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第26話 【助けに来たのに助けられて、気づけば俺だけ買い出し担当でした】


 豪鉄は軽トラの前に立ち、ゆっくりと革手袋を引っ張った。「よし」低い声。「お前ら!道が開いたら行け」豪鉄が振り返る。「儂はそのあと行く。心配するな」その顔には、妙な説得力があった。というか、ほぼラスボスの顔と背景だった。


「……いや、心配っていうか」湊がぼそっと呟く。「逆にゾンビが心配になるタイプだよね」「ぐははっ!そうかもな!」豪鉄は笑いながら軽トラへ飛び乗った。エンジンが唸る。ブロロロロロロッ!!次の瞬間、アクセル全開。タイヤが音を立てて煙を上げる。


「おぉぉぉぉぉ!!」豪鉄の叫びと共に軽トラがゾンビの群れへ突っ込む。プァァァァァァァン!!クラクション。そのまま市役所前を、ネズミ花火みたいにぐるぐる回り始めた。その音にゾンビが吸い寄せられる。集まる。巻き込まれる。吹っ飛ぶ。

「ぁぁぁぁぁ!?」「ぅぅぅぅ!」バコン!ゴシャッ!次々とゾンビが跳ね飛ばされる。


湊が遠目にその光景を見ながらぽつり。「だから……やることがワイスピなんだって……」ルナが苦笑した。「あはは、もうここまでくると豪鉄さんドゥインファンだろ!」その時だった。「あっ!湊!」ルナが指を差す。市役所裏手。ゾンビが薄くなっている。

「ほら!あそこ行けそう!」「よし!」湊が走り出す。「みんな行こう!」サヤカが頷く。「はい!」「わぉん!」チビも吠える。三人と一匹が一気に走り出した。


◇◇◇


 裏手へ回り込む途中。角を曲がった瞬間。「ぁぁぁ……」二体のゾンビが現れる。「「うっ!」」湊とルナが反射的に止まる。その瞬間だった。「サヤカ、行きます!」サヤカが前へ飛ぶ。同時に「わぉん!!」チビも跳ぶ。ツープラトンドロップキック。ドゴォォッ!!二体まとめて吹っ飛んだ。

「えっ」湊が目を丸くする。「コンビ技!?」ルナも目を丸くする。サヤカが笑顔で振り返る。「さぁ!行きましょう!」「わぉぉぉん!」「頼もしっ!」湊が叫ぶ。


 その後も道中、何度もゾンビが現れた。だがそのたびに、サヤカの正拳。チビの体当たり。連携は完璧だった。まるで長年組んできた相棒みたいだった。

「いや、チビ強いなあ!」湊が息を切らしながら叫ぶ。「うちのチビちゃん、可愛いだけじゃないんですよ」サヤカが笑う。湊も笑ってチビを見る。「あははっ!見れば分かる!」


◇◇◇


 そしてついに、市役所裏口へ辿り着いた。鉄扉。中から何かを押さえている音がする。湊が叩く。ドンドンドン!!後ろから迫るゾンビの集団。

「開けてー!!」ルナも続く。「早く開けてー!!」後ろのゾンビまで集団に対して、構えるサヤカとチビ。数秒の沈黙。そのあと、ガチャッ。少しだけ扉が開く。中から、自衛隊服の男が顔を出した。「早く中へ!!」「行くよ!」三人と一匹は一気に滑り込む。扉が閉まる。ドンッ!!外からゾンビがぶつかる音。だが中は一瞬だけ静寂だった。自衛隊の男はすぐ無線機を取る。

「こちら市役所防衛線!」荒い息。「生存者三名と一匹確保!」少し間を置き、「繰り返す!生存者三名と一匹確保!」その声が市役所内に響く。湊はぽかんとした。そして隣のルナを見る。「……ルナちゃん?」「ん?どうした?」「なんかさぁ〜助けに来たのに……助けられたみたいになってるよ?」湊が首を傾げる。ルナは数秒考えたあと、「……ん〜」腕を組む。「確かに!」「だよね!?やっぱそうだよね!?完全にゾンビに追われて逃げてた市民だよね!?」「落ち着け!興奮してゾンビみたいな目になってんぞ!」その場違いな会話に、サヤカが吹き出した。緊迫した空気の中で、少しだけ笑いが生まれた。


 だがその奥には、疲れ切った百人近い人々の顔があった。そして湊は知る。ここが、本当の地獄の入口だったことを。


◇◇◇


 市役所の中へ入った湊たちは、ようやく息をついた。だが、安堵できる空気ではなかった。床には毛布を被った市民たち。泣く子供。怪我人。壁際で眠る老人。疲れ切った顔ばかりだった。誰もが限界だった。湊はその光景を見て、表情を少し引き締めた。さっきまでの軽口が嘘みたいに消える。湊は近くにいた自衛隊服の男へ歩み寄る。

「状況は?」男が顔を上げる。「……え?」「今、何が足りてない?」真っ直ぐだった。「必要な物は?」男は少し驚いた顔をする。軽い頼りない男だと思っていた。だが、湊のその目は真剣だった。


「……私は大和です」短く名乗る。「状況は良くありません」大和が周囲を見る。「突然ゾンビが襲って来て、もう三日……昼夜問わず戦っています」声が重い。「食料も少なくなってきた。水も足りない。薬もない」俯く。「正直……このままではいつまで持つか……」その言葉に空気が沈む。湊は数秒考えた。そして口を開く。「俺、湊っていいます」大和が見る。「俺一人なら食料調達くらいできます」「……は?」「リヤカーとかあります?」大和の顔が固まった。

「……失礼ですが」眉をひそめる。「この状況の外をリヤカーを押して食料調達に行く、と?」「はい」「無理です」即答だった。

「いや俺なら行けます」「無理です」「行けます」「無理です!」「だから行けるんだって!」「行けません!市民の安全が我々の最優先事項であります!」二人の押し問答が始まる。その様子を見たルナが額を押さえる。

「もう……」そして割って入った。「湊なら大丈夫なんだって!」大和が振り向く。「早くリヤカー用意して!市民の安全が最優先事項何でしょ?」「いやだからと言って一人の命を危険に晒すなんて……」


 その時だった。ガラガラ。廃材を組み合わせた手作りのリヤカーを引きながら、中年の男が現れた。無精髭に日に焼けた顔、太い腕。「盗み聞きで悪いな」低い声だった。「話は聞かせてもらった」男はリヤカーを叩く。「即席だが、俺が作った」少し誇らしげだった。「使ってくれ」湊の目が輝く。「うわっ!すげぇ!」「だろ?聞いてくれ!持ち手には長く持てる様にスポンジを巻いてある。荒れた道も押せる様にサスペンションも付けた。そして何より拘ったのは…このタイヤとホイールよ!!」と指差す。「あはは、ありがとうございます…かっこいいです…ね」と湊苦笑い。


 そしてガシッと持ち手を掴む。「ありがとう!」男は鼻を鳴らす。「工務店やってたんだ。こういうのは得意でな」ルナが小さく笑う。「頼もしい〜!こだわり強すぎるけど…」湊は頷いた。「オッケー!」リヤカーを引く。「んじゃ行ってきます!」そのまま裏口へ向かう。


◇◇◇


「ちょっと待って!」ルナが追いかけてきた。ぽこん。湊に肩パン。「ん?」湊が振り向く。「……ちょっと、かっこよかったじゃん♡」ルナが笑う。

「えっ」湊が止まる。「うそ、今の?」「うん、大人っぽかった。いつもの甘々湊じゃなかった♡」「じゅわっとした?」「バカ♡」湊の顔がにやける。

「でも、まじ?」「まじ♡」「どんぐらい?」「えっ?じゅわってするぐらい♡」「えっ?ほんとに見ていい?」「えっ?ここじゃダメでしょ?」そのまま二人のイチャイチャ空間突入。見守るサヤカ。真顔のチビ。イチャイチャ眺める事数秒後。「……ゴホン」サヤカが咳払いした。「あの〜……急いだ方が……」チビも白目で見ていた。「あっ……すみません」「ごめん♡」二人同時だった。


 湊が扉へ向かう。するとまたルナが呼ぶ。

「湊!」「ん?」ルナが近づく。そして、、ぎゅっ。湊の顔を自分の胸元へ埋めた。「これ、ご褒美とお守りね♡」「むふっ!?」柔らかい。暖かい。そしていい匂い。湊はそこで思いっきり深呼吸した。すぅぅぅぅぅぅ。「よしぃぃぃぃ!!」顔を上げる。完全に目がガンギマっていた。「おっしゃぁぁぁ!!」拳を握る。「スーパーエリートパシリ!行ってきます!!」勢いよく扉を開ける。そして外へ飛び出した。バタン!!残された大和はぽかんとしていた。そしてルナを見る。「……本当に行かせちゃって大丈夫なんですか?」真顔で聞く。その顔を見てルナは大笑いした。

「あははっ!」涙を浮かべながら。「大丈夫、大丈夫!」肩を叩く。「だって、、」ニヤッと笑う。「あいつ、見えないんだもん☆」「…………は?何が?」その時大和の思考は止まった。


◇◇◇


 外へ出た湊は、鼻歌混じりでリヤカーを引きながら書いてもらった地図を見て、静かな街を進んでいた。


 周囲にはちらほらとゾンビ。市役所の方に向かっている。呻き声。血痕。壊れた車。終末そのものの景色。だが湊だけは、いつもの買い出しみたいな顔で歩いていた。

「ん〜……」リヤカーを引きながら辺りを見回す。

「食料、水、薬……」指折り数える。「こういう時って何がいるんだろ」少し考える。「まぁ全部持ってけばいいか!」結論が雑だった。しばらく歩いた先に大きな看板が見えた。『ドラッグストア』「おっ」湊の顔が明るくなる。「あったあった!書いてもらった地図通りだ」リヤカーを止める。自動ドアは壊れて半開きだった。そのまま中へ入る。


◇◇◇


 店内には数体のゾンビがふらふらしていた。

「ぁぁ……」「ぅぅ……」だが湊には反応しない。「いらっしゃいました〜」普通に入店。買い物カゴをリヤカーに乗せる。「おにぎり〜、カップ麺〜、栄養バー〜」ぽいぽい積む。「水〜、スポドリ〜、胃薬〜、消毒液〜」ぽいぽいぽい。「風邪薬もいるかな?」ぽい。「湿布もいるか?」ぽい。完全に日常の買い出しだった。リヤカーはみるみる埋まる。「ふぅいぃぃぃ〜箱買いはしんどいねぇ〜」額を拭う。


「取り敢えず一往復でこれくらいか」パンパンのリヤカーを見る。「何往復かすれば、かなり持っていけるな…取り敢えず一服するか…」缶コーヒーを手に取りタバコに火をつけたその時だった。


 店の奥。一ヶ所だけゾンビが固まっている。

「ん?」湊が首を傾げる。「なんかあるのかな?」近付く。ゾンビが数体、バックヤードの扉を叩いていた。ドンドン。ガンガン。「ぉぉぉぉ」「……」湊は無言で近付き、ぺしん。ゾンビの頭を叩く。

「ほらっ」ぺしん。「どきなよ」ぺしん。「邪魔邪魔」ぺしん、ぺしん。押し退ける。ゾンビたちは不満そうに呻きながら少し避けた。湊は扉の前へ立つ。


 コンコン。「誰かいますか〜?」中が静かになる。「助けますか〜?」数秒後。中から男の声。「い、います!」声が震えていた。「子供といます!」切羽詰まった声。「助けて欲しいです!」湊が目を丸くする。「おぉ、本当に居たんだ…居たらいたで面倒臭いやつぅぅぅ!」そして軽く言う。「オッケー!静かにちょっと待ってて」扉越しに返す。


 荷物を見る。「ん〜取り敢えず、これ置いたらまた来るから!」そのまま去ろうとする。「はぁ!?」中から叫び声。「おいっ!嘘だろ!?ちょっと待てよ!」ドンドン!!「そこにゾンビいるのか!?もう扉開けていいのか!?」その大声にゾンビが反応する。ドガァン!!扉へ体当たり。「ひぃぃぃっ!!」「きゃぁぁぁ!」中の男と子供が悲鳴を上げる。「いるのかよ!!なんであんた無事なんだよ!!」パニックになる。湊が振り返る。少しイラッとした。

「うるせぇなぁ!!静かに待ってろって言ってんだろ!」店内が静まる。「大変なのはお前だけじゃねぇんだわ!また必ず来るから!絶対扉開けずに待って…」そう言ってリヤカーを引いて出て行った。


 扉の中。シーン。「「……」」男も子供も固まっていた。「お父さん……怒られちゃったね…」「うん…怒られた…」二人で小さく呟く。


◇◇◇


 その頃、市役所。中では小さな騒ぎが起きていた。ジジジジ……!!無線機が鳴る。大和が取る。「はい!こちら防衛線!」慌てた声が返る。

『こちら正門!!た、大変です!!』雑音。『革ジャンを着たゾンビが!』「……は?」大和が固まる。『バリケードを登ってきます!!』「なっ!?」『棒で突いても避けられます!!』「避ける!?」『う、うわぁ!!突破されましたぁぁぁ!!』通信が乱れる。


 ブツッ!!「くそっ!」大和が立ち上がる。「みんな!正門に援護行くぞ!!」その瞬間。がしっ。肩を掴まれた。大和が振り向く。ルナだった。ニヤリ。人差し指を立てる。「チッチッチッ」「……は?」「たぶんその革ジャン、この子のお爺ちゃんだから♡」めっちゃ笑顔でサヤカを指差す。サヤカがぺこりと頭を下げる。「はい…お恥ずかしながら、たぶんお爺ちゃんです」「…………」大和の脳が止まる。数秒。そして、、「……なんなんだよ!!」叫んだ。「あんたら何なんだよぉぉぉぉぉ!!」市役所中に響いた。


 その頃、市役所の正門では、「ぐはははは!!」豪鉄が攻撃してくる自衛隊員と警察をぶん投げながら笑っていた。「どうした?もう終わりか?儂がゾンビならもう噛み付いてるぞ?ぐはははっ!孫はどこじゃぁぁぁぁ!!」完全に元気だった。



            続

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