第百五話 エンパイアビル
「ここが——エンパイアビル、帝国の中枢」
俺は呟いた。
遠くからも分かっていたが——普通の建物だ。
恐らく十階建て程度。
他の建物が低かったせいで高く見えたが、雲を突き抜けるダビデタワーと比べるとはるかに低い。
「いよいよですね。私も六賢就任してすぐ、お尋ね者入りですね」
エイナは、知的好奇心を抑えられないのか、興奮して言った。
「みんな。必ずアイネを助け出そう」
俺は、振り返って言った。
「デュランと戦闘になれば——式術は効かない。剣士組のメイとラウルが頼りだ」
「修行の成果の集大成ね」
メイは胸を叩いた。
言葉は少ないが、それがメイらしい。
俺たちを冒険に誘ったのも、知らない世界を見てみたい、くらいの気持ちだったと思うが——
今となれば感謝している。
この旅がなければ、俺は何も知らないままだった。
世界の広さも、人が死ぬことの怖さも。
大切な人を奪われる絶望も。
それでも。俺たちの未来は、これから作れる。
未来を——取り戻すんだ。
「相手は多分一人だろう。俺たちが戦ってる間に、アイネを助け出してくれ」
ラウルが言った。
こんな時でも冷静で、クールなやつだ。
でもその中には、負けず嫌いな熱い血が流れていることを、俺は知っている。
「デュランの攻略法が見つけられなかったのは、私の責任です。が、やるしかありません。アイネさんを救って——世界の真実を掴みに行きましょう」
エイナが言った。
キセキが俺の背中をポン、と叩いた。
「はい。僕のブースター。アラタ、大丈夫。僕らなら、できるよ」
——ついこの前まで可愛い弟と思っていたやつが、気がつけば頼れる友に変わっている。
辛い出来事があったばかりなのに——それを受け止めて、キセキはもう前を向いている。
その瞳に迷いはなかった。
俺は、その手のひらから、ものすごい力をもらったように感じた。
俺は、この旅で出会った人々を思い出しながら、一人ひとりにブースターを込めた。
テムルさん——必ず、アイネを助けて連れ帰ります。
別の大陸から来た俺たちを、迎え入れてくれてありがとう。
ガンダル、ファング兄弟。そしてダゴス。
ダゴスの取り巻きは——なんだっけ、忘れた。
パルファムの街がなんだかすごく昔に感じる。
あそこから——俺たちの旅は始まったように思う。
そして、忘れられない。
ガリアの街。——ロイス。
あの時俺たちを守ろうとしてくれたこと。
一生忘れない。
あの時、アイネを奪われたあの時から——俺の時間は止まったままだ。
もう一度、時計を動かす。
そのために——アイネを取り戻す。
エイナの自動回復付与が終わると、俺たちはエンパイアビルの入口に立った。
「行こう」
俺が呟くと、みんな無言で頷いた。




