第百八話 アーカーシャ
メイが剣を納めた直後。
部屋のドアが開いた。
「みんな!大丈夫!」
入ってきたのは——ザラミとステラだった。
「ザラミ様、ステラ。どうしてここに」
エイナが言った。
「アバロンから連絡あったのよ。あんたらの力になってやってくれってね。でも——もう終わったみたいね」
ザラミは、地面に倒れるデュランを見て言った。
その様子を見て、ステラは口元を押さえた。
「……しっかりしなさい。青帝なんだからね、あんたは。
しかし派手にやったわね。まさか査定官を倒しちゃうとはね」
ザラミが言った。
「——その子がアラタの想い人?なるほど。必死になるわけだ」
アイネを抱き上げる俺を見る。
俺は慌ててアイネを起こし、手を離す。
——顔が熱くなる。
「せめて、後処理はやっとくわ。こいつを生かすかどうかも含めてね。行きなよ。——アーカーシャの所へ」
ザラミが、親指を立て上を指す。
「とりあえず、全員集まんな。ヒーリングするから」
俺たちがザラミの元へ集まると、ザラミはそこに巨大な緑の波動を生み出した。
「——ヒーリング」
——身体中が心地よいエネルギーに包まれる。
すごい。
この人数をまとめて回復させるなんて。
身体の痛みも、疲れまでも吹っ飛んでいく。
——ラウルとメイの傷も、全快したようだ。
俺たちは、ザラミとステラにその場を任せ、上の階に向かった。
エレベーターは見当たらない。
階段を登っていく。
アイネは、まだ戸惑っている。
「アラタ……一体私、どうしてたの?ここは……どこ?」
捕えられてからの記憶がないみたいだ。
俺はアイネに向かって微笑んだ。
「それは、ゆっくり話そう。アーカーシャとの話が終わった後に。——話したいことが、いっぱいあるんだ」
これまでの旅。
出会った人たち。
そして——これからのこと。
その前に。
この帝国の——アーカーシャの正体と向き合わなければ。
真っ白な建物の階段を登っていく。
最上階に、到着する。
扉は、一つ。
俺は、意を決してその扉を開ける。
すると——そこには、先客がいた。
片腕のない男。
「——タガロ」
俺は呟いた。
タガロは振り向く。
「……来たのか。お前たちも」
目には、諦めが宿っているように見える。
「アーカーシャと……会ったのか?」
俺は、聞いた。
タガロの真意が分からない。
再び戦闘になる可能性もある。
「……ここにはいなかった」
タガロは呟いた。
「腕まで捨てて、ここまで来た」
タガロは笑った。
「なのに——何もないんだ」
下を向いて、続ける。
「アーカーシャはどこだ?僕は何のために六帝を目指させられ——フューは何のために死んだんだ?」
部屋の中は白い空間だった。
——何もない。
ここが——帝国の中心部なのか?
俺たちが部屋の中で立ち尽くしていると——
部屋の上から、声が聞こえた。
『六賢、エイナ=ヴィザロッドを検知。通信を開始します』
この声は——聞き覚えがある。
青帝決定の評議会で——議会に流れた声だ。
しかし、人影は見えない。
エイナが前に出る。
「アーカーシャ。あなたはどこにいるんですか?
私たちと——会ってください」
『場所を伝える必要はありません。話なら、こちらでどうぞ。〝私たち〟とはどういう意味ですか?私は現在、エイナ=ヴィザロッドしか検知していません』
俺たちは——チップが入っていないからだろうか。
目で見て判断しているわけではないのか。
「私以外にも——人がいます。ロッド大陸から来たものたちです。話をさせてください」
エイナがそう言うと、少しアーカーシャの反応が止まった。
『追加認識を実行します。……エイナ=ヴィザロッド以外に六名を確認。一名は青の十八将、タガロと照合しました』
——何か、変だ。
話し方に、違和感を覚える。
感情が、感じられない。
人間と話しているようでいて——そうではない気がする。
「お前が——アーカーシャなのか?俺は、アラタ=カタギリ。ロッドから来た」
俺は何もない空間に向かって声を上げた。
「帝国のリーダーなら、ちゃんと姿を見せて話せよ」
『アラタ=カタギリを認識。外見的特徴から、短命種、十代と判定。アラタ=カタギリ。それは無理な要求です』
「どうしてだよ」
『私は実体を持っていません。この部屋、あるいは通信設備の整った場所のみ会話が可能です』
実体が……ない?
どういうことだ。
それから——俺たちとアーカーシャの長い対話が始まった。




