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47歳営業マンが幼児から始める異世界中古武具店~刀で魔物を倒し、正直商売で客も商売敵も救います~  作者: 田島久護


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第二十二話 初めての共闘

 俺の声にアレックスが体を跳ねさせた。


初の実戦だからか体が動いていない。


岩石トカゲの巨体が彼の目前まで迫る。


「坊ちゃん!」


 エルシドさんの叫び声で、アレックスは我に返り急いで横へ飛んだ。


岩石トカゲの牙が、彼の服の端をかすめる。


「危なかった……」

「ぼんやりしないでください坊ちゃん!」


「分かってる!」


 口では言い返したものの、アレックスの顔から血の気が引いていた。


それでも逃げ出さずに気概を見せ、両手を前へ突き出した。


恐らく何か魔法を出そうとしているのだろう。


ならば俺ができるのは、彼が魔法を出しやすいよう、岩石トカゲを引き付けることだ。


「アレックス、僕が抑えている間に魔法を!」

「命令するな!」


「じゃあ、頼む!」

「……それならいい!」


 岩石トカゲが向きを変え、再び突進してくる。


真正面から殻を斬っても、また刀を欠けさせるだけだ。


俺はぎりぎりまで引きつけてから、身体を横へずらした。


岩石トカゲの前脚が目の前を通り過ぎた瞬間、脚と胴体の間にある、小さな隙間を発見した。


試作刀の切っ先なら入るのではないか、と考え素早く突き入れた。


「グオオ!」


 刃が岩の隙間へ食い込み、岩石トカゲの身体が傾く。


俺は柄を両手で握り、食い込んだ刀をてこのように動かして、岩の隙間をさらに広げた。


岩の内側で、青い光が明滅している。


「アレックス、今だ!」

「任せろ!」


 アレックスの両手に、光の粒が集まっていく。


岩石トカゲが起き上がろうともがくが、俺は刀を隙間へ差し込んだまま押さえ続けた。


「氷柱槍――アイスランス!」


 鋭い氷柱が、俺の横を通り抜けた。


青く光る玉へ突き刺さり、岩石トカゲの身体が大きく震える。


「グアアア!」


 俺は刀を引き抜き、すぐに距離を取った。


ひび割れた岩が次々と地面へ落ち、やがて岩石トカゲの身体が完全に崩れた。


あとには鋭い牙と、赤いガラスのような球が二つ残っている。


心臓のようなものは青だったから、おそらく目だろう。


鉱石でできたモンスターなのだろうか。


「やったぞ、ヒサミツ!」

「うん。アレックスの魔法がなかったら、倒すのにもっと時間がかかってた」


「そうだろ! ようやく俺のすごさが分かったか!」

「ですが、ヒサミツが岩の殻をこじ開けなければ、魔法は届きませんでした」


 エルシドさんが俺たちに近づいてきて言う。


「前衛が敵を引きつけ、魔法使いが隙を狙う。二人とも、自分一人で倒したと思わないことです」

「……分かってるよ」


 アレックスが俺へ手を差し出した。


「次も頼むぞ、ヒサミツ」

「こちらこそ。次も来られるといいけど」


 その手を握り返す。


「まぁ、いずれは俺一人でも倒せるようになるから、その時はヒサミツを守ってやるよ!」

「楽しみにしてるよ」


「ふん、絶対にそうなってやる。俺はクリームヒルト様みたいな魔法使いになる、っていう目標があるからな」

「クリームヒルト様?」


「有名な魔法使いだよ。お前、知らないのか?」

「初めて聞いた」


「だったら、いつか俺が紹介してやる」

「坊ちゃん」


 エルシドさんの声が、わずかに低くなった。


「その方を、気軽に紹介するなどと言ってはいけません」

「なんでだよ。旅の途中でスタントへ寄るかもしれないだろ」


「それ以上は、ここで話すことではありません」


 エルシドさんの言葉に、アレックスは不満そうに口を尖らせた。


クリームヒルトという魔法使いが何者なのか気になったが、エルシドさんは答えるつもりがないらしい。


「話の続きは帰ってからにしましょう。予定より早いですが、探索は終了です」

「ええっ、せっかく倒したのに?」


「この階層に岩石トカゲがいた時点で異常です。約束を忘れましたか?」

「……退却しろって言われたら従う」


「そのとおりです」


 アレックスはまだ奥へ進みたそうだったが、自分から出口へ向かって歩き出した。


以前のように勝手に走り出さなかっただけでも、大きな進歩だと思う。


 俺たちは岩石トカゲの牙と赤い球を回収し、途中で採った薬草を持って詰め所へ戻った。


報告を聞いた兵士たちの顔色が変わる。


「岩石トカゲが、ヤドムシの出た空洞に?」

「間違いありません。通常より上の階層へ移動しただけなのか、別の異常なのかは分かりません」


 エルシドさんの報告を受け、兵士が再び入口に立入禁止の立札を立てた。


「調査が終わるまで、採取を停止します」


 封鎖が解除されたばかりだったが、安全が確認できないなら仕方がない。


領主付きのエルシドさんが同行していても、異常が確認された以上、入口は閉じられた。


兵士たちの規律は誰が相手でも揺るがない。


守られる立場としては安心できる。


 店へ帰ると、エルシドさんが祖父へ詰め所での出来事を説明した。


俺とアレックスは、採取した薬草と岩石トカゲの素材を母へ見せる。


「二人とも、怪我はない?」

「ないよ。傷薬を使う場面もなかった」


「俺も大丈夫です!」


 アレックスが背筋を伸ばして答える。


母は安心したように息を吐いた。


俺は籠から試作刀を取り出し、祖父へ渡す。


「岩を弾いたあと、殻の隙間をこじ開けるのにも使ったんだ」


 祖父は刀を手に取ると、左目を閉じ右目の前に柄頭を持ってきて刀を構え、反りに異常がないか見る。


そのあとで刃先などのチェックを始めた。


「ひびはないが、切っ先がわずかに歪み、柄にも緩みが出ておる。これは売り物にはできんな」

「うん。試験用として残して、次の刀を作る時の参考にするよ」


 祖父と刀の検査を終えて視線を前に向けると、母が赤い球を手に取って見ていた。


「これは岩石トカゲの目ね。魔法で倒したときにしか、きれいな形で残らないって聞いたことがあるわ」

「アレックスが魔法で倒したんだ」


「ヒサミツが隙間をこじ開け、おそらくモンスターの核だった中の玉が見えるようになったから、俺が魔法で当てられるようになったんだ。俺一人の戦利品じゃない」


 アレックスは少し考えたあと、赤い球を俺の前へ置いた。


「これ、店で何かに使ってくれ」

「でも、アレックスの取り分は?」


「商品になって売れたら、そのとき分ければいいだろ」

「分かった。使った素材と売れた金額は、きちんと記録するよ」


「友達同士なのに、細かいやつだな」

「友達だからこそだよ」


 俺が答えると、アレックスは一瞬きょとんとしたあと、笑った。


「じゃあな、ヒサミツ。また来るからな」

「うん。またね、アレックス」


 今度は照れずに、自分から手を振り返すことができた。

読んで下さって有難うございます。読んで面白いと感じた時には、ぜひ評価を頂ければ嬉しいです。

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