第百十話 生きてく強さ
「——もう、どうでもよくなった。生きることなんて」
アーカーシャとの対話の後、タガロは呟いた。
「倒したかった相手が——人間ですらないとはな。父さんに教えてやりたいぜ。俺たちは機械に管理されて——六帝を目指してたんだってな」
自暴自棄になっている。
そして——タガロは、ボイドの——父の死を知らない。
言うべきか、言わないべきか。
俺が悩んでいると、エイナがタガロの前に立ち——頬を張った。
タガロはその場に倒れ込む。
突然の出来事に、目を見開いている。
「ボイドは死にました。あなたの去り際の一撃で。
フューもボイドも、私とガゼリアで埋葬しました。あなたは何をしたんですか。感情に流されて父を殺して——フューの死からも逃げた。ガゼリアは、今でもフューの死の責任を感じている。それでも——自分の責任を果たすために、前を向いている」
タガロは何も言わず、項垂れた。
エイナは続ける。
「いつまで逃げるんですか?生かされた責任を果たしなさい」
——ここまで声を荒げるエイナは初めてだ。
「……僕に……何ができるっていうんだよ」
タガロは頬を触った。
「愛する人を——フューを守れなかった僕に」
「彼女は、お前を愛してたから守ったんだろ。
……フューは今のお前を見て——喜ぶのか?」
俺は言った。
タガロの目から、涙が溢れる。
その場に突っ伏し——泣きはじめた。
「うぅっ……フュー。せめて……愛してると伝えたかった……」
——きっと、あれから初めて泣いただろう。
その痛みは——俺にも少し分かる気がする。
アイネが連れ去られてから——世界は灰色に変わった。
再び前を向いて、アイネを取り戻せたのは——
仲間がいたからだ。
多分、こいつもアーカーシャと同じなんだ。ただ——隣にいてくれる誰かがいないだけだ。
「タガロ。多分、これからこの帝国も色々忙しくなる。世界の支配者がAIって分かっちゃったんだからな。
だから——色々手伝ってくれよ。俺たちと、友達になろう」
俺が差し出した手を、タガロは少しためらいながら——それでも握り返した。
俺たちがエンパイアタワーを出ると、ザラミとステラが待っていた。
「え?なんか増えてない?……まさかそいつ、アーカーシャ?」
ザラミが言った。
「——いや。こいつはタガロ。俺たちの友達だ。後でゆっくり紹介するよ。まず——バドールに帰ろう」
俺が答えた。
「デュランはどうなったのですか」
エイナがザラミに聞いた。
「とりあえず、延命は成功したわ。——さっき、病院に運んだところ。医療用アンドロイドしかいなかったけど」
——生きていたのか。
少しだけ、ほっとする。
アーカーシャの話を聞いた後では——デュランだけが悪いと思えなくなっていた。
デュランもまた、帝国の仕組みの中で役割を与えられた一人だった。
ザラミが続ける。
「ただ——心は完全に折れてるわね。話しかけても、返事もなかったわ。どうやったか知らないけど、式力が完全になくなっていたわ。黒の式者として誇りを保っていた彼からすると——死に等しいことなのかもしれないわ」
キセキが放った紫炎。
あの技は——式術だけでなく、式力そのものを〝喰って〟いたのか。
——式術喰い、とでもいうべきか。
いずれにしても、紫炎・大網はダサすぎる。
あとでキセキに考えさせよう。
俺たちが話していると、端末が震えた。
画面に、名前が表示される。
〝アーカーシャ〟
俺が画面を触ると、声が流れ始める。
『アラタ=カタギリ。話した通り、エイナ=ヴィザロッドの端末と私を接続しました。これでいつでも通信が可能です』
俺はため息をついて答える。
「わざわざ報告ありがとな。めんどくさいから、俺のことはアラタって呼べ。この端末、エイナがくれるっていうから、お前との通信専用にするよ」
『分かりました。アラタ。それで、友達とは次に何をするものなのですか』
「そうだな——」
俺はその答えを言う前に、仲間の顔を見渡した。
話さなくても伝わる。
たまには喧嘩する。
だけど、相手が笑うと嬉しい。
悲しい顔をしていると、なんだか苦しい。
一緒にいると、楽しい。
最後に、アイネと目が合った。
俺の胸が、高鳴る。
——これは、違うな。友達じゃない。
「相手が喜ぶことしてやって、自分も嬉しかったら——それが友達なんじゃねえかな。とりあえず——俺を喜ばせてみろよ」
俺が言うと、アーカーシャは少し止まった。
『現時点では、アラタの喜ぶことを理解できていません』
「……そりゃそうか。まだ友達になったばかりだもんな。今はそうだな。——さっさとバドールに帰って、うまいもん食って眠りたい」
『分かりました。バドールにいる六賢、マテウスにレストランとホテルを手配するように指示しておきます』
俺は、ダビデタワーにいるマテウスのことを想像し、少し笑った。
「そうそう。その調子。あと、さっきも言ったけど、エルデネの記憶は元に戻しておけよ」
『そちらもマテウスに手順を指示します。記憶のバックアップはファイスに保管済みなので、アラタがバドールに着く頃には完了している見込みです』
バドールで、俺たちの知っているエルデネに——会える。
ここまでの旅で、俺は色々なものを失った。
犠牲となった命もある。
それでも本当に大切なものは、取り返すことができた。
色んな人に助けられながらも——俺たちの力で。
こうして、俺たちは新たな仲間——タガロと、
〝アーカーシャ〟を加えて、主国アーカーシャを後にした。




