第三十七話 作戦準備と、高い壁と。
それからの三日間で、俺たちは大分ガリアのことを理解できた。
文明レベルが近いからか、なんとなく、アルカディアに似ている。
科学研究所や式術学校もあり、アルカディアとテオロッドを足したような街だ。
「ランクDだったガリアを引き上げたのは、間違いなくダゴス師匠の功績だ」
ロイスは、街を案内しながら言った。
「ダゴスは、なんでパルファムに?」
俺はロイスに聞いた。
初対面の時より、大分話しやすくなっている。
「帝国の人事だから詳細は分からないが……査定官は〝発展が急すぎる〟と漏らしていたことがある」
「急すぎる?──発展が早いと帝国に不都合があるんですかね?」
「さあな。一方ではランク管理で発展を促進させ、急な発展は制御するとしたら──帝国の目的は良く分からないな」
ロイスは言った。
そのあたりは、作戦を成功させ、直接帝国の中枢に入り込めば分かるのだろうか。
「君たちの大陸は──なぜこちらの大陸と交易をしないんだ?」
今度はロイスが尋ねる。
「そもそも、文明なんてないって言われてたからね。私は、こっちの大陸生まれみたいだけど」
エルデネが言った。
「ユグラシアの……?だとしたら──君の身体にはチップが埋め込まれているはずだが」
「へえ。みんな、どこに入っているの?」
「基本的には、ここだ」
ロイスは頭を指した。
「頭の柔らかい赤ん坊のうちに、頭蓋から埋め込む。──成長につれ頭蓋のつなぎ目が閉じ、
簡単には取り出せなくなる」
「頭の中に、機械かあ。なんか気持ち悪いね」
エルデネは言った。
「私たちはそういうものだと教わってきている。帝国の管理下で、役割を全うしながら生きていくだけだ」
「自由がなくなったら、つまんなくない?」
──珍しく、エルデネが話を続ける。
「まあ、私は自由すぎて暇になったから自分のルーツを探しに来てるんだけど」
「……ルーツか。少なくとも、カラミティアルの式者であれば、帝国が把握していないはずがない。
君はいつから別の大陸にいるんだ?」
「うーん。少なくとも三十年以上前かなあ」
エルデネの言葉に、ロイスは目を見開く。
「は……?君は二十代前半だろう?」
やはり。そう見えるか。
「いや、多分四十歳くらいじゃないかな」
「え……いや、そんな……失礼した。まさか、年上とは思ってもいませんでした」
ロイスは分かりやすく狼狽えている。
彼からすれば、二十代の姉が弟や妹を連れて旅をしているように見えるだろう。
この話をしたら、また母さんが怒りそうだ。
──怒るからしわが増えるのに。
それを言ったら、怒らせるあんたが悪いと首をしめられそうだ。
エルデネは、昔を思い出しながら話を続けた。
「小さい頃に、海に流れ着いたみたいだよ。この大陸で生まれたかどうかは分からないけど」
エルデネは伸びをした。
「まあ、もはやどうでもよくなってきたけどね。むしろ帝国の秘密のほうが気になるなあ」
「僕も気になる」
キセキが言った。
「ここより科学が発展しているなら、アルカディアの未来がそこにあるかもしれない」
未来都市。
その響きには確かに憧れる。
一方で、怖さも感じる。
「俺は、科学はどうでもいいな」
ラウルが言った。
「まあ、知らないところに行くのは楽しいけどな」
「強い剣士とかいるのかしら」
メイが続けた。
この二人も、それぞれ自分の軸で旅をしている。
改めて考えると、なんと価値観のバラバラなパーティだろうか。
アイネは──ガリアの文明に驚いてばかりだった。
無理もない。最近まで、遊牧民の社会しか知らなかった子だ。
自動で動く機械も、走る鉄の塊──蒸気機関車も、初めてみるものばかりだ。
なにか見つける度に、俺やキセキに「あれは何?」と聞いていた。
文明レベルが近いこともあり、人々の服装は俺たちとそう変わらなかったので、特に俺たちは衣装を買える必要はなさそうだった。
──無駄に露出の多いエルデネと明らかに遊牧民のアイネは、ガリアの店で衣装替えをしたが。
ガリアの民は活気があった。
きっと、ロイスもいい市政を行っているんだろう。
──ただ。
街を歩くたびに気になったのは──高い壁だ。
国境壁とダゴスが言っていたが──どこまで続いているのかは分からない。
ブルドア国とドラール国のあいだに存在する、人の力で越えられない壁。
世界は明確に断絶されている。
その壁を──俺たちは超えられるのだろうか。
全ては作戦次第だ。




