第二十話 初めての友達?
「そうだけど?」
「え?」
驚いた声を上げたのは俺だった。
「なんだよ、その顔は」
「まだ一回しか会ってないし、そんな状況で友達って呼ぶのかなと思って」
「一緒に人を助けて、名前まで教え合っただろ。これで友達じゃなかったら、何なんだよ」
「そう言われると……友達なのかな」
「友達だ!」
アレックスが当然のように言い切った。
その瞬間、母が俺の身体をそっと抱き寄せた。
「母さん?」
「ううん。なんでもないの」
そう答えながらも、抱く腕には力がこもっている。
「よかった……」
耳元で、小さな声が聞こえた。
俺は家のことばかり考え、同じ年頃の子供と遊びに出たことがほとんどない。
暇があれば店を手伝い、一人でダンジョンへ入っていた。
母はずっと、それを心配していたのだ。
前世では母はおらず、父は自分のために一生懸命働いてくれた。
だから夜しか話す時間がなくても、不満に思ったことはない。
だがもし長い時間共にいたら、俺のことをこうやって心配してくれたかもな、と思うと目の奥が熱くなった。
アレックスの前で泣くのは恥ずかしい。
俺は母の腕から顔だけを出した。
「母さん、そろそろ行かないと」
「あ、ごめんなさい」
母は名残惜しそうに腕をほどくと、今度は店の奥から二本の小瓶を持ってきた。
「二人とも、これを持っていって。新しく作った傷薬よ」
「売り物を使っていいの?」
「家で使おうと思って取っておいた分だから良いの。アレックス君、これはシスターにも確認してもらったし、家族や従業員の皆と一か月試したけれど、問題ないからよかったら使って」
母は一本を俺に、もう一本をアレックスに手渡した。
「怪我をしないで帰ってきてね」
「あ、ありがとう……ございます」
いつもの勢いはどこへ行ったのか、アレックスは両手で小瓶を受け取った。
「それと、良かったらだけど、これからもヒサミツと仲良くしてあげてね」
「もちろんです!」
なぜか俺と話すときよりも、はるかに礼儀正しい。
「ヒサミツ。刀と採取道具は、ここにまとめてある」
祖父が籠を差し出してくれた。
中には、新しく打った斬撃用の刀と、重ねの厚い刀が入っている。
特に重ねの厚い刀は斬るというよりも、耐久面に重きを置いた最初の試作品だ。
「まだ売り物ではない。無理はせず、少しでも異常があれば使うのをやめるんじゃぞ」
「分かってる」
籠を背負い、店の外へ出る。
「行こう、アレックス」
「おう!」
俺たちの後ろから、エルシドさんも続いた。
「行ってきます、お母さん!」
アレックスが振り返り、俺の母に向かって声を上げた。
母が嬉しそうに手を振る。
「誰のお母さんだよ」
「い、いいだろ、別に!」
顔を赤くして歩く速度を上げたアレックスを追いながら、俺は笑った。
初めて友達と歩くダンジョンへの道は、一人で歩いたときよりも、ずっと短く感じられた。
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