第十九話 騎兵団長ガンダルと、父の教えと。
「わざわざそちらから出向いてくるとはな。手間が省けて助かる」
ガンダルは、剣を抜きながらこちらに向かってくる。
──後ろには、数十人の兵士が控えている。
前回とは訳が違う。
「──懲りない男ね。またやられたいの?」
メイが剣を抜きながら向かっていく。
俺はそれを引き留める。
「ちょ、ちょっと待てメイ」
俺は、ガンダルに向かって話をする。
ここで戦闘になったら──どちらかに怪我人──下手をすれば死者がでる。
できれば──話し合いで解決できないか。
「ガンダルさんでしたっけ。ちょっと色々聞きたいんですけど」
俺はできるだけ落ち着いた声で言った。
「──なんだ。見つけ次第捉えるように、ダゴス市長から言われている」
「そのダゴス市長についてと、式術者について聞きたいことがあって」
「話すことなどない」
「いやあ……それは困りますね。話ができないとなると……あれを放つしかないんですが」
俺は、言いながら空に浮かぶ極悪な火球を指さした。
エルデネに頼んだ──脅しだ。
ガンダルがそれを見た瞬間、ひるんだのが分かった。
「まず、話しましょうよ。話せばわかることもあるかもしれないし」
「……分かった。だが、展開次第ではすぐに斬りかかるぞ。俺たちは、命など惜しくはない」
……嘘つけ。
冷や汗をかいているのが、バレているぞ。
ガンダルは一旦剣をしまい、こちらにやってきた。
一定の距離を取りながら対峙する。
「貴様らは何者だ。ユルガン族に式術者など存在しないはずだ」
「ああ、そうですよね。俺たちは旅人なんです。ちょっと遠いところから」
俺は慎重に言葉を選びながら答える。
「式術者は、ランクC以上の国にしかいないはずだ。こんな辺境に──いるはずがない」
言いながら、ガンダルは自分を貶めたことに気づく。
「ランクC以上の国にはいるんですね。なるほど。そのあたりも教えてほしいんですが──
まず、ぶっちゃけダゴス市長についてどう思います?」
俺は、突っ込んだ質問をした。
「……どういう意味だ」
「パルファムは、ダゴス市長になる前は土地の接収などしていなかったはずです。
皆、納得して強引な接収をしていのかなと思って」
俺は、アイネの方を見る。
アイネは、その真っすぐな黒目を向けながら強く頷いた。
「……上司の命令だ。仕方ないだろう」
少し、ガンダルの目が泳ぐ。
騎兵団の矜持も、持ち合わせていそうだ。
「そもそも、ダゴス市長はなんでランクを上げたいんですか?」
「……ランクが上がれば、科学の恩恵が増えるから、と聞いた。
そうすれば、生活が豊かになると。
俺たちにはさっぱり分からないが──ランクCから来た市長が言っているんだ。
間違いないだろう」
「訳のわからないもののために、罪もない人々から土地を奪うんですか?」
俺は、まっすぐとガンダルの目を見据えながら言った。
ガンダルは、目を伏せる。
いける。もう少し。
こういう議論の進め方は──父さん仕込みだ。
小さい頃から、物事を考えるときに、必ず父さんに聞かれた。
〝どうしてそう思った?〟
〝アラタが相手ならどうする?〟
相手の立場で考えれば、自分の立場だけでは見えないものが見えてくる。
──それを、活かす時だ。
「ガンダル団長。騎兵団の使命はなんですか?」
「……民を危機や脅威から守り、街を守ることだ」
「ユルガン族は〝脅威〟なんですか?」
「いや……だが、抵抗するならば……脅威になりうる」
「なりますか?武器も持たない、遊牧民族ですよ?草原を旅しながら、自給自足を営む、平和的な人々です」
「うっ……」
「それを無理やり奪い取るというのは──騎兵団の精神に合ってるんですか?」
「……何が言いたい」
「つまり──元のパルファムに戻りませんかっていう話です」
「──お前、まさか」
「市長を追い出して、元のパルファムに戻す。
──ユルガン族との交易も元に戻り、騎兵団の皆様は誇りを持って働ける。
どうです?悪い話じゃないでしょ」
「……お前、何者だ」
「ただの旅人です。よろしければ、皆さんと話してきてください」
相手に判断の時間を与えるのは大事だ。
これも、父さんの教えだ。
勝ちすぎるのは良くない。
お互いが勝てる方法を見つけるのが、交渉だ、と。
──当時はめんどくさいと思っていた父さんの話が、
こんなところで役に立つとは思わなかった。
「分かった。少し時間をくれ」
そういうと、ガンダルは騎兵団の元へ戻って行った。
──あとは、良い判断をしてくれることを祈るばかりだ。




