第百十三話 新車でウィザルへ。
「……俺はどっちかと言えば科学はあんまり好きじゃねえけどさ」
ラウルが呟く。
エアバスは、凄まじい速度で空を飛んでいく。
あっという間にシードラ海域を抜け、ウィザルまでもうすぐというところまで来ている。
「最初からこれがあれば、ものすげえ楽だったんじゃねえの?」
ラウルは言った。
「アーカーシャいわく、国ごとに利用可能な科学技術を分けないと戦争が起こりやすいんだってさ。——実際、こんな車でロッドまで行ったら、みんなびっくりするだろ」
俺は答えた。
「うちの父さんは大喜びしそうだけどね」
キセキが言った。
うん、大はしゃぎしながら構造を調べ始めるんだろうな。
「人が増えたんで仕方ないですが——まさか四台も車を買うことになるとは」
エイナが端末で貯金残高を調べている。
「——破産寸前です。仕事をしないと」
ドラールで買った最初の車。
その後のワゴン車。
バドールのエアカー。
そして——今乗っている、十八人乗りのエアバス。
「タガロは——シードラに戻らなくてよかったのか?」
俺はタガロに聞いた。
「戻っても、家族もいない。だったら、君たちと一緒にいるほうが気が紛れる。——仲間にしてくれたんだろ?」
タガロが言った。
あの時は生きる希望を失ったと言っていたが——エイナの言葉が響いたのだろうか。
少なくとも俺たちと一緒にいる間は、ちゃんと飯も食べてるし、話もしている。
——タガロも、生きがいみたいなのを見つけられるといいな。
俺はそう思った。
そのためには——この帝国がどうなっていくかも大事な気がする。
「結局、エイナは帝国の代表みたいなのやるのか?アーカーシャにも話しておいた方がいいんじゃないか」
俺はエイナに聞いた。
「いえ。まだ検討中です。それよりも私にはやることがあります」
エイナが答える。
——やること?
世界の秘密は、あらかた分かったはずだ。
これ以上に、エイナの知的探究心をくすぐることがあるのだろうか。
「はい。ロッド大陸です。二千年以上、人間だけで築いてきた世界と文化。今となれば、むしろ帝国よりそっちに興味があります」
「え?まさか」
「こっちの国を周りきったら、そのままロッドに行きますよ」
メイとラウルは「いえーい!」とはしゃいでいる。
いや、マジかよ。
エイナが同じ顔した母さんと会ったら……どうなるんだ。
そう言えば、ウィザルとテオロッドは人物までそっくりだった。
これも——アーカーシャの何かの実験なのか?
俺はアーカーシャに接続する。
「朝から悪いな、アーカーシャ。今大丈夫か?」
『私は二十四時間三百六十五日稼働しています。睡眠もないため、気遣いは無用です』
「……こういうのも友達同士では大事なんだよ。聞き忘れてたけど、テオロッドとウィザルがそっくりなのはお前の仕業か?」
『現在のロッド大陸のテオロッドに関する情報がないため断定はできませんが、仮説なら回答できます』
「それでいいよ」
『三千六十三年前、まだフラーシャが稼働していた頃です。ウィザルの住民を遺伝子レベルで複製し、ロッド大陸に同一構成の国家を作りました。私とフラーシャによる共同実験です。ミラー国家として、双方の社会・遺伝的変化を比較する実験でした。その名残の可能性が高いです』
「……それじゃねえかよ。
でも、三千年以上経っても名前まで似るか?」
『もしそのような状況が起きているなら、非常に興味深い結果です。配偶者選び、所属する組織選びまで、三千年の時を経ても大きく変化がないのだとすれば、人間の選択には、想定以上に遺伝的傾向が強く作用している可能性があります。是非ともイエナ=テオロッドとエイナ=ヴィザロッドのDNA配列を比較してみたいものです』
「よく分かんないけど、お前の仕業ということは分かった」
別の場所に、全く同じ国を作る?
改めて、ぶっ飛んでる。
ということは、俺たちの祖先は——アーカーシャとフラーシャが作ったってことか。
ますます自分が何者か分からなくなるな。
『アラタ。エアバスの利用は許可しましたが、各国の住民には見せないように注意してください。オーバーテクノロジーの展開は戦争の火種になります』
「分かってるよ。うまく人の少ないところに着陸するようにする」
そう言って俺は通信を切った。
エアバスは、時速三百キロを超える速度で真っ直ぐにウィザルに向かっていった。




