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47歳営業マンが幼児から始める異世界中古武具店~刀で魔物を倒し、正直商売で客も商売敵も救います~  作者: 田島久護


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第十四話 スライムに襲われた冒険者

 少年はこちらの制止の言葉を無視し、洞窟の奥へ進んでいく。


「見つけたぞ! スライムにやられてる!」


 やっと止まってくれた少年は、こちらに向かって叫んだ。


スライムはゴブリンと同じように、災害指定されているモンスターである。


ちゃんと知識を持っていて止まれたんだとほっとした。


急いで追いつき前に出ると、角を曲がった先で男が一人倒れていた。


「た、助けてくれ! 足が……!」


 這ってこちらに来ようとするも、半透明の物体であるスライムが、彼の両脚を飲み込みさらに引きずり込もうとしている。


見れば革の長靴は形を失いかけており、露出した肌は皮膚がはがれ始めていた。


剣を持っていれば対処できるので、不意打ちを受けたのかもしれない。


「ここは俺が」

「危ない!」


 両手を突き出した少年の襟をつかみ、引き戻す。


直後、スライムから伸びた触手が、少年のいた場所を打った。


飛び散った粘液が岩へ付着し、ゆっくりと音を立てて表面を溶かしていく。


少年の顔から余裕が消えた。


「斬撃用の武器がないなら控えてて。捕まったらあの人みたいになるよ?」

「……先に言えよ」


 どうやら飛び掛かってはいけない、くらいの知識しかないらしい。


それでよくダンジョンに入ってきたなと呆れつつ、敵であるスライムを観察する。


 スライムは分厚い皮膜で粘液を包み、その中央にある赤い核で動いている。


倒すには、皮膜ごと核を断つしかない。


刀なら届く。


だが斬り損ねれば、俺たちも粘液を浴びてしまう。


絶対に外せない。


見れば近くに男の物であろうマントが落ちていた。


斬った瞬間にマントを彼に投げてかぶせれば、粘液からの被害を最小限に防げる。


飛び散り終わってからマントの下の手を引っ張れば、少年も怪我をしないだろう。


「そこの布を拾って俺が倒したら、すぐにマントをあの人にかぶせて。粘液が飛び散り終わったら、マントの下の手を引っ張って欲しい」

「俺に命令するのか?」


「嫌なら危ないから入口まで戻って」

「……やればいいんだろ!」


 少年はそう言ってマントを拾い構えた。


素直ではないが、男を助けたい気持ちはあるらしい。


彼の動きを見て俺は下段の構えを取り、スライムの正面に立つ。


狙う赤い核は粘液の中をゆっくり移動している。


タイミングを計りながら、こちらの間合いに入れるべく距離を詰める。


が、一歩近づくと二本の触手が同時に伸びてきた。


片方をかわし、もう片方を刀で切り落とす。


――ジュッ!


刃に付いた粘液から、白い煙が上がった。


(長くは使えない。一撃で決める)


もう一度伸びた触手をぎりぎりまで引きつけ、横へ跳ぶ。


攻撃のために皮膜が伸び、赤い核が表面近くへ浮かんだ。


そこへ踏み込み、刀を振り抜く。


――ザン!


赤い核が二つに割れた。


「今だ!」


 少年がマントを投げて男へ被せたのを見て、急いで距離を取る。


スライムは形を失い、粘液が四方に飛び散った。


刀を見ると、粘液が付着した部分だけ黒く変色し、小さなくぼみができている。


(斬ることはできても、スライム相手では一度きりか)


切れ味だけでは、どんな魔物にも使える武器にはならない。


いずれその辺りを解決するため、別の素材を使って新しい刀を作りたい、そう思った。


 粘液が飛び散り終わると、少年がマントの下の手を掴み、スライムの残骸から引き離した。


刀を収めた俺も反対の手を引っ張り、どうにか救い出す。


危険な作業だが迷わず行動できた少年を見直した。


「水はある?」

「少しならある。これを使ってくれ」


 少年が腰の水筒を渡してくる。


布を退け、残った水を両脚へ少しずつかけて粘液を薄める。


完全には洗い流せないが、このまま付着させておくよりはましだった。


皮膚は赤くただれ、自力では歩けないが、幸い骨までは達していない。


「た、助かった……。お前たち、本当に子供なのか?」

「助かってよかったです。今兵士の人を呼んでくるので待っててください」


「なら俺が連れてきてやるよ。少なくともお前がいた方が安全だしな」

「良いの? 兵士に怒られない? 黙って入ってきたことを」


「余計な心配するな!」


 そう言って少年は入口へ走る。


しばらくすると兵士たちが担架をもって現れた。


詳細を話すと内部の確認とスライム討伐のため、すぐに討伐隊を呼ぶという。


さらに兵士から、負傷した人と一緒に町まで戻ってほしいと言われ、従うことにした。


「礼をさせてくれ。ギルドへ行けば、いくらか用意できる」

「そのお金は治療に使ってください」


 俺は店の名を彫った木札を一枚渡した。


「代わりに武器が必要になったら、アテナ屋を思い出してもらえれば十分です」

「助けた相手にまで店を売り込むのか」


 少年があきれた顔をする。


「ただ助けて立ち去ったら、正義の味方みたいだからね。これでも商人の端くれだから、必要になった時に店を思い出してもらいたくて、渡したんだよ」

「そういうことにしておいてやる」


 負傷者に付き添ってギルドまで移動し、事情を説明したあとで俺は店へ帰ることにした。


ところが、少年も当然のように隣を歩いている。


「君はどこへ行くの?」

「お前の家」


「どうして?」

「あの刀を作った店を見たい。本当に武器屋の子供なのかも確かめる」


「その前に、名前くらい教えてよ」

「店を見たら教えてやる」


 断っても帰る顔ではなかった。


 結局、俺は名前も知らない少年を連れ、アテナ屋へ向かうことになった。

読んで下さって有難うございます。読んで面白かった際に感想や評価を頂ければ嬉しいです。

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