第十話 売れた包丁と商売敵
思い出の包丁を直した数日後から、何があったのか包丁が飛ぶように売れていく。
減ったら補充のために鍛冶場に行く余裕もなく、祖父と共に売り場ではなく鍛冶場に籠りきりになる。
そろそろ従業員の補充をしたいところだが、未経験者を雇っても教える時間がない。
祖父に連れられ商人ギルドに赴き、経験者の募集を掛けてみたが連絡はない。
数週間たった頃、開店準備をしていると、近所の金物屋さんのガノさんが祖父を訪ねてくる。
やつれた表情のガノさんを見て、祖父は鍛冶場で話そうと促し、俺にも来るよう言ったので付いていく。
「ジーク、恥を忍んで頼みがある。包丁を売るのをやめてくれないか。今月は包丁が一本も売れていない」
そう切り出され俺と祖父は顔を見合う。
確かにうちでは包丁を売っているが、金物店ほど種類も数も多くはない。
それに包丁以外も生活用品を扱っているのに、どうしたのかと祖父が聞く。
すると毎年この時期は、買い替える顧客が多かったことから、包丁に多く材料を割いてしまったという。
さらにうちが包丁を売り始め好調だったことから、ガノさんはお客さんを取り戻すため、セールをやろうと考え商品を追加で作ることになったらしい。
結果として製作のための鉄を多く買い込んでしまったのが、響いているようだ。
「それをわしらに言われてもな。売れ行きも上々で、噂を聞きつけて遠方からきたお客さんもいたらしい。止めるのはお客さんにも失礼になるからできない」
「そこをなんとか。このままじゃ俺たち一家は干上がってしまう」
「ガノよ、さすがにお前の頼みでもそれはきけん。お前のためにお客さんが買いたい気持ちを、犠牲にするわけにはいかん」
「イノ夫婦もうちで修業してるし、孫娘のサナもおる。どうか助けてくれんか!?」
「ガノさん、良かったらうちを手伝ってくれませんか? イノさんもうちで修業しつつ手伝ってもらえたら助かるんですけど」
「俺の店を締めろというのか?」
「現状うちのほうが売れてますし、お客さんに関しては祖父の言う通りです。ガノさんだったら、同じことを提案されて受けますか?」
「そ、それは……」
「ならここはお互いにとっていい方法で解決しましょうよ。うちで働いてもらえれば、その分お給料も出るのでそれで凌げると思うんですけどどうですか?」
「え、そ、それはその……わ、わかった。ちょっと息子たちと相談してくるわ」
ガノさんは混乱しつついったん帰宅した。
まぁ息子さんも加えての話だし、ここで手伝うとは言えないよな、と思いつつ俺と祖父は頭を切り替え仕事に移る。
今日もとんでもなく忙しい。
買取の依頼の対応を祖父と共にしつつ、合間を見て包丁も打って補充をしていた。
そんなに売れるものなのかと驚いていたが、恐らくガノさんが言っていた買い替えの周期なのだろう。
ならば町の人たちの包丁の買い替えが終われば、この忙しさは落ち着くだろう。
「おい本当にてんてこ舞いだな!」
「凄いですねジークおじさん……こんなに混んでるなんて」
昼食も食べながら作業をしていると、作業場にガノさんと共に、年のころは三十代くらいで背が高く細身の青年と、少しふくよかな同年代くらいの女性が現れた。
「おおガノにイノ、それにミラまで。すまんな相手をしている時間が無くて」
「何を手伝えばいい?」
「……良いのか?」
「良いも悪いもないわい。俺たちも生きなきゃならんからな。ミラはうちで会計をしてくれてるから、素人じゃないし戦力になる。で、どうすればいい? 指示をくれ」
「そ、そうか!? ならガノはわしのフォローを。イノ君はわしらの近くで材料を運んだり、出来たものを店に出していってくれ。ヒサミツは買取をメインに対応を、ミラはリンと一緒に会計を手伝ってくれ」
祖父の指示のもと、俺たちはそれぞれ持ち場に付く。
ガノさんにもプライドはあるだろうけど、うちとしては人手が足りなかったので大助かりである。
さすが金物屋なだけあって、鉄の扱いに慣れている。
呼吸を合わせて祖父と共に槌を振るう姿は、とても洗練されていて美しささえあった。
「ヒサミツくん、あまり無理しないでくれ。俺と父さんが手伝うから、ご飯くらいゆっくり取ってくれ」
「あ、ありがとうございますイノさん、助かります」
お客さんの流れがゆっくりになり、一息入れられそうになったところで、イノさんにそう言われ昼食を改めてゆっくり取る。
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