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47歳営業マンが幼児から始める異世界中古武具店~刀で魔物を倒し、正直商売で客も商売敵も救います~  作者: 田島久護


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第一話 皆の明日を守る商売

「お前の正義の味方を気取った行動のせいで、何十人も未来を失ったぞ!」


 朝のエントランスに、常務の怒声が響いた。


出勤してきた社員たちが足を止め、一斉にこちらを見る。


常務は俺に詰め寄ろうとしたが、両脇を警察官に押さえられ、そのまま連行されていった。


彼が逮捕されたのは、二重計上による脱税だ。


 俺の名前は太田久光。


四十七歳の営業マンだった。


部下がいないため、自分の営業データは自分で管理していた。


一年ほど前、自分の伝票を整理している際、同一取引先の同額の領収書を二つ見つけた。


領収書を調べた結果、それが二重計上だと判明した。


―久光。お前の名前の由来のように、暗闇の中で迷い続ける人を照らす光になりなさい。


 死の間際まで父が繰り返していた言葉に従い、俺は警察へ通報した。


不正を見て見ぬふりする方が間違っている。


そう信じて捜査にも協力した結果、常務と不正に関与した社員十数名が逮捕された。


「あなた、忘れ物……」


 連行されていく人々を見ている時に、一人の女性がお弁当らしきものを手に、そう言って立ち尽くしているのを発見する。


唖然とした表情が徐々に崩れていく。


彼女の顔を見ていられずに俺は目を伏せる。


罪を犯したのは旦那だ。


だが、彼女の生活も今日を境に一変するだろう。


不正を暴いたことは正しい。


では、その正しさによって明日を失った人たちは、どうすればよいのだろう。


考えても答えは出ないまま、勤務を終えて家路についた。



家に帰っても眠れるはずがない。


ぼーっとしていると、連行されていく光景が浮かんでは消えていく。


テレビをつけると転生もののアニメがやっていた。


学生時代なら剣を手に敵を次々倒す主人公に憧れて、そうなりたいと思っただろう。


だが今は違った。


 もし一からやり直せるとしたら、買う人、働く人、誰もが犠牲にならない、そんな商売がしてみたい。


不正を働く必要もない環境を目指し続けたい。


俺自身が素材を取って製作することができれば、その分商品を安くして買う人の生活に貢献できるだろう。


誰かの明日を奪うような結果にしない、それを掲げて生きていく。


自分で素材を取って商売するには戦わなければならない。


出来れば時代劇好きとして、刀を使ってみたいものだ。


 異世界に行けるわけでもないのに、夢中で考えていたらいつの間にか眠っていた。



 朝、目が覚めて時計を見ると、出勤時間が迫っていた。


慌てて支度をしながらも、昨夜のことを思い出す。


異世界のことを考える前に、現実でも出来ることがあるのではないか。


今日からでも遅くはない。


それを全力で探していこう。


そう決めて支度を済ませて家を出た。


「……え?」


 あともう少しで駅というところで、視界が歪み足がもつれる。


寄りかかる場所があればよかったが、肩から歩道へ倒れ込む。


常務の不正を追うため、この一年は警察へ協力しながら普段の仕事も続けていた。


自分では平気なつもりだったが、身体はとっくに限界を迎えていたらしい。


遅れて頭に激痛が走り、周囲の音が遠くなっていく。


「だ、大丈夫ですか!?」


 見知らぬ女性の声が聞こえた。


「だ、大丈……」


 答えようとしても、息が漏れるだけで声にならない。


待ってくれ。


俺はまだ、現実で何一つ始めていない。


誰かの明日を守れる仕事を、まだ見つけてもいない。


必死に目を開けようとしたが、視界は暗闇に閉ざされた。



「ヒーくん、元気?」


 女性の声に驚き、目を開ける。


優しい目をした美女が、俺の顔をのぞき込んでいた。


(さっき、声をかけてくれた人か?)


助けてもらった礼を伝えようと口を開く。


「あー」


 出たのは、赤ん坊のような声だった。


恐る恐る持ち上げた手を見る。


小さい。


丸い。


指先が、ぷくぷくしている。


どう見ても、赤ん坊の手だった。


「今日はご機嫌ね。お義父様にヒサミツって名付けてもらえたからかしら」


(ヒサミツってなんで俺の名を? この人の顔どこかでみたような……他人の空似か?)


「あら、難しい顔をして。おしめ変える?」


 そう言って笑顔で俺の腹に顔を当てた。


恥ずかしいので距離を置きたい、そのために彼女を手で軽く押そうとしたが、小さな手は軽く彼女の頭に乗っただけである。


自分の意志で動かしているのが小さな手であることからして、どうやら本当に俺は赤ん坊になっているらしい。


「リン、わしの孫は元気かな? アテナ屋三代目だから大事に育ててくれよ!」


 彼女の後ろから、白髪と口髭を生やした男が顔を出した。


欧米風の顔立ちで、服の上からでも分かるほど体つきがいい。


(この人が祖父か。それにしてもアテナ屋三代目ってまさか俺は本当に社長になるのか?)


三代目という言葉に興味が湧き、思わず手を伸ばす。


「まあ。お義父様を見て喜んでいますわ」

「そうかそうか。リンも産後の肥立ちがよくて何よりじゃ。今は無理をせず、ゆっくり休みなさい」


 祖父との会話を聞く限り、このリンという名前の女性が俺の母らしい。


そして驚くことに俺は前世と同じ、ヒサミツと名付けられていた。


「あなたの名前はね、お義父様が持っている東方の刀からいただいたのよ」


(刀からヒサミツ。しかも俺は店の跡取りか。転生する前に考えていたことと、縁がありすぎないか?)


 どうやら寝る前に考えていたことが、今現実となっているらしい。


なら前の人生で成し得なかったことをやるチャンスだ。


今度こそ俺は、誰かを罰するのではなく、救う光になるんだ。

読んで下さって有難うございます。読んで面白いと感じた時には、ぜひ評価を頂ければ嬉しいです。

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