第二十五話 青のバジャと、緑のグラムと。
「おい、バジャ。もう無駄だぞ」
ファングは水を流し込む式者の後ろから声をかけた。
青い髪の男が振り向く。
三十代くらいだろうか。
眼鏡をかけた、細身の男だ。
「おやぁ……ファング。脱獄ですか?それはまずいですねぇ。死刑になるかもしれませんよ」
眼鏡を指で上げながら、にやりと笑う。
——嫌な顔だ。
式術者としての、自信を漂わせる。
「ランクB式者の私に立ち向かうなんて、随分馬鹿な人たちですねえ。後ろにいるのは……ガンダルじゃないですか。あなたも捕まることになりますねぇ」
「……お前らは、郊外に向ったんじゃないのか!」
ガンダルが言い返す。
「あんな見え見えの嘘にひっかかるわけないでしょう。ねぇグラム。——騎兵団の裏切りだと言うことはすぐに察しましたよ」
バジャが言うと、グラムと呼ばれた男——緑の髪の男が頷いた。
「バジャさん、やっちゃいましょうよ。こいつら捕まえれば、ダゴス様も喜ぶ」
グラムよりバジャの方が身分か、歳が上か。
絵に描いたような腰巾着だ。
「この階にいた囚人たちはどうした。姿が見えないが」
ファングが周りを見回す。
「あなたと違って、地下二階以上は刑期の軽い罪人ですから。一時避難させてますよ。
——心置きなく、あなたたちを懲らしめられます」
そういうと、バジャは笑った。
「——エルデネ、そういうことらしい」
俺は言った。
「おっけー。心置きなく、だね」
エルデネは頷くと、右手から火球を作り出した。
それを見ていたバジャの顔が、蒼白になる。
「なっ……ランクA……!?いや……Sか……?」
さっきからランクがどうこう言っている。
——ロッド大陸とは尺度が違うのだろうか。
まぁ、関係ない。
こっちの世界でも、エルデネの火力は災害級であることに変わりはない。
「ひ、ひいっ!」
グラムが腰を抜かす。
「お、おい、お前が腰を抜かしたら回復ができないだろうが!」
バジャも慌てている。
「どうするー?ここで消し炭になる?」
エルデネが言うと同時に、二人の式者は——逃げ出した。
「アラタ、追う?」
メイが振り向きながら聞いた。
俺は頷く。
「多分、ダゴスのところに行くだろう。ついていこう。道先案内人だ」
俺たちは逃げ出した式者の後を追った。
——しかし、エルデネの火力は見せるだけで十分脅しになるな。
案外、この旅も余裕かもしれない。




