第百十七話 近づく別れの音。
ザラミは、本当に一日でやってきた。
「約束通り、最速で来たわよ。……なんでガゼリアがいるのよ」
赤い髪の六帝を見ながら、ザラミは呟いた。
「俺より、強い奴に会いに行くだけだ。貴様こそ何しに来た」
「私は、まだ見ぬ大陸へ大いなるロマンを求めに行くのよ。まあいいわ。エイナ、私は疲れたからバスで寝るわよ」
ザラミは誰よりも早くバスに乗り込み、持ってきた毛布を被って寝始めた。
……相変わらず自由な人だ。
「……婚期を逃す理由が分かりますね。アイネさん。目的地の座標を大体でいいので教えてください」
アイネはバスのモニタに表示された地図を指差しながら答える。
「え、あっ。はい。ここがパルファムだとしたら──この時期は大体このあたりに移動していると思います」
場所が変わるのは、定住でない遊牧民族ならではだ。
設定が終わると、エアバスはユルガン族の地まで空を一直線に飛び始めた。
──目的地まで設定されてしまうと、いよいよその時が迫っていることを痛感する。
まずは──謝罪からだ。
ユルガン族のもとを離れてから──数か月が経過している。
テムルさんや家族は、さぞかし心配しているだろう。
「大丈夫、アラタ」
メイが俺の座席に近づき、小声で耳打ちする。
「死地に赴く戦士みたいな顔してるわよ」
ただでさえ野生の勘の鋭い女が幼なじみというのは、非常に厄介だ。
心の中がすべて見透かされているような気がする。
「……うるせえ」
特に言い返す言葉もなく、俺はそれだけ言った。
「余計な気遣いとか、大人ぶるとか、やめたほうがいいわよ。人間、素直に生きるのが一番」
そう一言だけ残して、メイは自席に戻って行った。
……分かってるよ。分かってはいるけど。
俺は、自分が子どもであることを心から呪いながら、バスの座席で外を見ていた。
ウィザルの景色が──ものすごい速度で流れていく。
あと数時間で──到着する。
そうすれば──別れの時がやってくる。
俺はアイネとキセキと三人で見た、あの夜光虫を思い出していた。
夜の湖面を埋め尽くす、淡い光。
まるで満天の星空のようなそれは、俺の心に焼き付いている。
今も──きっとこれから先もずっと。




