第二話 転生先が中古武具屋だった件について
「この子、本当に笑顔が多いわ」
母がうれしそうに笑う。
その顔を見ていると、俺まで自然に笑顔になった。
(抱かれているだけで、こんなに安心するものなのか)
前世の俺は父に育てられ、母のぬくもりを知らない。
背中を支える手も、頬に触れる指も、何もかもが初めてだった。
転生初日は何事もなく過ぎ、翌日から赤ん坊生活が始まる。
ただ特にできることが無いので、布団に寝転がりぼーっとしていると、祖父が顔を出した。
「なんじゃヒサミツ、暇そうじゃな。そんなに暇ならこれを握ってみるか?」
現れた祖父に赤ん坊らしく愛想を振りまいていると、祖父が俺の手に玩具ほど小さな木刀を握らせる。
前世でも見慣れた武器がうれしくて、握り振り回した。
ただ振り回しているはずなのに、木刀を握っているのが不思議なほどしっくりくる。
「ははは! 気に入ったか!」
喜ぶ祖父に笑顔で応える。
「まぁ追々身につけていけば問題ないじゃろ。この世界では武が大事じゃからな」
そう言って祖父が去ったあと、子供らしく動きつつ筋トレしていると、瞼が重くなり眠りに落ちる。
生まれて一か月ほどたった朝、母がいつもより丁寧に俺の服を整える。
「アテナの月も今日で終わりね。生まれてひと月は女神様のご加護を得るため、家族以外には会わせられないけど、今日からは皆にも会ってもらえるわ」
「従業員たちも、跡取りを見るのを楽しみにしておるぞ」
母に抱かれて部屋を出ると、大勢の人が待っていた。
「ヒサミツ坊ちゃま、初めまして!」
「まあ、かわいらしい跡取りだこと」
老若男女が次々に顔をのぞき込み、俺の誕生を祝ってくれる。
店の従業員とその家族たちらしい。
笑顔に囲まれた部屋の奥で、一人だけ笑っていない男がいた。
眉間に深いしわを寄せ、唇を固く結んでいる。
その男だけは俺に近づかず、離れた場所からこちらを見据えていた。
(なんだあの人。俺が何かしたか?)
誰なのか気になり、男へ向かって手を伸ばす。
すると男は俺から逃げるように、顔を背け歩き出した。
「あなた。せっかくだから、ヒーくんを抱いてあげて」
母に呼ばれた男は一瞬だけ足を止める。
「……今はいい」
それだけ答え、人の間を抜けて部屋を出ていった。
俺を抱く母の腕にわずかに力が入る。
「ラグナ!」
祖父が呼び止めても、ラグナと呼ばれた男は振り返らない。
母が「あなた」と呼んだということは、あの人が俺の父親なのだろう。
この世界で初めて知った母のぬくもり。
その一方で、父は俺に触れようともしない。
母の腕の中で心地よさを感じながらも、父の残した冷たい視線が頭から離れなかった。
「ヒーくん。今日は、あなたが継ぐお店を見てみましょうか」
お披露目を終えてから、母は毎日俺を背負って町を見せてくれた。
そしていよいよ我が家の店を見学することになる。
(わくわくするな。どんな感じの店なんだろうか)
階段を下りるにつれて人の話し声と、金属が触れ合う音が大きくなっていく。
「いらっしゃいませ!」
「ジークさん、この盾は買い取ってもらえるか?」
一階の店には、剣や槍、盾、鎧などが所狭しと並んでいた。
声をかけてきた冒険者は、表面に爪痕が残った銅の盾を祖父へ差し出す。
「随分やられたな。何と戦った?」
「街道でグレイウルフに囲まれた。仲間が追い払ってくれなきゃ、今頃は腹の中だったよ」
祖父は傷の深さだけでなく、留め具や裏側まで確かめてから値段を告げる。
「直せばまだ使える。これなら十ゴールドで買おう」
「本当か? もう捨てるしかないと思っていたよ」
冒険者はうれしそうに代金を受け取り、新しい盾を見始めた。
アテナ屋は冒険者から使い終えた武具などを買い取り、修理して販売する店だった。
(捨てられるはずだった物を直し、次に必要とする人へ売るのか。いい商売だな)
売った冒険者はお金を得られ、安い武具を求めるお客さんも助かる。
俺が転生前に思い描いた商売に、少し似ている気がした。
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