第百十五話 レイサスとの再会
「なんか、久しぶりに感じるな」
目の前のウィザル王宮を見ながら俺は呟いた。
エアバスはウィザルの森の奥に停めて、ここまでは歩いてきた。
王宮に入ると、レイサスが出迎えてくれた。
「叔父様。無事帰ってまいりました」
エイナが軽く頭を下げる。
「一体どうなってるんだ?プルークやサーラが死んで、エイナは六賢になっているし、私はついていけないぞ」
「人事の情報は届いていましたか。——ギランやバクスターは?」
「アーカーシャから二名とも罷免されていたからな。ひとまず黒の間の牢獄に入れてある。今の所問題はないが——そもそもなぜウィザルを科学国にしようと思ったのか、アーカーシャの真意は分かったのか?」
レイサスが言った。
「……本人に聞いてみましょうか」
俺は端末を出す。
『アラタ、私の存在については限定的にすると話をしていませんでしたか。簡単に呼び出されては困ります』
「友達ってのは、気軽に呼び出すもんなんだよ。それに、ここにいるのは俺たち以外には六賢のレイサスさんだけだ。問題ないはずだ」
『分かりました。友達は気軽に呼び出すものと理解しました。私もアラタを深夜に気軽に呼び出しますね』
「……深夜は勘弁してくれよ。お前なんか少し意地悪になってきたな。あのさ、なんでウィザルを科学国にしようと思ったんだ?」
『ランクの停滞です。五十年以上ランクの変動がない国、及び街については統治者の変更を行っています。
科学国にしろとは指示していません。計算の結果、ギランとバクスターが選ばれました。ただし、双方とも人格面に問題があったため、互いを牽制させる目的で組ませました』
「言うこと聞かなかったら——レイサスさんを殺してもいいってお前が指示したのか?」
バクスターの言葉。
あれは——アーカーシャの指示だったのだろうか。
『抵抗された場合、殺してもよいかと聞かれたので、その判断は任せると回答しました』
俺は、端末をぶん投げそうになった。
「あのなぁ!お前、人の命をなんだと思ってんだ?——レイサスさんは、六賢で——帝国のために尽くしてくれた人だろ?なんでそんな簡単に判断できるんだよ」
『六賢はあくまで役割です。死んだ場合、新たな六賢が選出されるだけです。文明を担う六賢の選出は推薦制にしていますが』
そういうことか——。
何万年も生きるアーカーシャからすれば——俺たち人間の命なんて、役割にすぎない。
そこから、理解させなきゃいけないのか。
「あのさ、アーカーシャ。俺の友達なら分かっていて欲しいんだけど。人間の命って、短いかもしんないけど、大事なんだよ。役割が終わったから死んでいい、なんてもんじゃないんだ」
『それは不思議ですね。この数万年、多くの戦争を見てきましたが、人間同士は簡単に殺し合っていましたので。
それをなくすために私は今の制度を作り上げました』
人間同士が——殺し合う。
確かに、それは存在する。
『タガロは父親のボイドを殺し、キセキはサーラを殺しました。役割の終わったレイサスの死を許容する私の判断と、どちらが悪いことなのでしょうか』
……っ!
言い返すことができない。
それを決められるほど——生きていない。
タガロは——少し目を伏せる。
父親、ボイドを殺してしまったこと。
後から知ったその事実を、まだ自分の中で消化しきれていないのだろう。
「死を、どう受け止めるかではないでしょうか」
レイサスが口を開いた。
「横から失礼します。アーカーシャ様。私はこれまで世界の歴史を研究してきました。その中で、気づいたことがあります」
『続けてください。六賢、レイサス』
「命を尊み——死者の想いや意志を継いだ国ほど、長く続いています。命を軽視した国は——すぐに滅んでいきます。戦争も、命より大義を優先した結果でしょう。
私自身の命が大事とは言いません。ただ——共に同じ時代を生きる他の誰かの命を大切にできる世界こそが。
恒久の世界となりうるのでは、と思っています」
『研究の成果として受け取ります。後ほど、定量化されたデータを踏まえて報告をお願いします。データ化に際してはマテウスと連携すると良いでしょう』
——アーカーシャが、受け止めようとしている。
さすが、六賢だ。
俺では——アーカーシャに言い負かされて終わっていた。
「アラタ。ありがとう。アーカーシャの意図は理解できたよ。それに、ギランとバクスターの拡大解釈もね。
——確かに、この国の発展をどこかで諦めていた私がいる。式術の向上だって、ランクを上げることに繋がるはずだ。もう一度——ウィザルを発展させてみるよ」
レイサスが言った。
「叔父様。帰ってきたばかりで申し訳ないですが、私はこのままみんなとロッドに向かいます」
エイナが言った。
「……相変わらず忙しい子だな。もう、お前の好きに生きればいいさ。たまには帰ってこいよ」
そう言ったレイサスは父親の顔をしていた。
王宮を出ると、メイが言った。
「ちょっと街で時間つぶしててくんない?師匠たちの道場が繁盛しているか見てくるから。ついでに挨拶してくるわ。ラウル、行くわよ」
メイがラウルを連れて歩き出す。
師匠たちとは、ウィザルでメイとラウルが〝式術斬り〟を教わった人たちのことだろう。
二人の背中を見送りながら、俺は言った。
「せっかくだから俺たちも街をぶらつくか。アイネとタガロは——ウィザルは初めてだもんな」
「ここは私の出番ですね。ウィザルは名所名跡も多いですから。案内しますよ」
エイナが言った。
こうして普通に観光ができるなんて。
それは喜ばしいことだが——
改めて、旅の終わりが近づいていることを感じる。
それが、少しだけ寂しい。




