第百二十四話 父親に友達を紹介してみたら世界の話になった件
「初めまして。なんて呼べばいいんだろうか」
父さんが言った。
『アーカーシャで構いません。あなたはなんと呼べばいいですか。アラタの父親——ユイト=カタギリ』
「ユイトでいい。何万年も前から世界を管理してきたって、本当なのか?」
『はい。正確には六万八千二百十一年前です』
「……気の遠くなるような年月だな。——さっきの話によれば、この大陸も——AIに管理されてたってことだよな」
「ユイト。AIとは——なんだ?」
アレクシオが聞いた。
「あぁ。人工知能のことだ。要するに——人間が作り上げた機械の知能と捉えてくれ」
「機械の……?そんなことが——ありえるのか」
アレクシオは口に手を当てた。
なんとなく——父さんは理解力が高すぎる気がする。
端末のこともそうだけど——まるで昔から知っているみたいだ。
『当時、世界に残されていたAIは私とフラーシャの二人だけでした。多くの指導者を失った人類は、私たちに管理を委託しました』
「——戦争か」
父さんは呟いた。
『はい。人類はほとんど絶滅寸前でした。多くのAIも、その際に破壊されました。私たちが残っていたのは、設置場所と、永久機関のおかげです』
「永久機関——実現してたのか」
タツオ叔父さんがどんどん前のめりになっていく。
「——で、人類の再興を担ったのが——君たちAIだと」
父さんが確認する。
『私とフラーシャは、かろうじて残っていた地下と海底の通信網のおかげでやり取りをしていました。それぞれの人類の状況を交換し合い、人口は少しずつ回復しました。文明も再び復活しました。しかし、どちらの大陸でも——文明が一定水準に達すると、なぜか決まって戦争になるのです。何度止めようとしても』
戦争。俺たちは、それを知らない。
でも——父さんたちは知っている。
「それは科学の戦争か?それとも——式術か?」
父さんは何かを思い出すように言った。
『科学です。人類に式術が発現したのは——まだ四千二百六十年前です』
まるで最近の出来事のようにアーカーシャは言った。
「発現?——その、四千年前に突然現れたのか?」
『当時、世界を巻き込んだ大戦によって酷く大気が乱されました。私たちは当時の人類の力を使い、なんとか地球の大気を回復させていました。しかし、以前と同じにはなりませんでした。ちょうどその頃から——人類に不思議な力が発現しました』
「まさか——それが」
『今は——式術と呼ばれる力です。研究の結果、それは本来人類が持っていた力のようでした。次第にその力を持つ人間が増えていきました』
「なるほどね。ユイト、もしかしたら僕らが式力を発現したのは——」
タツオ叔父さんが呟く。
「——大気の違いってことか?」
父さんが答える。
二人の会話に、違和感を覚える。
僕ら?発現?
二人とも——生まれつきの式者じゃなかったってこと?
『やがて、黒の式者が誕生しました。すると、決まって人類は式力を失います。そしてまた、しばらくすると、白の式者が現れ——式者が生まれ始めます。人類は、自らの力を失っては取り戻してを繰り返し始めました。まるで、何かを試すかのように』
「——この大陸の歴史そのものだな。その理由は——アーカーシャでも分からないのか?」
サイレス叔父さんが言った。
確か、サイレス叔父さんは式術の研究をしていると言っていた。そのあたりに詳しいのだろう。
『それを解明するために、私とフラーシャはそれぞれの大陸に、式術だけの国、科学だけの国を意図的に作りました。そして両立を目指す国も』
「その式術だけの国が、今のウィザルやテオロッドってことか」
俺は呟いた。
話についていくのがやっとだが、なんとか理解できる。
『アラタの言う通りです。もう一つ、私は帝国の国をランク分けして国境壁を作らせました。文明の交流が戦争の元になるからです』
俺は、出会った時のガンダルとテムルを思い出した。
無抵抗のユルガン族の土地を奪おうとする、発展した文明。あれこそが——戦争の種なのかもしれない。
「……気の遠くなるような話だが、理解はできた。ただ今の話を聞く限り——私たちとの交流も戦争の元になりうる、そう聞こえるが?」
アレクシオは、重い口を開いた。
仮にも一国——それも歴史あるテオロッドの王だ。
出方を伺っていたのだろうか。
『いいえ。私はそう思っていません』
「——なぜだ?科学力の遥かに高いそちらの大陸が、こちらに攻め込んでこないと言い切れるのか?」
『はい。私がそうさせません』
「——分からないな。そこまでこちらの大陸をかばう理由が見当たらない」
アレクシオは挑発しているように見えたが、きっと真意を探っているのだろう。
『理由ならあります』
「——なんだ」
『私はアラタの友達だからです。友達の国を攻めることはしないでしょう?』
アーカーシャの声が静かに響いた。
そして——直後。
応接室は大人たちの笑いに包まれた。
父さんは、笑いながら俺の肩を叩いた。
「アラタ。——お前、どうやら世界を救ったみたいだな」
俺は、何が起きたのかよく分からなかった。
でも、父さんに褒められたような気がして、少しだけ嬉しかった。




