもこんな明るいってのは──落ち着かないな」
街のいたるところには、街灯が立っている。
まるで昼間のように道を明るく照らしている。
「とりあえず、その辺歩いてみようよ」
メイが言った。
背中に、剣を背負っている。
ブルドアではまだ違和感がなかったが──この国では浮いている気がする。
夜なので人通りは少なかったが、たまにすれ違う住人は訝し気な目で俺たちを見ていた。
「この国に合わせた服でも買った方がいいな。特に、メイは」
俺は言った。
「あら、服買ってくれるの?でも、先立つものがないわよ」
メイが答える。
「そう簡単に働き口が見つかるわけないしな」
ラウルが続けた。
そんな話をしながら歩いていると、急にあたりに人が増え始めた。
──みんな、同じ方向に向かって歩いている。
「ねえ、アラタ、ついて行ってみようよ。お祭りでもやってるのかもしれない」
キセキが目を輝かせて言った。
「そんなの楽しんでる場合じゃないんだけどな……」
一刻も早く、アイネを助けに行きたい。
そのために、エルデネと合流する。
俺はそう考えていた。
「まあ、この街──エデナだっけ。を知るためにも行ってみるか」
俺たちは、人の流れについて言った。
途中、メイが道行く人に声をかけられている。
「ねえちゃん、出場者か?頑張れよ!」
とかなんとか。
一体、なんのことだ。
その理由は、人が集まる終着点にあった。
キセキが、入り口に建てられている看板を見ながら言った。
「剣技大会会場、だって。」
「……それで、出場者と勘違いしてたのか」
俺はメイの背中の剣を見ながら言った。
「ねえ、ちょっと見て行かない?」
メイが言った。
「そうだな。参考になるかもしれない」
ラウルも乗っかってくる。
……そんな暇があったらさっさと手がかりを探したいが、仕方ない。俺たちは会場に入っていった。
中は明るい光に包まれている。
観客の騒ぐ声が聞こえる。
あながち、祭りだ。
その雰囲気は、昔家族で行ったマルカドールの闘技場を思い出させる。
「おっ、参加者かい?優勝賞金は百万ドラだよ」
……ドラールの通貨だろうか。
それがどんな価値なのかは分からないが、それなりの金額なんだろう。
「高いのかどうかわかんないね」
キセキが言った。
「さっき街で調べた感じだと、多分、五万ソルくらいだ。……優勝したら、しばらくは生活できるな」
ラウルが言った。
情報収集に抜け目がない。
「へえ」
もうすでに、メイが受付を進めていた。
「おい、メイ」
俺は声をかけた。
「お金必要なんでしょ?だったら、ここは私の見せ場でしょ」
メイは答える。
確かに、メイがそこらの剣士に負けるとは思えない。
「大丈夫か?模擬刀とはいえ、最悪大怪我の危険もあるぞ」
受付の中年が、心配そうに言った。
メイは何も言わずに同意書にサインをする。
「はい。あんたも書いて」
メイはラウルにも申込書を渡した。
「私を越えるんでしょ?」
……挑発的だ。
ラウルは肩を回した。
「上等だ。決勝で待っとけよ」
売り言葉に買い言葉。
「せめて一回くらいは勝ちなさいよ。私の弟子なんだから」
メイは,さらに挑発する。
なんなんだ、これは。
本当はこんなことしてる場合じゃないんだけど……
なぜか胸が高鳴っていた。




