第二十四話 溺れる俺と、力技と。
「なあ、エルデネ」
向かってくる鉄砲水を見ながら、俺は言った。
「なに?」
エルデネも、一緒にそれを見ている。
「あれ、全部火で吹き飛ばしたりできないよな」
「できるかもしれないけど、他の囚人も全員吹き飛ぶよ」
「……却下だな」
話しているうちに、鉄砲水は俺たちを包み込む。
あっという間に、俺たちは水の中に飲まれた。
当然、泳げない俺は水の中に沈んだ。
──泳ぎ方、学校で教えてくれなかったじゃねえか。
こんな形で俺は死ぬのか。
俺は、諦めて体の力を抜いた。
すると、視界に俺に近寄る影が見えた。
──メイだ。
俺の右手を掴む。
同時に、左手を誰かに捕まれる。
──アイネ。
どうしよう、なんて恥ずかしいところを見られてしまったんだ。
生死がかかる状況だと言うのに、俺はそんなことを考えていた。
二人によって、水面に引き上げられる。
「アラタ!体の力をもっと抜いて!足を動かせば、浮くから!」
メイが叫ぶ。
「メイさん、でも、もうすぐ天井に……」
アイネが言った。
何とか、顔を出すくらいのスペースはあるが──
この水の勢いでは、すぐに天井に到達しそうだ。
すると、ファングは思い切り天井に向かって拳を打ち付けた。
あたりに、鈍い音が響く。
──まさか。
天井を破るつもりか?
俺は、ふと思いつき、必死でファングの元へ泳いだ。
──泳いだとは言えないかもしれないが。
そして両手をファングの背中につけ──思い切り、祈りを込めた。
「ブースター!!」
俺が叫ぶと、手から橙色の光が生まれ──ファングの中に入っていった。
「おおっ!なんだこりゃ!力が……湧いてくるぜ!」
次にファングが天井を殴ると──天井に大きなひびが入った。
──もう一息だ。
「あぶっ……キセ、キ……!紫炎だ!」
俺は水を吸い込みながら、キセキに言った。
キセキは頷くと、両手から紫炎を作り出した。
ファングが作ったひびに──それを撃ち込む。
天井が音を立て、崩れる。
──上階への道ができた。
ほどなくして、水面が天井近くになり──俺たちはそこから上階へ上がった。
俺は、飲んだ水をその場で出した。
空いた穴──先ほどまで天井だったその場所からは、水があふれている。
この階を水が侵食するのも、時間の問題かもしれない。
──いや、違う。
「この階は水がないってことは──敵はこの階にいるってことじゃないの?」
キセキが言った。
先に言われた。そう。その可能性が高い。
「じゃあ、探知してみよっか」
エルデネが言った。
「足で探した方が早いでしょ」
そういうと、メイは駆けだした。
ラウルもそれに続く。
俺はと言えば──情けなく、まだ水を吐いていた。
背中を、アイネがさすってくれている。
──情けなさと、その手のぬくもりとで、複雑な感情になる。
「ありがとう、アイネ。──もう大丈夫。ごめんな、情けなくて」
俺が言うと、アイネは首を振った。
「そんなことない。アラタが頑張ったから──ファングさんが救えたんだよ。
さあ、ここを脱出して──パルファムを救おう」
パルファムを救う。
そんな風には──考えてなかった。
俺は立ち上がると、アイネと共にメイたちが向かった方向へ向かった。
──そこには、予想通り、青の式術者──バジャが立っていた。
横には、緑の髪をした男が並んでいる。
予想通り、この階から水を流し込んでいたようだ。
あれだけの水を流せるということは──それなりの式者だろう。
俺は、気を引き締めた。




