第百十二話 バドールの夜
その夜。俺たちはバドールのホテルに泊まった。
全員同じ部屋ということで少しドキドキしたが——
とんでもなく広い部屋で、中で部屋が四つに別れていた。
スイートルームというらしい。
豪華な内装に、メイとアイネがはしゃいでいた。
マテウスいわく、アーカーシャの計らいのようだ。
キセキとラウルはすぐに寝てしまったので、俺は暖かいものでも飲もうかとリビングのソファに向かった。
すると、女性部屋の扉が開いて、アイネが出てきた。
風呂上がりなのかもしれない。
まだ髪が濡れたままだ。
「あ、やっぱりアラタだ。眠れないの?」
デュランからアイネを救ってから——二人で話すのははじめてだ。少し、緊張する。
「——アイネ。アイネも、飲む?」
俺が飲んでいる紅茶のカップを持ち上げると、アイネは頷いた。
紅茶を飲みながら二人で向かい合う。
二人になると、何を話していいか分からなくなる。
「アラタはこれから……自分たちの大陸に帰っちゃうの?」
アイネが言った。
この後のこと。
立ち寄らなくてはいけない国が、いくつもある。
この旅の工程を逆戻りするように。
ウィザル。
レイサスに、状況を報告しなければいけない。
ギランとバクスターの今後についても、アーカーシャと話した方がいいかもしれない。
コラル。
ガゼリアとの約束を——果たさなきゃいけない。
……いけないのか?
ドラールやパルファムを越えて、ユルガン族の元へ。
そこへアイネを届けることが、俺の責任だ。
……つまり、そこでアイネとは離れ離れになる。
「……そうだね。親たちも心配しているだろうし」
俺は言った。
消え入るような声だったかもしれない。
「……私は、嫌だな。まだアラタと——みんなと旅を続けたい」
アイネの気持ちが、嬉しい。
でも俺たちは、まだ子どもだ。
「……まずはユルガン族のところへ行こう。テムルさんや、アイネの兄妹も心配してる。それから——考えよう」
今の俺に言えることは、これくらいしかなかった。
まだ、無責任なことは何も言えない。
俺がもう少し大人だったら——
言いかけた言葉を飲み込む。
エルデネが部屋から出てきた。
大きく伸びをしている。
「んー!よく寝た!あれ、君たちまだ起きてるの?」
「……昼夜逆転してるな」
エルデネは、俺たちが食事やら風呂に入っている間、爆睡していた。
眠い時に寝る。
エルデネらしいと思っていたが、これもジェネシスの特性なんだろうか。
今度アーカーシャに聞いてみよう。
「ねぇねぇ。私たちがいなくなった後の旅のこと、もっと教えてよ」
エルデネが、アイネの横に座る。
アイネが席を空ける。
「確かに、私たち半分以上いないですもんね。アラタ、ガリアの後のこと、話して」
アイネが言った。
——それはまた、長い夜になりそうだ。
だけど、余計なことを考えなくて良さそうだ。
今はまだ——この仲間と、旅の中にいたい。




