第二十九話 祝杯と、今後の動きと。
「えー。市長続投ってこと?随分甘いんじゃない?」
メイは言った。
手にはグラスを持っている。中身は酒だ。
パルファムの中にある、酒場。
祝杯だと言ってエルデネとメイが入ってしまったから、
仕方なくここで食事をとることにした。
「まあ、それがファングさんの判断なんだろ。
実際、帝国のことについては詳しいのはダゴスだし。
ファングさんとガンダルさんがサポートすれば、何とかなるんじゃないか」
俺はハムをつまみながら言った。
「帝国の中心ってどうなってるんだろうね。僕、そっちに興味が湧いちゃったよ」
キセキが言った。
「お前らが聞いた話だと、アルカディアより科学が発展しているかもしれないんだろ?
──そこまで行くともう分けわかんねえな。俺からすりゃ、アルカディアすら未来都市なんだから」
ラウルは、グラスの酒を飲みながら言った。
──おい、未成年。
ユグラシアでは知らないが、ロッドの法律では十六歳未満は飲酒禁止だぞ。
「んじゃあ、その中心部とやらに乗り込もうか」
エルデネが言った。
「え?行くの?」
俺が言うと、皆が冷たい目をした。
「あんたまさか、ここまで来て帰ろうってんじゃないでしょうね。
今から戻ろうが、旅をやりきって戻ろうが、たいして変わりはしないわよ。
どうせなら、大人たちに大発見を持ち帰ってやろうじゃない」
メイが目を輝かせながら言った。
「いや、ユルガン族の問題も解決したし……一旦テムルさんたちに報告しに行ったほうが」
俺はアイネの方を見た。
アイネは、俺の言葉に首を振った。
「戻ったら……きっともう出られなくなる。私は──皆と旅を続けたい。
足手まといになってるかもしれないけど」
懇願するような瞳で、皆を見つめた。
「こっちの大陸を知っているのはアイネだけだし、いてくれたほうが助かるよ。
じゃあ、決まり。このまま中心部までつっこもうぜい」
エルデネはそういってグラスを掲げた。
アイネは嬉しそうに頷いたが、俺は一抹の不安が過った。
生体認証、チップ。
聞きなれない科学の言葉。
まだ見ぬ世界。
果たして、このまま突き進んでいいのだろうか。
大人たち──父さんたちの力を借りずに、このメンバーだけで旅を続けるべきか。
一瞬考える。
しかし。
目の前で嬉しそうにほころぶアイネの顔を見ると、それ以上は何も言えなかった。
ユルガン族への報告は、ガンダルさんが責任を持って行うと言ってくれた。
「これまでの非礼、本当にすまなかった。君が旅を続けることは、私からテムルさんに報告しておく。──無事に帰ってきてくれ。それまでに、パルファムもよい街にしておく」
はじめて出会った頃の威圧的な騎兵隊長はどこへやら、真摯な騎士が一人、頭を下げていた。
多分、パルファムは大丈夫だろう。
ファングさんとダゴス市長の共同声明も聞いたが、
これまでの方針への謝罪と、民にとってよりよい街づくりについて説明していた。
同時に、ダゴスは道を間違えたらいつでも退任する、とまで宣言していた。
ダゴスは、根はそんなに悪い人間ではない気がする。
少なくとも、街を良くしたい気持ちだけは本物だったように思う。
自分の理想を押し付けすぎて、暴走したのは反省してほしいが。
エルデネは、性格の悪さを前面に出していた。
ことあるごとに指をダゴスに向けて遊んでいた結果、
すっかりダゴスは怯える反応をするようになってしまっていた。
少し哀れだ。
だけど、もしエルデネが敵に回ったとしたら──とてつもない脅威だ。
父さんたちは、よくこんな化け物を敵に回して戦っていたな、と思う。
昔の話はあまり聞いたことがないが──
無事に戻れたら、久しぶりに父さんと話をしてみよう。
その頃には俺も──少しは成長しているだろう。




