第三十三話 ランクC都市ガリアと、検問と。
馬車の横に続く線路。
その線路を、大きな音を立てながら蒸気機関車が走っていく。
その音に、アイネは驚き、隣の席の俺にしがみついた。
俺は不意なアクシデントに喜びながらも、
その機関車を眺めていた。
「……アルカディアだ」
俺は、思わず呟いた。
線路の先に見えるのは──煙が立ち登る都市。
ランクC都市──ガリアだ。
「なんだか、懐かしいね」
キセキが続けた。
「これが、科学……」
アイネは蒸気機関車の勢いに驚き、唖然としている。
無理もない。
俺だって、はじめて蒸気機関車に乗った時はどきどきした。
存在を認識していても、その迫力はすごみがある。
「いよいよやってきたねえ。でも、ここはまだ帝国の入り口だね」
エルデネが後ろで伸びをしている。
「……また俺がずっと馬車動かしてるけどな」
ラウルがぼやいているが、エルデネは意に介していない。
近づく、都市の音。
ユルガン族の土地、草原。
土煙の舞う、レンガの街、パルファム。
これまで通ってきたユグラシアの景色とは、まったく違う街。
目の前には、俺たちのよく知る文明、アルカディアのような街が広がっていた。
街のはずれから立ち昇る、黒い煙。
工業地帯だろう。
人の多さも、並外れている。
俺たちが馬車で街の入り口に到着すると、その街が壁に囲まれていることが分かった。
──まるで、外からの来訪者を拒むかのように。
検問の兵が、俺たちの馬車に近寄ってくる。
「低ランク都市からの旅人か。許可証を見せろ」
明らかに見下した様子で発言する。
「なんで決めつけてんのさ」
エルデネが言い返す。
「今時馬車で来るものなどおらん。同ランク都市とは線路が繋がっているからな。──まあ、蒸気機関車に乗ったこともないだろうが」
失礼なやつだ。
同時に、この世界でランクがいかに重要視されているかが分かる。
「ロイス市長あてで、パルファムから来ました。──ダゴス市長の口ききで」
エルデネに変わって俺が言った。
ダゴスの言う通りなら、これで話が通じるはずだ。
すると、衛兵たちがひそひそと話し始める。
やがて、奥から責任者らしき男が出てきて言った。
「失礼しました。ロイス市長より伺っております。ご案内します。
馬車は、こちらでお預かりしておきます」
ふむ。半信半疑だったが、ダゴスからの連絡はちゃんと伝わっていたようだ。
ひと安心だ。
「……ってここ、完全に牢屋じゃねえかよ!」
俺は一人で叫んだ。
俺たち六人は、憲兵に連れられた部屋に入った。
少し薄暗いのと、扉がやたら頑丈なのが気になったが、
俺たちは案内に従った。
憲兵が部屋を出ると、扉を施錠する音がした。
「それでは、ごゆっくり」
その時に少し違和感は感じたが……。
「牢屋にしては設備がしっかりしてない?応接間みたい」
メイが言った。
確かに、調度品は立派だ。
気になるのは、真ん中に置かれた立派な黒い石。
なんだか──体から力を吸い取られるような気がする。
「まあ、これは監禁されたと言っていいだろうねえ」
エルデネが言った。
「なんでだよ」
俺は聞いた。
「あの石」
エルデネは、部屋の真ん中の黒い石を指した。
「あれ、霊峰ライゼルにもあった。確か、式力を吸い取る石だね。
式力が弱まってる。──ほら」
そう言って、手のひらに火の球を出す。
……饅頭くらいの、小さい炎。
「僕もなんだか気持ち悪いよ」
キセキは座り込んだ。
つまり。
「俺たちが式者と分かった上で閉じ込めた、ってことか」
俺は言った。
「そうなるね。──意図はわかんないけど。さて、どうするかあ。
このままここで暮らす?」
エルデネが言った。
「ふざけてる場合かよ。──ロイス市長に会わないと始まらないだろ。
脱出するぞ」
「どうやって?」
扉をガンガン蹴りながら、メイが言った。
メイの馬鹿力でも、びくともしない。
「どうしたら……」
アイネは、おろおろしている。
ここでバシッと何か思いつけばかっこいいのだが。
俺たちがそんな話をしていると、
──あの男が重い腰を上げた。
「おいおい、お前ら、忘れちゃいないか?このラウル様を」
指を動かしながら、扉に近づいていく。
「鍵開けのラウルとは、俺のことだ」
──海の男じゃなかったのか、お前は。
ラルフは鍵に針金を差し込み、器用に動かしていく。
幸い、外に南京錠があるわけではなく、鍵穴式だ。
これなら、もしかして。
一同の期待の目がラウルに集まる。
ほどなくして、ラウルは額の汗を拭きながら言った。
「ダメだった。わりい」
少しだけ、恥ずかしそうな顔をしている。
まあな、大言壮語吐いてたもんな。
恥ずかしいよな。気持ちは、分かる。
俺は、少しラウルに親近感が湧いた。
しかし……いよいよ打つ手なしだ。




