第百十六話 六帝の合流
ウィザルを観光していると──エイナの端末が鳴った。
これまでの端末はアーカーシャ通信用に俺に譲ってくれている。
バドールで買った最新版だ。
「ザラミ様ですね」
エイナは画面を見るとそう言った。
通話を始める。
『エイナ!今どこにいるの』
「ウィザルです。これから、アイネさんの故郷へ向かおうかと」
『良かった!ギリギリ通信つながる場所で。ちょっとウィザルで待ってて!
一日で駆けつけるから』
「え?どういうことですか?リターニアに帰ったのでは?」
バドールで皆で食事をした後──ザラミはエイナの忠告を聞いて一旦リターニアに戻った。
恐らく、十数年ぶり。
各国技術保全のルールを無視してエアカーで向かうあたりがザラミらしい。
元々、ルールのことなんて気にしていないのかもしれないが。
無事父親には会えたのだろうか。
『ええ。帰ったわよ。帰ったけど──大喧嘩よ。あの堅物親父。娘の帰郷を喜ぶどころか、〝孫はまだか〟だって。
とんでもない化石ジジイよ』
「ちょっと、落ち着いてください。どうしてそれが、私たちが待つ話につながるんですか」
『頭に来たから、本気で婚活するわ。仕事はしばらく休む。私も──アラタたちの大陸に行くわ』
……ちょっと待ってくれ。
それはつまり。
『ユグラシアでは見つからないけど、ロッドなら見つかるかもしれないじゃない、いい男が』
そういうことか。
──男探しの旅。
ある意味、分かりやすい。
「……それ、本当に待った方がいいですか」
エイナが呆れて言った。
「砂漠で砂金を探すような婚活、やめませんか」
『分かってるわよ!ハードルは下げる。年齢は二十歳から五十歳までオッケー。離婚歴があってもよし。
経済面も、私と同じくらいなら可。式力も問わない。ただしイケメンに限る!どう!?』
「……六帝と同じくらい稼げる人が世界に何人いるんですか。まあ、待てと言うなら待ちますが、急いでくださいね」
『任せて!改造エアカーで法定速度無視していくから!』
……マルティアの崖で、夕日を見ていたあの美女は幻だったに違いない。
電話を切るや否や、再びエイナの電話が鳴った。
「……げ」
明らかに嫌そうな顔をする。
そして、端末をそっとポケットにしまった。
誰だ?と思っていると、背後から声がした。
──聞いたことがある。
やたら大きい、男の声。
「エイナ、なぜ電話に出ない。貴様、やはり約束を果たすつもりがないな」
夕日を背に受け、腕を組む男。
表情は良く見えない。だが。
そのシルエットと声ですぐに分かる。
ガゼリア。
腕を組みながらゆっくり近づいてくる。
「貴様らがウィザルに向かっていることは知っていたぞ。
そして──コラルを素通りするであろうこともな」
……ガゼリアが学習している。
エイナが舌打ちをする。
「あっ!貴様、今舌打ちしたな!やはりそうだったのか!」
ガゼリアがエイナに詰め寄る。
「……まだやるぺきことが終わってないんですよ。いつとは言ってないでしょう」
めんどくさそうにエイナが答える。
「ぬ!……確かに。じゃあいつだ!?今すぐでもいいぞ!」
騒いでいたガゼリアが、俺たちの中にタガロの顔を見つける。少し眉を動かした。
「貴様は──フューと一緒にいた……」
マズい。
エイナは気にしていなかったが──俺は気にする。
タガロは、あの出来事をまだ──
「タガロだ。六帝──ガゼリアさん」
タガロは握手を求めた。
ガゼリアは、口元をゆがめ、それを握り返す。
「フューのことは——すまなかった。殺すつもりは──なかった。それだけは信じてほしい。フューは俺と同郷でな」
ガゼリアが謝罪する。
「……フューから聞いていたよ。私の村の英雄は、六帝になったんだって。
その背中に追いつくために、あいつは十八将になったんだ。フューが死んだのは──あんたのせいじゃない。フューに守らせた、俺の弱さのせいだ。だから──その弱さが憎い」
「なら、強くなるしかなかろう」
ガゼリアが言った。
「強くなり、誰かを守れる人間になれ。それが──フューへの弔いだ。
俺もそうする。フューの誇りとして、六帝を全うし続ける」
それを聞くとタガロは笑った。
──良かった。
心配していたわだかまりは──ないみたいだ。
ガゼリアは、ふと俺の方を向く。
「アラタ。聞いたぞ。デュランを倒したらしいな」
「……どこでそんな情報を」
「ザラミだ」
……お喋りかよ。
もう少し、話す相手を考えていただきたい。
「倒したのはキセキだぞ」
「知っている。貴様らのコンビだろう。強くなった上で俺と戦うという約束──果たしてもらおうか」
やはり。そうなるか。
しかし、今ガゼリアと戦うのは正直めんどくさい。
「俺なんかと戦うより、ロッドに行けば強い式者なんて山ほどいるけどな……」
この後の展開は、読めている。
だが、どうせ大型のエアバス。
ザラミも来るなら、もう一人増えても変わらない。
少しバスが騒がしくなるだけだ。
「なんだと……?六帝より強いやつらが……?」
「全方位式者から、青のスペシャリストまで、幅広く取り揃えております」
俺は頭の中でサイレス叔父さんとシャインさんを想像しながら言った。
六帝も凄まじかったが、ロッドの零式たちもなかなかだろう。
特に炎の六帝ガゼリアと氷の零式シャインなんて、闘技場で見たらプラチナチケットになりそうなカードだ。
むしろ、マルカドールでやってほしいくらいだ。
「分かった。まずは俺もロッドに行くこととしよう。異存はないな」
俺は頷く。
横でエイナは嫌そうな顔をしている。
……分からなくもないが。
しかし、どんどん所帯が増えていくな。
俺、キセキ、メイ、エルデネ。
ラウル、アイネ、エイナ、タガロ。
ここに、ザラミとガゼリアが加わると、総勢十名。
もはや団体旅行だな。
だけど——ロッドには。
アイネは連れていけない。
そんな責任を取れるほど——俺は大人じゃない。
頭では分かっているのに、心が追いつかない。
ザラミのおかげで、アイネとの別れが少しだけ先延ばしになったことを、俺は内心感謝していた。




