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第4話 【推しとコンビニ行ったら警官がゾンビ化して修羅場なんだが】


 二人がドアの外に出た瞬間、空気が変わった。

 さっきまでの部屋とは、まるで別の世界みたいに。


「……っ」ルナが小さく息を呑む。

 廊下は静かだった。静かすぎるくらいに。

 遠くで何かが軋む音だけが、やけに響いている。


 二人で顔を見合わせる。


「……行くよ…」「……うん」

 そっと一歩、踏み出す。足音がやけに大きく感じる。

 無意識に、二人とも周囲をキョロキョロと見回していた。


「……あんた先行きなさいよ」

「いや……押さないでって……」


 後ろからルナにぐいっと背中を押される。

「ほら、無敵なんでしょ?」

「いや、そうなんだろうけど…精神的には無敵じゃないんだけど!?」


「いいから行け!」「えっ?横暴だよ!?」

 小声で言い合いながら、じりじりと進む。


 やがてエレベーターの前にたどり着く。

 ボタンのランプは点いていない。


 二人は沈黙。


「……乗る?」「いや、やめとこう」

 湊が首を振る。

「止まったら詰む。来る時も階段で来たし」


「へぇ」ルナが少し意外そうに見る。

「結構考えるタイプなんだ」

「ふふ、まぁね。ゾンビ映画好きだから」


「……ふーん」軽く、足を蹴られる。


「いてっ!なんで?」

「ヘラヘラ顔がちょっとムカついた」

「なんでだよ!ヘラヘラしたっていいだろ!」

 小声のツッコミが廊下に溶ける。


◇◇◇


 階段を降りる。一段、一段。

 靴底の音がやけに響く気がする。


「……静かだね」「逆に怖いな」

 誰もいない。何も起きない。それが、逆に不気味だった。

 やがて無事に一階まで下りる。ガラスの扉を押し、外に出る。


◇◇◇


「「……え?」」二人同時に声が漏れる。

 誰もいない。ゾンビすらいない。

 さっきベランダから見た光景が嘘みたいに、通りは空っぽだった。


「……チャンスじゃない?」

「うん……行けそうだね…」


 小さく頷き合う。足取りが少しだけ軽くなる。


「コンビニ、近いのあっちだよね?」

「そう、一番近いのはあそこ」


 歩き出す。静かな道を。

 ただ、景色は完全に“普通”じゃない。


 道路には黒く乾いた跡。

 壁には、何かがこすれたような赤黒い痕。

 焦げた匂いが、かすかに残っている。


「……うわ…何これ…」

「見ない方がいいやつだな」視線を逸らしながら進む。


「……そこの二人!」突然、声が飛んだ。

「っ!?」二人ともビクッと止まる。


 振り向くと、警察官が立っていた。

 制服。拳銃のホルスター。ちゃんと“人間”。

「危ないです!外は非常に危険な状態です!すぐに自宅へ戻ってください!」

 はっきりした声。安心感が、少しだけ戻る。


「えっと……」湊が手を挙げる。

「ご飯がなくて……コンビニに」


「……そうですか」警官は一瞬考えて、

「分かりました。では、私も同行します」


「え?一緒に来てくれるの?」

「はい。危険ですので」きっぱりと言い切る。


 ルナが、そっと湊の袖を引く。

「(ねぇ……ラッキーじゃない?)」

「(うん……めっちゃ心強い)」

 ひそひそと小声でやり取り。


「では、行きましょう」警官が先導する形で歩き出す。


◇◇◇


 三人で周りを警戒しながら進む。

 さっきより、少し安心して。でも、空気は重いまま。


 焼け跡。血の跡。誰もいないのに、“何かあった”ことだけが残っている。


 やがて、、


「あっ!見えたよ」ルナが指さす。コンビニの看板。

「おっし!やっと見えた」湊も少し顔が明るくなる。


 その瞬間。、ガサッ。

 横の路地から、何かが呻きながら飛び出してきた。


「っ!!」ゾンビ。一直線に、こちらへ。

「二人は下がってください!!」警官が前に出る。


 腰から拳銃を抜く。「止まれ!!撃つぞ!!」叫ぶ。

 だが、止まらない。距離が、一気に詰まる。


「くっ……!仕方ない!!」引き金が引かれる。


 パンッ!!乾いた音が町に響いた。

 ゾンビの体が揺れる。それでも、止まらない。


 もう一発。、パンッ!!


 今度は倒れる。地面に崩れ落ちる。だが這いつくばりながら寄ってくる。


「はぁ……はぁ……」警官が息を整え、頭に向かってもう一発。、パンッ!!


 そのとき。、、ざわっ。空気が、変わった。


「……え?」湊が顔を上げる。

 音。遠くから、複数の足音。影。呻き声。

 路地の奥、建物の影、角の向こう。ぞろぞろと、現れる。


「……あっ…これ……ヤバい…やつ」ルナの声が震える。


 ゾンビ。一体じゃない。二体、三体、もっと。

 明らかに、音に引き寄せられている。


「おいおいおい……」湊が後ずさる。

「ちょっと待って、これ聞いてない」

「聞いてないも何も、誰も説明してないでしょ!」

「いやそうだけど!」軽くパニック気味のやり取り。


「くっ……下がって!!」警官が再び構える。

 だが、数が多すぎる。一体が警官に飛びかかる。


「ぐっ!?」押し倒される。


「うわっ!どうしよ!」「やばっ!!」


 次の瞬間。噛みつかれる。


「、、あああああああっ!!」

 悲鳴。血。動きが乱れる。


「……っ!!」ルナは息を呑み、体が固まる。


 湊は、反射的にルナの手を掴む。


「行くよ!!」「えっ!?」

「今しかない!!」「でも、あの人…」


 グッと引っ張る。二人で走る。

 警官の方を一瞬見る。もう、助けられない。

 視線を切る。前へ。コンビニへ。走る。


 開き始めた自動ドアを無理矢理押し開け、中に飛び込む。

 ドアがウィーンと閉まる。外では、まだゾンビの音が続いていた。


 息を切らしながら中に飛び込んだ湊とルナは、そのまま数歩進んで立ち止まる。


「……はぁ……はぁ……」

「……ちょっと……待って……心臓……やばい……」


 背後で、ドアがゆっくりと閉まる音。店内は、静かだった。

「……あれ?」湊が周囲を見回す。

「誰も……いない?」


 棚はそのまま。商品も残っている。

 荒らされた様子もない。


「ルナちゃん家行く時、寄った時はゾンビいたんだけどなぁ……」

「えっ?」ルナの動きが止まる。

「あんた、ゾンビいる所に連れてきたの?」

「いや……だって……ここしかコンビニ知らなかったし……」


「はぁ!?」ぴしっと鋭い視線。

「昨日したから私はもう用済みってこと??」

「いやいやいやいや!!」全力で否定する湊。

「出来たら今日も明日もしたいし!!」


「はっ、いやっ!!そんなこと大声で言うな!!」

 しん、と静まり返った店内に響くツッコミ。


 数秒の沈黙。


「……ま、いいや」ルナがため息をつく。

「誰もいないなら、今のうちに食料調達して帰ろう」

「えぇ、激しく同意します」湊が真顔で頷く。

「長居すると絶対ロクなことない」

「絶対それな☆」二人はカゴを手に取り、棚へと散っていく。


「え、ちょっと待って」湊が棚の前で固まる。

「カップ麺の種類多すぎない?悩む…」


「今それ言う!?好きなの取れよ!」

「いやだって人生かかってる選択だよこれ」

「なら、全部取ればいいでしょ!誰も居ないんだから」「おぉ、ルナちゃん天才かよ!」


 バサバサとカゴに詰めていく。


「ねぇ?お菓子も持ってく?」

「持つに決まってるでしょ。甘みのメンタルケア大事」

「さすがプロ」「でしょ〜?って、あんた何のプロって意味かな??」「えっ…ヌキの…“ストレスの”…もしかして怒った?」

「あはは!嘘、怒ってない☆」


 どこか楽しそうな空気。

 けれど、その瞬間だった。


 ぐいっ。「えっ、」

 湊がルナの手を引き、床に押し倒す。

「こらっ!痛いよ!急に発情すんな。ちょっと家まで我慢できないの、ここじゃ嫌だ、、」口を、手で塞がれる。


「……っ」湊の目は真剣だった。そのまま、外を指差す。


 ガラス越し。ふらふらと、動く影。

「……っ……」二人は息を止める。


 静かに、ゆっくりと体勢を低くする。

 外には、数体のゾンビ。

 そして「……やばっ……」ルナが小声で呟く。

「やばいって……あれ……さっきの警官じゃん……目バッキバキじゃん……」


 その瞬間。湊が、ぐっとルナの顔を引き寄せた。


「んっ……!?」唇が、強く重なる。

「ん、んんっ……ぷはっ……!」

 離れた瞬間、ルナがとろんとして睨む。

「何で!?何で今!?」「いや……」湊が小声で言う。

「死ぬかなって思って……そしたらキスしたくなった……」「馬鹿!!」ぺしん、とチョップ。

「今は帰ること考えろ!!」「はい……」

 

 小声で怒られながらも、カゴを持ち直す。

 そして、湊はルナを棚の陰へ押しやる。


「ここで待ってて」「えっ……」

「ちょっと行ってくる」立ち上がる。

 ルナが、咄嗟に腕を掴む。

「ダメ……やっぱ、危ないって……」


 一瞬の間。湊は、、にっと笑った。そして、外へ。


 自動ドアがゆっくり開く。

 ゾンビのすぐ横へ、堂々と立つ。

 そのまま、くるっと振り返り、、ピース。


「……はぁ!?マヂか…無敵すぎ…」

 ルナが思わず声を漏らす。


 次の瞬間。ガンッ!!ガガンッ!!

 湊が近くの看板を思いきり蹴り飛ばす。

 大きな音。ゾンビたちが一斉に反応し、音の方へ殺到する。


「うわっ、マヂで行った」


 湊はさらに音を立てながら、別の建物の方へ走る。

 ゾンビたちは完全にそちらへ引き寄せられる。


 数分後、静寂が訪れる。

 そして、ひょこっと戻ってくる湊。


「ただいま〜」「……あんたさ……」

 ルナが呆然とする。

「かっこよすぎでしょ……♡」

「え、マジ?かっこよかった?」にやっと笑う湊。

「あははっ!よし、さぁ帰ろう!」

「死亡フラグからの切り替え早っ!!」


 二人はカゴを抱え、そのまま外へ飛び出す。

 走る。笑いながら。世界は終わり始めているのに。

 まるで、ただの買い物帰りみたいに。



            続

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