第二十三話 岩石トカゲの赤い瞳
アレックスとエルシドさんがダンジョンへ同行した翌朝。
持ち帰った薬草は、母の薬に使う分と、素材のまま売る分に分けた。
問題は、使い道の決まっていない岩石トカゲの牙と赤い球である。
「牙は硬いが、熱を加えると細かく割れちまう」
ガノさんが、試しに削り取った小さな欠片を見せてくれた。
「これ以上試すと、素材そのものを駄目にしそうだ」
「なら、分からないまま加工するのはやめよう」
素材を一つ無駄にすれば、それだけアレックスへ返せる利益も減る。
「こっちの赤い球は、ガラスに近いようじゃな」
祖父が光へ透かして確かめる。
「だが、わしらはガラス職人ではない。溶かせたとしても、きれいな形にはできんじゃろう」
「それなら、ガラスを扱える工房に相談した方がいいね」
「うちの仕事を、ほかの店へ渡すのか?」
イノさんの問いに、俺は首を横へ振った。
「加工できないのに無理をすれば、素材を壊すだけだよ。ガラス職人には加工の報酬を払って、うちは商品を考えて、品質を確かめて売る。仕事を分けた方が、失敗も少ないと思う」
「なるほどな。ガラスの部品を使った金物なら、俺たちにも仕事は残る」
「そういうこと」
何を作るかが決まれば、必要な金具や台座はガノさんたちに頼める。
けれど、肝心の商品が思いつかない。
「おはようございまーす!」
開店前の店先から、よく通る声が聞こえた。
赤いベレー帽が入口からのぞく。
「セシリアさん?」
「おはよう、ヒサミツくん。ちゃんと覚えていたのね」
「その帽子と引換券は、なかなか忘れられないよ」
「どういう意味よ、それ」
セシリアさんは頬を膨らませながら、赤い帽子を押さえた。
「今日はどうしたんですか?」
「ヤドムシの報酬が用意できたから、迎えに来たの。あの引換券を持って、ギルドへ来てもらえる?」
「分かりました、準備します。母がお茶を用意してくれたので、飲んで待っていてください」
俺が答えると、セシリアさんの視線がテーブルの上で止まった。
「その赤い球、岩石トカゲの目じゃない」
「知ってるんですか?」
「迷宮調査員よ。素材も調べるわ」
セシリアさんは一つを手に取り、光へ透かした。
「傷もほとんどない。魔法で倒したのね」
「僕じゃなくて、同行した人が魔法を使ったんです」
「昨日の報告にあった、領主付きの騎士と一緒に入った子?」
「それ以上は、本人の許可なく話せません」
「そこまで聞くつもりはないわよ」
セシリアさんは赤い球をテーブルへ戻した。
「それで、これをどうするの?」
「それを相談していたところです。うちではガラスを加工できないから、職人さんに頼むつもりだけど、何を作れば売れるのか分からなくて」
「そのまま素材屋へ売れば、かなりの値段になると思うけど」
「一度売れば、それで終わりだから」
俺はテーブルの上の赤い球を見た。
「商品として売れる使い道が見つかれば、冒険者は岩石トカゲの目を傷つけずに持ち帰ろうとする。素材屋の取引も増えるし、ガラス職人にも仕事を頼める。うちも商品を売れる」
「相変わらず、自分の店だけが儲かればいいとは考えないのね」
「一軒だけでは、長く続けられないから」
セシリアさんは腕を組み、しばらく赤い球を見つめた。
「それなら、コップはどう?」
「コップ?」
「岩石トカゲの目から作った、赤いガラスのコップ。普通のガラスとは違うし、魔物の素材を集めている人なら欲しがると思う。私も完成したら一つ欲しいわ」
赤い光を透かす、岩石トカゲのガラス杯。
実用品としてだけでなく、希少な魔物素材を使った収集品として売る。
前世でも、機能が同じ品でも、材料や由来の希少性によって何倍もの値段がつくことはあった。
「ガラス職人に試作を頼んでみます。金具や飾りが必要なら、ガノさんたちにも作ってもらう」
「素材の仕入れは、素材屋を通すの?」
「うん。継続して売るなら、その方が冒険者も素材屋も利益を得られるから」
「そこまで決まったなら、早く作ってね。最初の一個は私が予約するから」
「まだ作れるかも分からないのに?」
「だから予約よ」
セシリアさんが笑う。
完成前の商品に、刀以来二度目の予約が入った。
喜びつつもすぐに準備を整え、セシリアさんのもとに戻る。
彼女は母が用意してくれたお茶を、ぐいっと一気に飲み干す。
「それじゃ、お茶もいただいたし、今度こそギルドへ行きましょう。引換券を忘れないでね」
俺はダンジョンヤドムシの時にもらった派手な引換券を持ち、セシリアさんと一緒に冒険者ギルドへ向かった。
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