第二十一話 友達との初探索
「おう、ヒサミツ……ん?」
東採取ダンジョンの詰め所へ入ると、顔見知りの兵士が俺の後ろを見て固まった。
「どうして領主様付きのエルシド殿が……?」
「今日は私が、この二人の護衛として随伴する」
エルシドさんはそう答え、懐から一枚の書面を取り出した。
「アレックス様のご家族からの許可証だ。入場記録にも、三人の名前を残してくれ」
「は、はい!」
兵士は書面を確認したあと、俺たち一人ずつの名前と入場時刻を記録した。
エルシドさんほどの騎士がいても、手続きは省略しないらしい。
むしろ自分から記録を求めた姿を見て、少し安心した。
「昨日封鎖が解除されたばかりです。何か異常があれば、すぐに戻ってきてください」
「承知した」
エルシドさんが答えると、兵士はようやく俺たちを通してくれた。
「二人とも、ダンジョンに入ったところでもう一度確認します」
入口をくぐったところで、エルシドさんが足を止める。
「私が退却を命じた場合、理由を尋ねる前に従ってください。特にアレックス様」
「なんで俺だけを見るんだよ」
「過去の行いを思い出してください」
「……分かったよ」
不満そうではあるが、アレックスはきちんとうなずいた。
以前なら、ここで言い返して勝手に奥へ走っていただろう。少しは約束を守る気があるらしい。
「これが薬草で、こっちが毒消し草。葉の先が丸い方が薬草だよ」
「こんなに似てるのかよ」
「根元も違うよ。あと、そこは踏まないで」
「うおっ!」
足を上げたアレックスの下に、刈り取られたばかりの薬草の株があった。
「根を残しておけば、また生えてくるから」
「最初に言えよ!」
「今言ったよ」
言い合いながら薬草を採取していく。
「これも、お前のお母さんの薬にするのか?」
「全部じゃないけどそうだよ。うちの主力商品になるかもしれないから、丁寧に摘んでくれよ」
「任せろ!」
敵がいないので遠足のような雰囲気で進み、以前ダンジョンヤドムシと戦った空洞へ到着した。
「ここで異常個体が出たのか」
「はい。通常より小さかったのに、殻と脚の硬さは普通の個体と変わらなかったそうです」
エルシドさんは周囲の壁や地面を注意深く見回した。
「その個体を六歳のヒサミツが倒したと聞いて、アレックス様のご家族も驚いていました。それが同行を認めた理由の一つです」
「僕のことを、そこまで知っていたんですか?」
「報告された情報の範囲だけです」
アレックスの家族と、領主付きのエルシドさん。
やはり普通の家ではないだろう。
ただ、以前尋ねないと決めた以上、本人が話すまでは聞かない。
――ガチッガチッ!
そのとき、空洞の奥から硬い石を擦るような音がした。
エルシドさんが素早く剣を抜き、アレックスを背後へ下げる。
「二人とも、気を付けてください」
暗がりから現れたのは、虎ほどの大きさをした岩の塊だった。
四本の脚と長い尻尾を持ち、赤く透き通った二つの目がこちらを見ている。
「岩石トカゲ……?」
「アレックスも実物は初めて? 僕も岩石トカゲは初めて見るよ。しかしこの階層に現れる魔物ではない、って見た気がするけど」
図鑑では、もっと下の階層に生息すると書かれていた。
封鎖が解除されたばかりだというのに、また本来とは違う魔物が出ている。
「エルシドさん」
「一体だけなら私が倒そう。だがその後はすぐに戻り報告する。ヒサミツ、無理だと思ったら下がってくれ」
「はい」
籠から、重ねを厚くした試作刀を取り出す。
販売している刀よりこちらの方が重いものの、柄を握るといつものように身体の運び方がわかった。
重くても扱える。
これは間違いなく刀だ。
「クオオ!」
岩石トカゲが尻尾を地面へ叩きつけた。
砕けた岩が、こちらへ向かって飛んでくる。
「アレックス、下がって!」
俺は刀を立て、刃ではなく厚く作った棟を岩へ合わせた。
――ガン! ガン!
飛んできた岩を横へそらす。
腕に強い衝撃が走ったが、刃は欠けていない。
「本当に刀で岩を弾いたのかよ……」
「感心するのは後です!」
エルシドさんの声と同時に、岩石トカゲが地面を蹴った。
今度は巨体そのもので、俺へ突進してくる。
俺は横へ跳んだ。
ところが岩石トカゲは、こちらを追わなかった。
途中で向きを変え、俺の後ろにいたアレックスへ突っ込んでいく。
「アレックス、避けろ!」
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