第九話 思い出の包丁
アテナ屋で刀と包丁の販売を開始したことでお客さんが増えたが、一週間経った頃、他店の包丁の修繕依頼をする人が現れた。
「金を払えば文句ないはずだ!」
開店直後の店でお客さんが叫んだ。
それは修繕依頼をされた際に、他のお店で買った商品はこちらでは製造過程が分からないので、修繕を受け付けないと伝えたからだ。
お金は多少かかってもいいと食い下がってくるが、幾ら貰おうが安全性が保証できないのなら、絶対に受けないと返す。
「でも、これはうちの母親が大事にしてきた包丁なんだ……出来れば使い続けたいっていうから、直してくれるところを探してて……」
会計台に置かれた包丁を見ながら、お客さんはそう言った。
言い方からして他でも断られ、困り果ててうちに来たのだろう。
彼にとってもお金の問題ではないことを理解した。
だがこの包丁は長い間大切に使われ、今寿命を迎えたのだ。
無理に延命すれば、思い出が哀しいものになるかもしれない。
「じゃあやっぱりどうしようもないのか……」
俺が思ったことを伝えると、小さく嘆いた。
哀しそうな顔を見て、どうにかしたいと考えた瞬間、一つ案が浮かんだ。
元の包丁と同じではないが、この方法なら納得するかもしれないので、提案するだけしてみようと思った。
「これはお客さんの受け取り方次第ですけど、提案があります」
「なんだ?」
「この包丁はそのまま使えませんが、この包丁を素材として、新しい包丁にすることは可能です。もちろんタダでは無理ですけど」
「どうやって新しくするんだ?」
「うちにある素材と掛け合わせるんです。もしお母さまが見たいというなら、生まれ変わるところも店でお見せできますよ?」
「ほ、本当か!?」
「ええ、さすがに剣などは再生に必要な材料が多すぎるので、うちでは無理ですけど包丁ならうちの炉でもできます」
そう答えるとお客さんは目を輝かせ、ぜひともそうして欲しい、母親も連れてくるという。
『再生依頼のお客様、包丁持参、ヒサミツ担当』と書いた紙を渡し、来たときにこれを従業員に見せて欲しいと伝え、後日うちに来てもらうことにした。
翌日包丁の売れ行きが良く、補充するため昼に店頭から鍛冶場へ移動する。
昨日の今日来るのはさすがに早いかと思ったが、なんと始める直前に来てくれた。
高齢で上品そうな女性は、うちに来ると深々と頭を下げてお礼を言う。
「この度は息子が無理を言って申し訳ございませんでした。あの、無理ならそれで構いませんので」
「いえ、ぜひちゃんとお母さんの包丁が生まれ変わる瞬間を見て、出来上がるのを楽しみに待っていただければ、こちらとしてもうれしいです」
物をただ売るだけでなく、買う人にも喜んでもらえる方法だと俺は思い、祖父に手伝ってもらって包丁を作り直すことにした。
習得した刀の技術を使い、店頭に並んでいる包丁と同じように製作していく。
夕方になったころ、ようやく出来上がった包丁を鞘に入れて渡すと、いとおしそうに母親は抱きしめる。
「凄いのね。こんなに大変な思いをして作っているなんて」
「あんなに声を荒げて無理を言ってすまなかった」
「いえいえ、これでうちが作った包丁なんで、何かあったら持って来てくださいね」
長い時間見ていて疲れただろうに、帰る時は親子そろって晴れやかな顔をして帰っていった。
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