第十四話 いざパルファムと、お荷物な俺と。
「アイネってあんなに兄妹いたんだね。びっくりしたよ」
キセキが言った。
俺たちは、草原の北上し、アーカーシャ領パルファムへ向かっていた。
ご丁寧に、テムルは馬車を用意してくれた。
もちろん、食糧や水も。非常にありがたい。
キセキが言っているのは、昨日合流したユルガン族たちのことだろう。
俺たちが到着したころ、彼らの住居であるゲルは数戸しかなかったが──
馬に乗った住民たちが到着すると、瞬く間に周辺にゲルが広がった。
「私たちは先導隊だ。一族が全員集まると、百人くらいいるだろう。
レジン、こちらへ」
テムルに呼ばれて一人の屈強な男がこちらにやってくる。
──テムルにそっくりだ。
「はじめまして。レジンです。我々の問題に巻き込んでしまって申し訳ございません。
アイネは見た目と違って頑固ですが……よろしくお願い致します」
「ちょっと!お兄ちゃん!」
アイネはレジンの肩を叩いた。
その後も、アイネの兄妹たちが続々と挨拶に来た。
テムルによると、レジンは二十三歳、一番下は四歳。
アイネは真ん中の七人兄妹らしい。
……うちの三人兄弟でも珍しいのに、七人って。
てっきり、一人娘かと思っていた。
「家族が多いのは楽しいよ。キセキは兄妹は?」
アイネは答えた。
「いないよ。……今のところは」
「今のところ?」
「母さんは欲しがっているけど、父さんが仕事しすぎてて、それどころじゃないらしい。
昼間っからする話じゃないね」
うん。生々しすぎるぞ、キセキ。
「ねーアイネ、パルファムはどれくらいで着くの?」
エルデネが伸びをしながら聞いた。
「多分、馬車なら一日かからないと思います」
「げー。じゃあ野宿かあ。そろそろ誰か操縦代わってよ。
ラウル、やって」
「やったことねえよ!」
エルデネの無茶ぶりにラウルが答える。
「だいじょーぶ。船よりは簡単だから。じゃあ、私は後ろで寝るからよろしく」
エルデネはそういうと馬車を止め、こちら側へやってきた。
代わりに、ラウルが席から降ろされる。
「まじかよ……知らねえぞ、暴走しても」
文句を言いながらも、ラウルは操舵席に座り、見よう見まねで馬を動かし始めた。
エルデネは、もう眠りに入っている。
──自由な女だ。
心配をよそに、馬車は順調に進み始めた。
ラウルの器用さには驚く。
俺と一つしか違わないのに──。
「アラタも寝ておけば?先は長いよ」
俺の横で、メイが言った。
「眠くねえよ。子ども扱いするな」
「なによ。膝貸してあげようか?」
いつもなら適当に受け流すメイの絡みも、
アイネがいる前では非常に邪魔に感じる。
俺は無視して馬車の外を眺めた。
見渡す限りの草原。
──科学の発展したアルカディアでは、見ない景色。
この先に、一体何が待っているのだろうか。
日が暮れてきたあたりで、ラウルの操舵する馬車は止まった。
「結局あの後ずっと俺が操舵じゃねえか!」
ラウルはまだ眠っているエルデネを揺り起こし文句を言っている。
「ん?うーん。いやあ、ラウルくん、上手上手。思わずうたたねしてしまったよ」
「うたたねっていうレベルじゃねえぞ。四時間は眠ってるぞ!」
二人の掛け合いを見ながら、馬車を降りる。
「このあたりの森は、魔獣も出ないと思います。川も近いし、ここで休みましょう」
アイネが言った。
さすが、遊牧民族。土地のことを知っている。
「アイネは、パルファムには何回も行っているの?」
俺は聞いた。
少しでも会話の糸口を探して、色々話したいが──
いざとなるとなかなか見つからない。
適当に話をできるキセキが少しうらやましい。
「うん。三回くらいかな。お父さんとかお兄ちゃんと一緒に、市場に買い物に。昔は交易もあったんだけどね……」
「なんで急に土地問題になったんだろうね」
「お父さんが言うには……パルファムの市長が変わってからおかしくなったんだって」
「……じゃあ、そいつに会って話をすればいいってことか」
とは言ったものの、そう簡単に行くだろうか。
俺たちは、パルファムからの刺客──ガンダルと名乗った騎兵隊長を、追い返したばかりだ。
街に着くなり、お尋ね者という可能性もある。
穏便に進むと思わないほうがいいだろうな……。
考え事をしていると、旨そうな匂いが漂ってきた。
──ラウルが食事を用意してくれている。
エルデネとメイが捕まえてきた野鳥をアイネとラウルが捌き、
ユルガン族の調味料を使ってラウルが調理している。
──本当に何でもできるな、あいつ。
「なあ、メイ。メシが終わったら、剣技教えてくれよ」
料理を皆に配りながら、ラウルが言った。
バンダナで、髪をまとめている。
「え?何あんた、剣できるの?」
メイが驚いた様子で答えた。
「できねえよ。でも、できるようになったほうがいいだろ。
昨日の戦いで、俺は何もできなかった。お荷物はごめんだ」
──何もできなかった。ラウルはそう感じていたのか。
船を操り、馬車を操縦し、料理も出来る男が。
焦っている。
俺は、自分が情けなくなる。
本当にお荷物なのは──俺だ。
戦いだって、たいして役に立っていない。
食事を終えると、メイとラウルは木の棒で剣の修行を始めた。
ラウルの攻撃は、すべてかわされ、メイに的確に棒で当てられていく。
──痛そうだ。
だが、ラウルは根を上げることなく立ち向かっていく。
くそ……俺だって──。
そう思い立ち上がると、エルデネに止められた。
「アラタは剣技はやめときな。君は、その式術を鍛えようか。
ついておいで。──キセキも。アイネも置いておけないから、一緒にきて」
そういうと、エルデネは食べていた肉を口に放り込み、立ち上がった。
式術を──鍛える?
この正体不明の式術を?
一体、どうするつもりなんだ。




