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捨て値の呪物を買い漁る俺、外した呪いで無双する〜誰も使えない神話級遺物、俺だけ全部使えます〜  作者: 渋谷 爽月
第2章 三百十二点、全部訳あり

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第19話 その鍵を、勝手に回すな

 事故の音は、意外なほど小さかった。


 かちり、と。

 どこかで錠が回ったような音がしただけだった。


 その直後、ノルが俺の肩から飛び立った。


『保守電源の切離しを検出。予備接続、未完了』


 管理区画の灯りが消える。

 床の青い線が、今度は赤く光った。


 俺は工具を置いて走った。

 裏側の通路に、エルンがいた。

 手には小さな鍵。

 封をした箱の木片が、床へ落ちている。


「何をした!」

「何も壊していない。電源を切っただけだ!」


 男の声は、もう平静ではなかった。

 背後の従業員が、震える声で言う。


「記録を止めるだけだって。昨日の件が、出資者に知られたら困るからって」


 エルンが振り返った。

 その隙に、ゼンが男の腕を押さえる。

 鍵が落ちる。

 セラが拾おうとした瞬間、床が上がった。


「退け!」


 ゼンがセラの肩を引く。

 管理台の手前に、石の壁がせり上がった。

 王冠が指示したときより、ずっと速い。


『隔離運転へ移行。過熱品を封鎖。未登録の動体を退去させよ』


 ノルが警告する。

 奥で、従業員の声がした。

 二人とも、壁の向こうへ取り残された。


「レイ、鍵を戻せるか!」

「ここからじゃ届かない!」


 義眼を覗く。

 壁の表面だけでは、向こう側は見えない。

 薄い床の継ぎ目を追い、線の集まる場所を探した。

 青い流れは、まだある。

 電源を切ったから、すべての力が消えたわけではなかった。


 格納台へ溜まった魔力が、一斉に別の場所へ逃げ始めている。

 安全な経路がない。

 逃がすための風が、棚の間を唸った。


「まず、全員出口へ!」


 セラが叫んだ。

 帳面を置き、俺たちの名前を一人ずつ呼ぶ。

 返事を数える。

 庫内にいたのは、俺たち五人とエルン、従業員二人。

 八人。


 二人分の返事が、壁の向こうからした。


「戻せるでしょう。あなたなら、あの呪いを」


 エルンが俺へ顔を向けた。

 俺は一瞬、殴りたくなった。

 その手で工具を握り直す。


「戻す。でも、あんたの失敗をなかったことにはしない」


 ゼンが男を入口へ連れていく。

 エダが空の運搬枠を並べ、退路の床を確かめていた。

 リシェは帳面を拾うより先に、壁の向こうへ声をかける。


「熱い所はある? 息はできる?」


 男たちが答える。

 足は動く。息もできる。

 ただ、もう一枚の壁が、奥から近づいている。


 ノルが管理台へ飛んだ。

 だが、途中の風に押し戻される。

 翼を閉じ、俺の足元へ落ちた。

 拾い上げると、金属の胸が熱かった。


『隔離完了まで、保守接続を維持不能』


「何分ある?」

『確定不能』


 都合のいい残り時間は、教えてもらえなかった。

 俺は壁の上を見た。

 天井までは、まだ空いている。


「エダ。脚立、もう一度出せるか」


 彼女は返事の代わりに、車軸をはめた台車を引いてきた。


次話は、壁の向こうに残された二人の救出へ。エダとゼンの仕事が、退路を作ります。

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