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ユグラシア冒険記 —幼なじみに連れられて、未知の大陸を冒険することになった件—  作者: ヨダカカツキ
第三章 ブルドア国パルファム市

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第二十八話 ダゴスの思いと、アーカーシャの仕組みと。

「まず、あの盗賊団をなんとかしてください。

──もう何とかなっちゃってるかもしれませんが」

俺は言った。


ダゴスは、バジャとグラムに指示を出す。

二人は市長室を出ていった。


「……盗賊団は帰すように伝えた。それで、他には」


ダゴスは言った。


「なんか態度がでかいねえ」

エルデネは、舌打ちをして言った。

ダゴスをひとにらみする。


指をダゴスに向ける。

するとダゴスはひいっ、と叫んで続けた。

「そ、そんなつもりは……!や、やめてくれ」


……情けなくなるほどの小悪党感。


「エルデネ、まずは話がしたいから、脅しは一旦やめてくれ。

ダゴスさん、まずアーカーシャの全体像について教えてください。

パルファムのアーカーシャにおける立ち位置も」

俺はエルデネを制して言った。


「アーカーシャについて……?お前らは、帝国からの使者じゃないのか」

ダゴスは、怪訝な目でこちらを見る。


「使者?なんでそう思ったんですか」


「……カラミティアルの式者など、ランクA以上の街にしか存在しないはずだ。

少なくとも、ブルドアにはおらん」


「ブルドア?」


この街はパルファムという名前のはずだが。


「本当に何も知らんのだな。一体……何者なんだ、お前らは」

ダゴスは驚きの顔をする。


「いいから、質問に答えろって。マジで撃つよ」

エルデネは指を再び向ける。


「わ、わかったから……指を向けるのはやめてくれ。

この街……パルファムは、アーカーシャ領ブルドア国の中にある、最辺境の街だ。

ランクはE。

わしがいたガリアはランクCで、ブルドアの首都だ」


「帝国の中に、国があるんですね」


「ブルドア国の中に、全部で十八の街がある。

──アーカーシャは、こうした国家を六つ抱えた帝国だ」


「ぜんぶで、百八の都市があるってこと?」

キセキが言った。

──父親譲りで、計算はキセキの得意分野だ。


「帝国に承認されている都市は、そうだ。

ランク付けは年に一回行われる」

ダゴスは言った。


「そんなの、聞いたことねえぞ」

ファング──元市長が言った。


「……お前はずっとパルファムで育ったから知らんだけだ。

パルファムは──帝国からの除外候補だ。ただ、代わりとなる街が存在しないから保留されているだけだ」


「帝国から除外されたら──どうなるんですか?」

俺は聞いた。


「科学の享受がなくなる。アーカーシャ帝国が持つ技術は、高ランクの街ほど与えられる。──科学があれば、この街はもっと便利になる」


ダゴスは、少し悔しそうな顔をした。

この男なりに、街を良くしようと考えていたのだろう。


「その科学ってのは本当に便利なのかよ。お前らからしか聞いたことねえから、分からねえな」

ファングが言った。


「──科学は、人の生活を大きく変える。ガリアは、素晴らしい街だった。

蒸気の列車が走り、人々の仕事は機械によって支えられている。

この街に来て最初は──あまりの文明の差に絶望した」


語り口調だ。

──本当に絶望したのだろう。


俺たちもユグラシア大陸に来て、ロッド大陸との文明の差を感じた。

人が住んでいたこと以上に──そっちのほうが驚いたかもしれない。


「それは、お前の価値観だろう。俺たちは別に、今の暮らしに絶望しちゃいない。飯は食えるし、子どもたちも笑ってる。それ以上の幸せがあるのか?」

ファングは言った。


──確かに。

科学の発展が幸せのすべてとは限らない。


実際、ロッド大陸で一番科学が発展していたのはアルカディアだったが、

観光地として人気だったのはブレイヴェンやマルカドール、スクエアだ。


人の幸せの基準は、それぞれということか。


かくいう俺も、生まれた時から科学が当たり前だった。

絶望まではしないまでも、俺もパルファムの文化レベルだと生きていく上では不便に感じてしまうかもしれない。

少しだけ、ダゴスの言い分が分かる。


「まあ、そうかもしれんな……この街の民は、科学の良さを知らないからだろうが……残念ながらわしの方針は受け入れられていない」


ダゴスは、少し俯きながら言った。

自覚症状があったのか。


「受け入れられていないなら、説明すりゃいいだろうが。無理やり方針を押し付けるから反発を食らうんだよ」

ファングが言った。


俺もそう思う。

しかも、やり方はかなり強引だ。

民意に反するのも当然だ。


「そもそもランクを上げることに関心がない民に理解させるには、強引にでもランクをあげるしかないだろう。──まあ、それも難しそうだがな」

ダゴスはため息をついた。


「領土を広げればランクは上がるんですか?」

俺は聞いた。


「……恐らく。帝国のランク付け基準は公開されていない。年に一度、国と街の長に通達されるだけだ。だが、これまでの流れを見る限り、帝国への貢献度、高位式者の輩出、領土の拡大が関係していると言われている。──辺境のパルファムにできることは……領土拡大しかないだろう」


「帝国に聞きにいけばいいじゃん」

キセキが、素朴な質問をぶつける。


「無理に決まっているだろう。足を踏み入れられるのは、同ランク以下の街だけだ。

それ以外の国に入れば──即逮捕だ」


「上手く侵入すればバレなそうだけどな」

ラウルが、頭の後ろで腕を組んで言った。


「……生体認証も知らないのか?帝国の人間は皆、身体にチップが埋め込まれている。

それで、すぐに特定される。残念ながら、このブルドアの技術では仕組みは分からないが」


……どういうことだ?身体にチップ?

何の話をしているんだろうか。


こっちの大陸の科学は、ロッドより遅れていると思い込んでいたが……。

より高度の科学が、このユグラシア大陸──アーカーシャ帝国には存在するということだろうか。


「チップ、ってのが埋め込まれているのは、アーカーシャ帝国の人だけってこと?」

キセキが聞いた。


「そうだ。……お前らも埋め込まれているだろう?出生管理局は各都市にあるが──帝国の直属だ」


なるほど。徹底した国民管理が行われている、ということか。


「いや、僕たちこの大陸の人間じゃないから。多分チップないよ。ね、アラタ?」


……そうだった。こいつはこういう人間だった。


良くも悪くも、裏表がない。

隠し事ができない。


交渉を進める上では──きわめて厄介な性格だ。


「この大陸の人間じゃない……?どういうことだ?

他の大陸に、文明があるのか?」


ダゴスは、目を丸くして言った。

その様子を見ると、どうやら本当に知らないらしい。


「俺たちも、ユグラシアに文明があるなんて知りませんでした。

はるか昔に滅びたものと聞かされていました」


仕方なく俺は続けた。

もう隠していても仕方ない。


「……わしはユグラシア大陸以外の文明はすべて滅びたと教わった。

一体、どういうことなんだ?お前らは──どこから来た。

そこでは──式術者がゴロゴロいるのか?」


俺が言いかけると、エルデネが口をはさんだ。


「海の向こうの、ロッドと呼ばれる大陸だよ。私くらいの式者は、そこら中に転がっているよ」


──嘘だ。


俺は、交渉を有利に進めるためのハッタリだろうと察した。


「……そんな馬鹿な。カラミティアルがそんなにたくさん……」


「そのカラミティアルって何なのさ」

エルデネが聞いた。


「……ランクAの中でも、災害級と呼ばれる式者だ。一国を破壊しうる力を持つと言われている。わしは会ったことさえない」


「へえ。じゃあ、帝国では上位式者は珍しいんだね。重用されちゃったりして」

エルデネはおどけるが、ダゴスは笑っていない。


「……お前らの言うことが本当なら、別の国に行って確かめるしかないだろう。

少なくとも、ブルドアの中にはいない」


「どこを目指せばいいのさ」


「最も中心部は──アーカーシャ。帝国の名にもなっている聖地だ。

だが、その場所さえも分からない。なにしろ、わしらは隣国にさえ入れないんだからな」


「ブルドアの隣は何てとこなの?」


「ドラール。ガリアから地続きだが、大きな国境壁があって入れない。

だが、別の大陸の人間なら──検知はされんだろうな」


「おっけー。目的地は決定したね。──で、ファング、こいつはどうする?」

エルデネがファングの方を見た。



「そうだな。ダゴス、お前引き続き市長をやれ」


ファングの言葉に、一同が驚いた。


え?


普通、やめさせて投獄するとかじゃないの?



「……どういうことだ、ファング」

ダゴス本人も覚悟を決めていたようで、驚いている。



「少なくとも、今日聞いた話は俺が市長時代には知らなかった話ばっかりだ。

そのあたり考えると、ブルドア全体を知っているお前が市長をやった方がいいだろう。

その代わり、俺がお前と民を繋いでやる。そうすれば、街はまとまるだろ」


「いや……確かにお前がやればそれはできるかもしれないが……しかし、いいのか。

わしが市長で」


「ああ。その代わり、土地の接収はやめさせろ。ガンダルたち──騎兵団は、本当に苦しんでいた。領土の拡大以外でランクを上げる方法を考えろ」


「……分かった。難しいかもしれないが」


「もし裏切ったら、殺しに来るね」

エルデネが、笑顔で言った。


──目が本気だ。怖い。


俺たちは、ダゴスと共に市庁舎を出た。

ファングは、途中すれ違った職員たちに市庁舎前の広場に来るように告げた。


これから、民衆に向けた共同声明を出すようだ。


市庁舎前では、メイたちと盗賊団が集まっていた。


──盗賊団の方に怪我人がいるが、死者はいないようだ。

メイも、手加減したんだろうか。


「おい、ダゴスさん!こいつら強すぎるぜ!割に合わない仕事寄こしやがって」

盗賊団のボスらしき男が話しかける。

それを見て、ダゴスは言った。


「そうだな。割に合わない。お前らも、これに懲りてまじめに働け。仕事を斡旋してやる」


盗賊団との繋がりを隠すことも否定もしない。

この期に及んでというのもあるだろうが、意外とダゴスは胆力のある人物なのかもしれない。


「アラター!市長ぶっ倒したー?」

メイが叫びながら手を振っているので、俺は黙ってダゴスの方を指さした。


盗賊団の対応をしてくれたことには感謝だが……

戦いだけが解決の手段ではない。

そのあたり、メイにも知ってもらいたいものだ。

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