第十五話 式術修行と、謎のプレイと。
「ねえアラタ……式術って、昨日の不思議なちからのことだよね。……そっちの大陸では、皆使えるの?」
エルデネについて歩いて行く途中、アイネが言った。
「いや、皆じゃないよ。髪の色が、灰色じゃない人だけ。ほら、メイとかラウルは灰色だろ?
あいつらは使えないんだ」
「じゃあ、エルデネさんと、アラタ、あとキセキは使えるの?」
「うん……俺の式術は、よく分からないんだけどね」
「え?でも私たちを守ってくれたじゃない」
「あれは……もう咄嗟にできただけで……」
話をしていると、エルデネの足が止まった。
手のひらから火球を出し、空に浮かべる。
「うわあ……」
アイネが声を漏らす。
そりゃそうだ。
人の手から、こんな極悪な炎が生まれるなんて──式術のない世界では考えられないだろう。
「照明代わりね。しばらく浮かしとく。まずは──分かりやすいキセキからだね」
エルデネが言った。
「僕の?父さんからは使うなって言われたけど」
「そりゃ、幼少期の君は大変だったからね。まったく制御できない。暴発する。
ミサキがちょいちょい精神干渉して制御してたよ。懐かしいねえ」
なんとなくだが、俺も覚えている。
今でこそおとなしいキセキだが、小さい頃は走り回りながら式術をあちこちに放っていた。
アルカディアの街の壁には、キセキが破壊した穴があちこちにある。
「君のその式術は、ロッドの歴史上にはない。だけど両親から類推すると、
赤の炎と紫の幻惑が混じった──紫炎という性質だ。
これまでの被害から考えるに、それは生体エネルギーとして発せられている」
エルデネが、珍しくまじめに話している。
「被害って……人聞きの悪い」
キセキが不満そうに言った。
「……被害だよ。うちの裏の公園の壁はお前が空けただろ」
俺は言った。
「私のこの炎と違うのは、〝火ではない〟ということ。どういう仕組みか分からないけどね。
とにかく、その紫炎をぶつけた先は、物理攻撃を受けたような痕跡が残る。
つまり、自由に扱える武器を持っている、という感じだ」
昨日、キセキが倒した兵士の背中を思い出す。
そこには、鈍器で叩かれたような形跡が残っていた。
エルデネは続ける。
「──つまり、制御を覚えれば、剣だろうが斧だろうが鞭だろうが、キセキは自由に使える可能性があるってことだ」
──目的に応じた武器の使い分け。
それは、もしかするととんでもない戦闘スキルなんじゃないか?
「というわけで、キセキは後で制御の訓練だね。
問題は──アラタだ」
はい。分かってます。
「君の式術は──あのサイレスが匙を投げたほど正体不明。それはアラタも分かっているね」
「ああ。何しろ、白と緑の息子で橙色って……意味が分かんないもんな」
エルデネは頷く。
「色の理由は置いておいて──なんとなく君の式術の効果は分かった」
え?昨日の戦闘だけで?
「今判明しているのは、強化付与と防御。アラタが式術を発動させた後
──メイの身体能力は飛躍的に上がっていた。メイは知っていたみたいだけど」
「あれか……昔から、良くメイの応援はしてたけど……式術とは思ってなかった」
「そんなもんだよ。私も気が付いたら火の玉出せてたしね。後はもう一つ。
アイネたちを守った透明な壁。あれは──防御壁だ」
「あの時は死んだと思ったんだけど」
俺は言った。
剣が目の前に迫った時──確実に死を覚悟した。
「もしかしたら、それが発動条件だったのかもしれないけど……あれが自在に使えたら、戦闘では相当有利になる。君のお父さん──ユイトは土の壁で避けてたみたいだけど」
父さん?土の壁?
あの仕事ばかりの父さんが戦闘をしている姿が──まったく想像つかない。
そして、エルデネはそれを知っているということか。
「で、どうすればいいんだよ」
俺は言った。
「とりあえず、私を〝応援〟してみて」
俺は言われるがまま、エルデネの背中に手を当て、メイにしたように想いを込めた。
すると──俺の体から、何か力が湧き上がったような感覚になり──それがエルデネに流れ込んだ。
同時に、周囲を照らしていた火の球が膨れ上がった。
一気に明るくなる。
「うわっ、こりゃすごいね。式術にも影響あるみたいだ。
──問題は防御のほうか」
エルデネは、少し考えた後言った。
「私はキセキに制御を仕込むから、アイネ、とりあえずその辺にある石とかでアラタを攻撃してみて。
思いっきりやっていいから」
「え?わ、私ですか?」
アイネが戸惑う。
「うん。危なくなったら発動するだろうから、殺すつもりで思い切りね。アラタはその感覚を掴んで」
──めちゃくちゃなことを言っている。
発動しなかったら俺大怪我するかもしれないってこと?
「え、でもアラタが怪我したら……」
アイネが心配そうに言った。
ありがとう、それでこそ優しい俺の天使だ。
「だいじょーぶ、最悪私が緑の式術で治すから。じゃあ、あとよろしく」
そういってエルデネはキセキを連れて森の中へ入って言った。
エルデネは、振り向きざまに言った。
「あ、あと、その応援のやつと防御のやつ、名前考えといてね。分かりやすいやつ」
……また無茶ぶりだ。
こうして俺は気になる女の子と二人きりという最高の状況で、
その子から石を投げつけられるという謎のプレイをすることになった。




