第十九話 母の薬
妙な券を渡され困惑していると、声を掛けられた。
顔を上げると、そこには先ほど調査隊に同行した少女が立っていた。
「あのヤドムシだけど、通常個体より小さい。ただ、殻の硬さや脚の太さは変わらなかった。より狭いところで戦えるよう、環境に適応した変異体かもしれないわ」
「珍しいタイプのヤドムシだったんですね」
「そうそう。じゃあギルドに報告しに行くからまたね。私の名前はセシリア。冒険者ギルドの調査員をしているの。セシリアお姉さんと呼んで頂戴! じゃあね!」
そう言って去っていった。
タイミングを待っていたかのように、兵士の人たちが詰め所から出てくる。
「じゃあ君は帰ってもいい。閉鎖が解除されるまで他で採取してくれ」
「安全確認が終われば知らせも出るから、それを確認してから来るんだぞ?」
「ありがとうございます! 失礼します!」
兵士たちにお礼を述べてから、ダンジョンを後にした。
店に戻るとさっそく祖父に、ダンジョンヤドムシを攻撃し、反りが強い刀がかけた話をする。
刀として硬い殻を切るなら、それこそ世界最硬度の鉱石で製作するしかないと言われる。
ただ剣で硬い殻を割ろうとして失敗し、文句を言ってくる者もいないので、刀だからといって説明する必要はないという。
確かに言われてみれば、武器としてハンマーも斧もあるよなと思った。
なので今後の方針として、反りが強い刀に関しては鎌として製作する。
直刀に関しては魚屋さんに試してもらい、具合が良いと言ってもらったので、そのまま同じ製法で打ち、販売することにした。
さっそく刀を飾っているコーナーに、『ダンジョンヤドムシの殻のような硬度のものを切ると、欠けます(実証済み)』という札を立てておいた。
鎌に関しても同じ立札を立てる予定である。
「祖父ちゃん。この薬草はどうしよう?」
「薬ならリンのほうが詳しい。リン、これはどうじゃ?」
「私の生まれた家に伝わる、切り傷に塗る薬の作り方があって、それが使えるかも。ただこの土地の薬草で作ったことがないから、効き目が違うかもしれない」
母は薬草を見てそう答える。
「それならさ、母さん。薬に詳しい人に材料とか作り方を確認してもらうってのはどうかな」
「ああ、それならシスターが良いわね。まずは彼女に確認してもらって、大丈夫ってなったらうちで使ってみましょう」
「それがええな。ワシら家族で幾ら使ったかとか、効き目はどうかとか、悪い症状が出ないか記録をつけておこう。問題ないとなった時、従業員の皆にも話して使いたい人がいれば、無償で提供し使ってもらおう」
「使い切らない分の薬草は、お店に出してしまいましょう。さすがに少量作るには、今ある量は多すぎるし」
祖父や母と話して初めて、安全を確かめる手順は思いついても、俺には薬の製法や販売についての知識がないことに気づいた。
これを機に、その辺りも調べてみよう。
「そうしよう。安全を確かめたうえで、うちの商品として出せばいい。リンもこの店を支える一人なのじゃから、いい商品が思いついたらどんどん言ってくれ」
「そうですか……お義父様がそうおっしゃるなら」
「お母さん、誰から薬の作り方を教わったの?」
「あなたのおばあちゃん、私の母よ。遠い東の国で伝わる製法なの」
そう答えた母の表情が、一瞬曇る。
確かに町の人たちの顔と俺や母の顔は、元の世界でいえば西洋出身者と東洋出身者の違いと同じである。
祖母たちが引っ越してきたのか、それとも母が訳があって移住してきたかわからない。
だが俺のルーツが前世と同じように、東にあると思うと、運命を感じずにはいられなかった。
東採取ダンジョンが封鎖されてから、ひと月半が経った。
母の薬は、まずシスターに材料と製法の確認をしてもらう。
家族内での試用を終えて異常がなかったうえで、母に従業員の皆へ薬の説明をしてもらい、切り傷がある人に試してもらった。
思いのほか好評だったし、しばらく待っても塗った場所に異常が見られず、体調不良もなくてほっとする。
シスターにも再度報告し販売許可をもらったので、明日からアテナ屋の新商品として店頭へ並ぶことになった。
そして同じ日の朝、東採取ダンジョンの安全確認が終わり、前日付で封鎖が解除されたという知らせも届いた。
サナとの朝の散歩から戻ると、店の前でアレックスが大きく手を振っていた。
「おい、ヒサミツ! 迎えに来たぞ!」
その隣には、青いマントをまとったエルシドさんもいる。
「いらっしゃい、アレックス。今日は何をお求めですか?」
「決まってるだろ! 俺と一緒にダンジョンへ行くぞ!」
以前よりも胸を張るアレックスから、エルシドさんへ視線を移す。
俺が口を開く前に、エルシドさんが一歩前へ出た。
「アレックス様のご家族には、ダンジョンの危険をすべて説明しました。そのうえで同行の許可をいただいています。私が護衛として中まで付き添い、私の判断には必ず従わせます」
「俺だってちゃんと約束したぞ!」
「東採取ダンジョンの封鎖も、昨日付で解除されています。ただし、少しでも異常があれば、その場で探索を中止します」
家族の許可、護衛の同行、ダンジョンの封鎖解除。
約束した条件は、すべて揃っている。
「それなら、今度こそ一緒に行けるね」
「おう!」
アレックスが白い歯を見せた。
「ジークさん。ヒサミツをお借りしてもよろしいでしょうか」
「約束を守ってくれたのなら、わしから言うことはない。ヒサミツ、行っておいで」
「はい!」
返事をして支度をしようと移動したところで、母に肩をつかまれた。
母は俺ではなく、アレックスを見ている。
「あなたは……ヒサミツのお友達?」
どこか恐る恐る尋ねる母に、アレックスは目を丸くした。
読んで下さって有難うございます。読んで面白いと感じた時には、ぜひ評価を頂ければ嬉しいです。
また誤字脱字報告に関しましては、誤字報告機能の利用をお願い致します。




