第三十二話 寝不足と、仲間の証と。
「なんか目が充血してない?アラタ」
朝食を食べながら、メイが言った。
余計なことに気が付かなくていいのに。
「そうかな。気のせいだよ」
俺はそっけなくそう言った。
まったく鋭い女だ。
俺は案の定、眠れぬ夜を過ごした。
頭の中から、アイネの笑顔が離れない。
今までの人生で、こんなことなかったのに。
気が付いたら、ほとんど眠れないまま、カーテンから朝日が射していた。
目が充血するのも当然だ。
「それより、今日ガリアに着くんだろ?準備はしなくていいのか」
俺は話を逸らした。
「準備って、なんの?」
メイは言った。
「武器とか、防具とか。──また戦闘になる可能性もあるだろ。
できれば、それは避けたいけど」
「あー、確かに。皆の防具もそうだけど、ラウルの剣も買った方がいいかもね」
メイはサンドイッチを頬張りながら話す。
「……メイの予備を借りているだけだからな。できれば欲しいな」
ラウルが頷いた。
「エルデネ、ファングにもらった旅の資金は、結構あるんだろ?」
俺はエルデネに聞いた。
一応、唯一の大人である。
財布の管理はエルデネがしているはずだ。
「え?よく分からないからアイネに預けてあるよ」
想定外だ。
俺はアイネのほうをちらっと見る。
……昨日の夜のことを思い出し、少し恥ずかしくなる。
「ガリアの物価が分からないけど……パルファムだったら、一年暮らせる分くらいのお金はもらってるよ。だから、装備の買い物くらいなら全然大丈夫だと思う」
アイネは、昨日のことなど意識していない様子で言った。
……舞い上がっているのは、俺だけか。
少し残念な気持ちになる。
「じゃあ、この街で装備を揃えてから行こう」
俺は言った。
「僕ははちがね、が欲しいな」
キセキが言った。
「はちがね?あの、頭につけるやつか?なんでそんなもん」
俺は聞いた。
「父さんたちが初めて冒険に行った時、鉢金を買ったんだって。
最後の戦いの時には、みんなで揃えたって言ってた。
なんかそういうの、いいじゃん」
……子どもっぽい考えた。
だが。
俺も少し、いいなと思ってしまった。
「……みんなで揃えるのはいいかもな。とりあえず、武具屋を探してみよう」
俺は少しわくわくするのを隠しながら言った。
「やっぱり新しい剣は全然違うな」
ラウルが馬車の外で剣を素振りしている。
「あんたまだ剣の良さなんて分かんないでしょうが」
メイがため息をつく。
「うるせえ。そのうちお前を超えてやるからな、待ってろよ」
「あら、楽しみね。──もしそんなことになったら、なんでもいうこと聞いてあげるわよ」
メイは、年上ぶってそう言った。
「はちがねなかったけど、これはこれでいいね」
キセキは、人数分買ったブレスレットを腕にはめながら言った。
「……防御力と言う点においては皆無だけどな。まあ、こういうのは気分が大事だから」
俺も手にブレスレットを着ける。
銀色の、多分安物。
あんまりロッド大陸では見たことがない文様が彫られている。
装備というより、民芸品に近いものだろう。
だけど、みんなで同じものを着けると、不思議と胸が高鳴った。
「すごい。嬉しい」
──中でも、アイネは喜んでいた。
ただ一人、この大陸の人間、ということを気にしていたのだろうか。
「ねえ、これで私も仲間になれたかな?」
俺に聞いてくる。
「それがなくても、アイネは仲間だよ。
だけど──証みたいなのができたな」
俺は答えたが、内心は別のことを考えていた。
アイネと二人だけでお揃いの何かを買えばよかった、と。
……一緒につけようと言う勇気があるかは別として。
それ以外にも、各々防具を中心に装備を固めた。
これで、一旦の備えはできた。
とにもかくにも、今日にはランクC都市──ガリアに到着する。
一体、そこに何が待っているのだろうか。




