第十三話 テムルと、アイネと。
「テムル、あいつらなんなの」
エルデネが言った。
戦いの後、俺たちはアイネの煎れた茶を飲みながら、
状況の確認をしていた。
「……パルファムの騎兵隊。
パルファムはここから一番近い、アーカーシャ帝国の都市だ」
「あのガンダルっていう隊長が言ってたわね。
そのパルファムから、この土地は狙われているってことね」
メイが続けた。
テムルが頷いた。
「しかし……まさかいきなり剣を抜くとは。これまでは高圧的な態度はあっても、こんなことはなかった」
「なんか式術者に過剰反応していた気がするねえ。髪の色を見てすぐに気づいていたから──何かありそうだね」
エルデネが呟く。
「その……あなたたちの不思議な力は、一体何なのだ?それが式術というものなのか?」
テムルが聞いた。
「ユルガン族には──式術者はいないんだね。まあ、さっき私が見せたような、自然の力を使った力っていうのが説明になるけど……そういえば、アラタ式術使ってたね。キセキも」
え?俺?
キセキが紫の炎を出したのは式術だが──俺はそんな自覚はない。
「最初にメイの背中から式力を送り込んだ。その後──テムルとアイネを守るときに、見えない防壁を創り出した。あれは──式術だよ、多分」
「……多分ってなんだよ」
「だって、あんたみたいな色見たことがないもん。霊峰ライゼルにもそんな記録なかったし。
つまり、これから使い道探るしかないってこと。
でも、使えるようにしといたほうがいいね。これから戦いも増えそうだし」
「……これから?」
「え?パルファムに乗り込むでしょ?」
エルデネが、あっさりと言った。
……先ほど、命のやり取りをしたばかりだと言うのに。
危険な帝国に、乗り込む?
やはりこの女──危険な思想だ。
「この大陸の謎も解かなきゃいけないしね」
メイが指を鳴らす。
……ノリノリじゃないか。
「だったら、あいつら捕まえとけばよかったんじゃねえか」
ラウルが言った。
確かに。その方が、色々と交渉をしやすいかもしれない。
ラウルは経験豊富なだけでなく——頭も切れるのか。
「大丈夫。紫の式術で、あいつらの位置情報は把握できるようにしておいたから。
あえてあいつらを泳がすことで、私たちの危険性を帝国側に知らせようと思ってね」
エルデネが答えた。
「……そんなことしたら、俺たちは狙われるんじゃないか?」
俺は言った。
エルデネは、ふふん、と笑った。
「そう。それが狙い。帝国側から危険視されれば──どんどん敵がやってくるでしょ。
そしたら、その分早く真相にたどりつける可能性が高い」
──そんな考え方もあるのか。
だがそれは……いばらの道を突き進むということではないか。
「ねえ、アラタ。この際、最後まで真実を突き止めようよ」
キセキが言った。
──まるで俺の弱る気持ちを見透かしたように、背中を押す。
俺は……ここで待っているよ。
そう言いたくなる気持ちをぐっとこらえる。
男には、頑張らなきゃいけない瞬間があるのだ。
「そうだな。行こう。パルファムに」
俺は自分に言い聞かせるようにそう言った。
ふと、アイネと目が合った。
何かを言いたそうに──唇を噛んでいる。
ここは──俺が言うべきだ。
「アイネも、一緒に行く?」
俺がそう言うと、アイネは目を輝かせて、大きく頷いた。
「おい。アイネ。お前がついていっても邪魔になるだけだろう」
すかさずテムルが言った。
そうは言ったものの──本心は心配なんだろう。
「……私はパルファムに行ったことがある。道案内くらいできる」
アイネは言い返す。
まさかの反撃に驚いたのか──テムルは少しむきになった様子だ。
「お前は女なんだから、おとなしく家にいればいい。
戦いは──この人たちに任せなさい」
「随分無責任なんだね、族長って」
アイネが、はっきりした口調で言い返す。
「この問題は──私たちユルガン族の問題でしょ。何で別の大陸から来たアラタたちに全部任せようととするの。私は──ユルガン族を代表して同行するわ」
「そ、それなら私が行くべきだろう。お前が行くには危険すぎる──」
テムルが言いかけた途中で、アイネは畳みかけるように言った。
「〝留まることは退廃〟。それが、ユルガンの教えでしょう?
私は新たな世界を知りたい。この目で確かめたい。
お父さんが止めたって、私は行く」
──そこまでだった。
テムルは小さくため息をついて、エルデネに向かって言った。
「この通り、聞き分けのない子ですが……お願い致します」
……こんな、強い主張ができる子だったのか。
俺は驚いたと同時に、嬉しくなった。
アイネの新たな一面を知れたこと。
そして──旅をしたいと言っていたアイネと一緒に旅ができること。
世界が一気に明るくなった気がした。




