第四十話 ブルドア国王と、ドラールへの道と。
ロイスの従者──恐らくガリアの役人だろう──も次々と起きだした。
彼らも、先ほどの惨劇を目の当たりにしている。
長を失った彼らは──これからどう動くのだろう。
俺たちは、騒ぎが大きくなる前にその場を去ろうとする。
事情聴取などされている時間はない。
すると──目の前に、髭を蓄えた初老の男が現れた。
数人、従者を携えている。
「──待ちたまえ」
声に威厳がある。一体──誰だ。
「私は、ゼルグ。ブルドアの──国王だ」
国王。
このガリア、そしてパルファムを含めた、十八の都市を管轄する国。
ブルドアの国王が、この場にやってきた。
一体、なぜ。
いずれにしても、黙って立ち去るわけにはいかなそうだ。
「少し、話がしたい。ついてきてくれないか」
俺たちは、国王に案内され、再び市庁舎の応接室に入った。
広間を出る時、一度だけ振り返る。
そこには、ロイスがいた証──黒い影が、残っていた。
「大体の状況は、ガリアの役人から聞いているが──君たちにも話を聞いておかなければとおもってな」
国王は、俺たちに言った。
誰あてに聞けばいいか分からないのだろう。
こちらを見まわしている。
そうだろう。どう見ても──全員まだ子どもだ。
「その前に──ゼルグ国王。どうしてあなたがここにいるのか教えてください」
俺が口を開いた。
国王なら──あの壁を超える糸口を知っているかもしれない。
「ああ。私は、ロイスから呼ばれて、今日こちらについた。
視察の首尾を聞く予定になっていた。
……なにしろ首都の査定だ。
このブルドア全体の査定にも影響する。首都がランクBになれば、ブルドアも国家としてランクが上がる可能性がある」
──確か、アーカーシャに国家は六つ。
その中にもランクがあるということだ。
少なくとも──隣国ドラールよりは低いことは分かっている。
「ロイスさんは……一瞬でした。一瞬で……影だけになりました。俺たちを庇ってくれました。そのせいで……!
許せない。なぜあんなことを」
「……この世界の民は、すべてアーカーシャのもの。生殺与奪は、帝国の高官は許されている。それを知らないということは、本当に君たちは別の大陸から来たのだな」
──ロイスから聞いているのだろう。
俺たちの出自を知っている。
「じゃあ──こんなことが日常茶飯事なんですか?」
殺人が正当化されている。
そんな世界が——あるのだろうか。
「さすがに、すぐに殺すということはめったにない。
だが、投獄、監禁などは茶飯事だ。──左遷で済んだダゴスが珍しいくらいだ」
なるほど。
これは──大陸の文化だ。
上官は、気に食わなければ配下の扱いを自由にできる。
時には──殺すことも。
ダゴスがファングを投獄したのも──もしかすると、こちらの大陸ではごく普通のかのかもしれない。
「──街や国は動揺していないんですか?」
俺は言った。
「ロイスは民から信頼されていた。その分──動揺はなくはない。だが、新たな市長が指名されれば、すぐに落ち着くだろう」
「指名って、帝国から?」
キセキが聞いた。
「そうだ。私も含めて──百八の都市の長は、すべて帝国に指名される。
これまでの仕事、功績、人間性、あらゆる点で人選される」
……すさまじき、管理社会。
そして、民主主義の正反対だ。
それで民は納得するのだろうか。
「ロイスさんはやっぱり……亡くなったんですよね」
俺は、少しためらいながら言った。
目の前で起きた出来事だ。
だが──現実に残ったのは、黒い影だけだ。
「……そうだ。過去にも、私はあの式術を見たことがある。
サーラ様の……〝フルグル〟。あれは、雷で一瞬で人を焼き尽くす、そういう類の式術だ。……痛みもなかっただろう」
……恐ろしい式術だ。
俺が知っている雷の式術と言えば、テオロッド国王──アレクシオ王。
彼の式術は見たことはないが、零式と言われるその雷でさえ、あの破壊力は考えづらい。
つまり。
零式より、数段上。
あいつらがカラミティアル、と表現したこの大陸特有の力があるのだろう。
「これから、この国はどうなるんでしょう」
俺は聞いた。
「どうにもならん。新たな市長が指名され、今まで通り進んでいくだけだ。
ただ、今回はお咎めがあるかもしれんな。ランクが下がる可能性もある。
──まあ、お前たちには関係ないことだ。
早く、元の世界に帰るがいい」
元の世界。ロッド大陸のことだ。
「そうはいきません。仲間を──奪われました。取り返しにいきます」
「……デュラン様たちから、あのユルガン族を?
悪いことは言わん。やめておけ。
お前たち、まだ十代だろう。死に急ぐ必要はない」
「なめないで。そう簡単に死なないわよ」
メイがゼルグを睨みつける。
やめてくれ。ややこしくなる。
俺はメイを制して続けた。
「取り返さずに帰るわけにはいかないんです。どうにか、ドラールへ渡る方法を知りませんか」
俺は、ゼルグの顔を真っすぐ見て言った。
ゼルグは、ため息をついた。
「……死に急ぐ若者を見届けたくはないんだがな。そういう目をされると、嘘はつけないな。渡る方法なら──ある」
「教えてください!」
その言葉に、俺は立ち上がり、机に手を乗せた。
「おい、落ち着けってアラタ」
ラウルの言葉に、俺は息を吸って椅子に座った。
ゼルグは続けた。
「……正確には、〝できた〟だな。これまで渡る方法など、一切なかった。
だが、つい先ほど、方法ができてしまった」
「……できてしまった?」
キセキが言った。
──言い方に含みがある。
「これは独り言だがな。
お前らの仲間の女が──先ほど壁に大穴を開けてドラールに入国したそうだ。
その壁のあたりは、両国の憲兵が封鎖作業をしている。
早ければ今日中にも復旧作業が終わりそうだ」
ゼルグが、少し遠くを見ながら言った。
……エルデネだ。
どうやって追いかけて行ったのかと思っていたが。
「……ありがとうございます。ゼルグさん」
俺は立ち上がった。
みんなもそれに続く。
──急がなきゃ。
「異国の若者たちよ。──死ぬなよ」
俺たちを送り出すゼルグは、まるで父親のような目をしていた。
ブルドアは──多分大丈夫だろう。
この人がいれば、なんとかなる。
しかし、疑問が残る。
ダゴスはまあ置いといて、ゼルグやロイスのようないわゆる〝人格者〟を長に選ぶ一方で、デュランのような〝暴君〟が存在している。
一体、アーカーシャの人事制度はどうなっているんだ。
──俺たちは、市庁舎を出ると、壁の穴へと走った。




