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第11話 【ゾンビを一ヶ所に集めたら推しとホームセンターデート出来たんですけど】


 軍用ジープは、静かな街をゆっくり走っていた。

 ゴゴゴ……と重たいエンジン音。普通車とは違う、地面を踏み締めるみたいな振動が車内へ伝わってくる。


「……ねぇ」助手席のルナがちらっと湊を見る。

「ん?」「あんた、意外と運転上手いのね」

「えっ?ほんと?」湊は少し嬉しそうに笑う。

「まぁ一応、免許取ってから親の車何回か乗ったことあるし」「へぇ〜?」

「でも正直、車デカすぎてちょっとビビってる」「あははっ!」


 ルナは窓の外を眺める。「なんか不思議だねぇ」

「なにが?」「こういう車って、本来ゾンビ倒すムキムキマッチョが乗るやつじゃん」「あ〜、確かに」


「なのにさ、今、中にいるのは?」

「はい。元ニートと元お嬢です」

「あははっ!字面終わってる♡」

「「ぷっ!あははっ!」」


 車内には妙に平和な空気が流れていた。

 外では、道路脇をゾンビがふらふら歩いている。

 でも車の中だけは、まるで普通のドライブみたいだった。


「ねぇ湊」「ん?」

「この世界戻ったらさ」「うん」

「ちゃんとあんたと普通にデートしてみたいかも」


「……っ」湊の耳が少し赤くなる。


「な、なんですか急に」「別に〜?」

 ルナはにやにやしている。


「水族館とか?」「いいね」

「映画とか?」「行きたい」

「ラブホとかは?」「こらっ!混ぜ方ぁぁ!!」


 その瞬間だった。


「うわっ!?」道路脇から突然、ゾンビが飛び出してきた。


 ドンッ!!「っえ!?」鈍い衝撃。車体が少し跳ねる。

「うわぁぁぁぁっ!?」湊は反射的にブレーキを踏む。


 キィィィィッ!!ジープが止まる。静寂。


「…………」


「……ルナちゃん」「……うん…」

「俺……やっちゃった……」湊の顔が青い。


「死んじゃったかな……」「ゾンビ?人?」

「えっ」「どっち?」「……ゾンビ…であって欲しい…」「ゾンビなら二回目じゃん…ならセーフ?」

「あっ、そっか…カウントはセーフか?」妙に納得する湊。


「警察呼ぶ?」「終末世界にまだ交通課いるかなぁ!?」


 すると次の瞬間。ドンッ!!


「うわっ!?びっくりしたぁ!」

 窓に、さっき轢いたゾンビが思い切り張り付いた。


「ぅぅぅぅっ!!」「近ぁぁぁっ!!」

 血まみれの顔がガラス越しに迫る。


「湊っ!!」「うわっ、はいはいはい!!」

 湊、パニックでアクセルを踏む。


 グォォォンッ!!ジープが急発進する。


 窓にしがみついていたゾンビが、「ぅぅぅぉっ!?」ゴロゴロゴロォォッ!!道路へ転がっていった。


「…………」「…………」


 走り出して数秒後。ルナがぽつりと言う。


「……湊」「……はい」

「あんた意外と大胆ね……」

 湊はハンドルを握ったまま、真顔で頷いた。


「うん。漢だからね……」「どこで漢見せてんのよ!!」「あはははっ!!」

 終末世界の道路に、二人の笑い声とジープのエンジン音が響いていた。


◇◇◇


 ジープは、終末世界の道路をゆっくり走っていた。

 重たいエンジン音。ガタガタ揺れる車体。

 その中で、ルナがじわじわ笑いを堪えていた。


「……っ、ふふっ……」「なに?」

「いや……思い出し笑い……」


「え?」「さっきの。“ルナちゃん…俺、やっちゃった……”がツボで……」

「あぁぁぁっ!!やめて!蒸し返さないで!!」


 ルナは腹を抱えて笑う。

「だって顔が完全に“人身事故起こした人”だったもん!」「いや!だって初めて轢いたし!!」

「普通、“初めて轢いた”って人生で使わないのよ♡」


「あははっ!いやでもマジで焦ったんだって!」

「しかも“死んじゃったかな……”って」

「だってワンチャン人かもしれないじゃん!」

「いや、窓に顔面ぶつけて“ぅぅぅ……”って言ってたじゃん」「ゾンビ確定演出だったね……」


 ルナは笑いながらシートへ沈み込む。


「でもさぁ」「ん?」

「あんた最後、急にアクセル踏んだよね」

「うん」「ちょっとカッコよかった♡」

「えっ?」湊が一瞬固まる。


「え、マジ?」

「うん。“うおぉぉぉ!!”って。俺が守るんだぁって感じでね」「いやあれ半分パニックだったんだけど」

「でもゾンビ吹っ飛んでった時ちょっと惚れたよ♡」

「ほんと!どれくらい?」「うん。ほんの2ミリくらい」「薄っ!!」「「あははっ!」」

 

 車内に笑い声が響く。窓の外では、壊れた街が流れていく。なのに、この車の中だけ妙に明るかった。


「……でもさ」ルナがふと外を見ながら呟く。

「ん?」「これから長く生活するなら、色々必要じゃない?」


「色々?」「サバイバル用品的なやつさ」

「あ〜……確かに」湊も少し真面目な顔になる。


「水タンクとか発電機とか?」

「あと工具もあるといいよね!」

「武器っぽいのも欲しいかも……」

「うわっ、終末感出てきた」


 二人は顔を見合わせる。

「てことは……ホームセンター?」

「うん。ホームセンターだね」


 そのまま道を確認しながら、近くの大型ホームセンターへ向かうことになった。


◇◇◇


 数十分後。「……うわぁ」ホームセンターが見えてきた瞬間、ルナが顔をしかめた。


 巨大な駐車場。割れたガラス。放置された車。

 そして、その間をふらふら歩き回る大量のゾンビ。


「治安悪っ……」ルナが真顔で呟く。

「コンビニ前のDQNより入りづらいんだけど……」


「うん……」湊も苦笑する。

「お店変える?」「いやぁ……でもあんまりウロウロしてガソリン減るのもヤバくない?」「それなんだよねぇ……」ジープの中からそっと様子を伺う。


 入口付近には数体。駐車場にもちらほら。中にも確実にいる。


「ん〜……」湊が少し考え込む。そして、ぽんっと手を叩いた。


「あっ、そうだ」「ん?」

「ルナちゃん、ちょっと待ってて」「えっ?」

 湊がニヤッと笑う。

「俺がゾンビ一ヶ所に集めて、中見てくるから」

「おぉぉぉ!」ルナの目が輝く。


「さすがゾンビチート!便利!!」「でしょ?その後ホームセンターデートしよう!」「ホームセンターデートって、でも気を付けてよね、あんた死んだら私もここでゲームオーバーなんだから!」「うん!わかった!」湊はドアへ手をかけながら、ふっと笑った。


「戻ってきたらホームセンターデートだからね♡」

「……」ルナがじーっと顔を見る。

「えっ?……なに?」「いや……」「うん?」

「今、顔エロかったなぁって思って…」

「えっ?なんで!?そんな顔してた?」

「あははっ!」ルナは声を上げて笑う。

「失礼な!…でも、ワンチャンある?」「ありません!私はベッドが好きです♡」と二人で笑いながら湊は車を降りた。


 そして、終末世界のホームセンターへ向かって歩き出す。


◇◇◇


 ホームセンターの駐車場。湊は、わざと足音を鳴らしながら歩いていた。


「よ〜し……ゾンビちゃん達〜……」カンカンッ。近くのカートを蹴る。「は〜い!集合で〜す」


 その瞬間。「ぅぅぅ……」「ぁぁ……」

 周囲のゾンビたちが、一斉に反応した。

「うわっ、来た来た」湊は笑いながら後ろへ下がる。 だが、やはりゾンビたちは湊本人を認識できない。

 音だけを頼りに、ふらふらと集まってくる。

「ははは、ほんと便利能力だなこれ……」


 遠くでは、ジープの中からルナがこっそり覗いていた。

「……」湊と目が合う。すると湊、急にニヤッと笑った。


「……あっ、あいつ絶対ロクでもないこと考えてる顔してる」ルナが嫌な予感を覚えた、その時だった。


「よいしょっと」湊は突然、近くのゾンビの後ろへ回り込む。「ぅぅ……?」ゾンビ、きょろきょろ。

 その背後で湊は、ゾンビの腕を勝手に持ち上げた。


「はいっ♪」さらに別のゾンビの腕も掴む。


 二体のゾンビの腕を動かしながら、「おいおい!そこは口じゃありませんよぉぉ!」謎の二人羽織みたいなことを始めた。

「ぶっ……!何やってんだ」ルナが車内で吹き出す。


「ぅぅぅ……?」ゾンビ達は状況を理解できず、ふらふらしている。

「いやほんと何してんのあいつ……」さらに湊は調子に乗る。「ほらほら〜、ゾンビちゃん〜」ぺちぺちと頭を軽く叩く。


「ぅぅ!?」「っはははは!!」湊、大爆笑。

 そのまま今度は、歩いてくるゾンビへ足をひっかけた。ぐでっ。「ぅぁぁ……」ゾンビ転倒。

「うわっ、こけた!!」湊、自分でやっといて手を叩いて爆笑。


「最低っ……性格悪っ!」ルナが呆れた顔で笑う。

 ゾンビは起き上がろうともがいている。


「頑張れ!頑張れ〜!俺は君を応援しているっ!!」湊が実況し始める。

「世界初、ゾンビ転倒からの起き上がりRTA開催中で〜す」「バカ!ほんと不謹慎!!」

 だがその間にも、駐車場中のゾンビたちが少しずつ湊のいる方へ集まっていく。


 入口付近。店内。駐車場。どんどん一ヶ所へまとまり始めていた。

「……おっ」湊が周囲を見る。「これ、だいぶ集まったな」するとジープの中のルナが、窓越しに必死にジェスチャーする。


 “早く行け!”“中見ろ!”

「はいはいっ」湊が苦笑する。「保護者の圧が強いって〜」ルナはじとーっと睨む。湊は照れ笑いしながら、最後に近くの看板を蹴った。


 ガァンッ!!「ぅぅぅぅ!!」ゾンビたちがさらにそちらへ集まる。

「よしっ」湊は満足げに頷くと、そのままホームセンター入口へ音を鳴らしながら駆け込んだ。それに着いて行くように動くゾンビ達。


◇◇◇


 数分後。コンコココンコン♪とジープの窓が叩かれる。


「っ!?」隠れていたルナがびくっと肩を震わせる。恐る恐る窓の方を見る。そこには、ニコニコ顔の湊。


 しかもカートいっぱいに、工具箱。ランタン。ガムテープ。謎のバーベキューセット。

「……」ルナがゆっくり窓を開ける。ぴょこっ。

「アホ!雪だるま作ろ〜♪じゃないんだよっ!!」

「あはははっ!!分かった?」湊は満面の笑みで懐中電灯を出して言った。「さぁ、お姫様、お迎えに来ましたよ♡ホームセンターデート行きましょ♡」

 ルナは呆れた顔をしながらも、少しだけ笑って懐中電灯を受け取り外に出た。



            続

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