第20話 運ぶ人の背中を、荷物扱いするな
「乗って。綱は自分で持って」
エダが台車の取っ手を上げた。
荷重抜きの車軸。
石を載せて試したばかりの、あの地味な遺物だ。
「荷物扱いが雑だな」
「荷物なら、しゃべらず乗る」
俺と脚立を載せても、車輪は軽く動いた。
エダは床の赤い線を避け、壁の手前へ台車を入れる。
棚から飛び出した木片を、ゼンが槍で払った。
「護衛はこっちだ。荷車を止めるな!」
床が鳴る。
台車の後輪が浮き、俺の身体が傾いた。
反射で足をつきそうになる。
「降りるな!」
エダの声に、俺は綱を握りしめた。
彼女が取っ手を斜めに引く。
車輪は上がった石の縁を滑り、横の平らな床へ戻った。
軽くなる車軸でも、道は選べない。
選んでいるのは、毎日荷を運んできた人間だった。
壁の前で、脚立を立てる。
ゼンが上へ登り、向こう側へ綱を垂らした。
俺は横から覗き込む。
従業員二人は、壁際で肩を寄せていた。
奥の石壁が、ゆっくり押し出されている。
「上がれ! 一人ずつだ!」
若い方が、もう一人を先へ押した。
年嵩の男は足をひきずっている。
ゼンが綱を下ろし直し、身体へ巻かせた。
「腕だけで上ろうとするな。足を壁へ当てろ!」
男の身体が、少しずつ上がる。
向こうの壁が、彼の踵をかすめた。
俺が上着をつかむ。
ゼンが肩を引く。
二人で壁の上へ引きずり上げた。
次の若者は、綱を握れなかった。
指が小刻みに震えている。
「下を見なくていい。俺の靴だけ見ろ」
ゼンが言った。
急げとは言わない。
若者が顔を上げるまで、綱を動かさなかった。
俺は上から盾を下ろした。
受ける力を分散する光が、風の一部を逸らす。
魔石が熱くなる。
一息。二息。
すぐ戻し、エダの濡れ布へ渡す。
若者の手が、ようやく壁の縁へ届いた。
その腕をつかんだとき、俺の古傷が軋んだ。
力を抜きかける。
ゼンの手が重なった。
「一人で持つな」
俺たちは男を引き上げた。
背後で、二枚の壁がぶつかった。
もう、そこに人はいなかった。
◇
二人を載せた台車を、エダが出口へ運ぶ。
ノルは俺の肩で、八人分の退避状況を数えていた。
『庫内残留、保守者一、検分者一、護衛一』
俺とリシェと、ゼン。
セラが入口から呼ぶ。
「もう戻ってください。人は出せました!」
そのとき、奥の棚が傾いた。
金属の器が格納台から滑る。
床へ落ちる寸前、光って元へ戻った。
また滑る。
また戻る。
帰庫の力が、同じ一つを何度も運び直していた。
棚の魔石が、赤くなっていく。
その隣には、別の保管品。
連なった三百十二点。
「止めないと、どこまで行く?」
俺の問いに、ノルが答えた。
『隔離容量、限界に接近。庫外への影響を否定不能』
丘の下には、道があった。
今日も荷車が通っていた。
俺たちだけ外へ出れば、それで終わる事故ではない。
リシェが、俺の横へ立つ。
「戻るなら、三人で。何を止めるか、先に決めて」
俺は図面を広げた。
欲しかった王冠の印に、指が重なる。
次話、王冠と管理台。何を拾い、何を置いていくかを選びます。




